【第8話】 リノ、ホストクラブに行く
「これからは板みたいな電話が世界を席巻するよ」
その当時はまだまだガラケーを使われていた世の中で、
僕は工場ではガラケーの基盤を作っていました。
そんな中でその工場の社長が言っていました。
工場で働いている時に社長が来てそんな少し未来の話を聞くのは、
見たことない世界を見ているようでワクワクしていました。
ただ、、、
流れてくる基盤をプラスチックの側にくっ付けて、
ガラケーを完成させるという、
退屈極まりない仕事でした。
それを夜中から朝までかなり長い時間やっていると、
自分がなにをやっているか、起きているのか寝ているのか
わからない状態になっていっていたのです。
これはロボットにやって欲しい仕事だなぁと思って段々と嫌でしょうがなくなっていきました。
でも時給ある程度いいしなぁ、どうしようかなぁと思ってたら
「それなら良い仕事あるよ」
と中国人の友達に言われて呼ばれた場所に行ってみました。
怪しげな雑居ビルに入って重々しいドアを開いてみると
そこはなんと、ホストクラブでした。笑
人生で初めてホストクラブの面接に臨みました。
待っていたのは細身のスーツと細いネクタイ、
髪の毛は襟足が長く頭のてっぺんはこんもりと盛り上がっていて、
目尻が少しつりあがっていて眼光が鋭い黒いオーラをまとった20代後半の男でした。
つらつらと接客の話だとか、コールの話とか、身なりの話だとかをされて
「とりあえず頭のてっぺんからつま先までトータルコーディネートしてやっから、30万は用意してこいよ」
鼻にかかる声で声高々に笑いながら言い放ちました。
うわ、ちょっとやだな。
率直な感想です。
そして次の瞬間に同じような髪型をした下っ端面のホストが僕の顔の大きさくらいのジョッキになみなみと注がれたビールを4つ持って来て
「ほら、お前らこれ飲んでみて。ホストはこれくらい飲み干せないとやってけねぇんだよなぁ。」
これは飲まざるを得ない状況。
ちょっと昨日あんま寝てないから調子悪いんだよなぁ。
と思いながらぐいっと飲み始めました。
一杯目はなんとか飲み干せましたが、二杯目に口をつけたくらいから、
一杯目に飲んだビールの炭酸が食道を少しずつせり上がってくるのがわかって、少し嗚咽感を覚えながら、それでも二杯目飲み干せないとこのいけ好かない奴に嘲笑われることに少しイラつきを覚えながら我慢して飲んでたら、
あ、やばい
と思った次の瞬間に飲んでたビールが全部逆流してきました。
「きったねぇなぁ。もうお前はさっさと帰れ」
澄ました顔をしてそのジョッキを飲み干した友達の隣で、
ホストクラブの床に這いつくばって息を整えながらなんとか立ち上がり、
僕はその店を出ました。
ホストになってもお金はいいだろうけど、たぶん身体壊すだろうな。
しかもあの店長はいけ好かないから、まぁいいか。
赤く染まった夕方の空の下、まだ少し食道にせり上がってくる暑い感じを抑えながら、家に帰った。
ちなみにその友達はその面接に受かり、どんどん指名を付けていき今でもホストをやっています。
ただ毎晩お酒を浴びるように飲んでいるので、最近は精神安定剤を飲まないと寝ることもできないみたいです。
そんなこんなで夜の工場はまだちょっと続けることにしました。
ただもう少しで日本語学校も卒業になって、ITの専門学校に通うことにしようとしてました。
その専門学校は朝中心に授業があって、あまり夜の仕事は出来なくなっていきそうだったので、その時までにはやめようと思っていました。
なんでITの専門学校に行こうかと思ったかというと、当時インターネットバブルの全盛期だったんです。
ITの企業で働けるようになればお金持ちになれると、思い込んでいたのです。
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