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「知らない」という姿勢について

 ブリーフセラピーでは、本人に対して、絶え間なく純粋な好奇心を向けて、「もっと、あなたのことを知りたい」という態度で話を聞き続けることの重要性が至るところで指摘されています。

 これは、言外に「あなたには、自分の問題を自分の力で解決する力が、既に備わっているのよ」というメッセージを発するものとも言え、とてもエンパワーメント効果があると思います。また、子どもの意見表明権の意義を説明するときにもよくお伝えしますが、「当事者がいかに幼く、あるいは何かハンディがあるように見えても、とにかく、本人のことは本人が一番の専門家。本人に聞くに勝るものなし」なのです。

 では、どうすれば、臨床家は、「私は知っているのよ」アピールを封じ込んで、知らない姿勢を貫くことができるのでしょう。

 (随時、更新・修正予定)

1 解決構築の耳で傾聴する

 ポイントは、
 ①臨床家が、本人の思考の枠組みの重要な部分、特に重要な人物と事柄に早く気がつくこと。
 ②臨床家は、自分の思考の枠組みを一旦離れ、本人から発せられた言葉について、いちいち評価する傾向をやめること。
 ③臨床家の観点から早急に問題解決に走ろうとしないこと。

2 よい質問を生み出すことが臨床家の役割

 臨床家は本人に質問し、本人からの答えを傾聴する。そして、傾聴した答えから、新たな質問が生み出される。
 良い質問を産み出すのが、臨床家の仕事であり、それに答えるのが本人の仕事である。
 臨床家の発する質問は、臨床家の意図や見立てを自ずと浮き彫りにする。
 例)「あなたは、その問題を解決するために、〇〇に相談したことはありますか?」
 →「その問題を解決するためには、まずは〇〇に相談すべきだ」という臨床家の意図

 質問は、本人が語った最後の答え、キーワードの中から作る。
 そうすることによって、本人の思考の枠組みにフィットした違和感を与えない質問が生み出される。
 *「キーワード」は、本人の「経験」に対して、本人自身が付け加えた「意味」を表現するための言葉。
 例)「私の毎日は、本当にめちゃめちゃなの」

 「神は細部に宿る」誰が、誰に対して、いつ、どこで、何を、どのように?詳細な情報を得るための質問をする。
 細部を尋ねていくことで、隠れているリソースを見つけられる。
 ただし、「なぜ」は、問わないこと。
「なぜ」を問う質問は、本人の行動について潜在的な原因を分析するように迫る。このプロセスは、臨床家によって、本人が自身の抱える問題との対決を迫られたり、裁かれたりするというプレッシャーを与えかねない。

 質問をする際には、オープンクエスチョンの方が解決構築には望ましい。
 クローズドクエスチョンが、本人の視野を狭めるのに対し、オープンクエスチョンは、認識の範囲を広げ、さらには、本人の態度、思考、感情を広く尋ねることができる。
 何よりも、オープンクエスチョンは、「私たちは、本人について何も知らない」という姿勢と整合する。

例)
 「門限を伸ばしてほしいと両親に頼んだことがある?」(クローズド)
 →「門限を破った後、両親とどんなことがあった?」(オープン)

3 要約

 要約とは、折に触れて、本人の思考、行動、感情を伝え直す作業のこと。
 本人の用いた言葉を用いて、写実的で率直な要約をすることで、本人に対して、さらなる話を促す効果がある。
 また、臨床家により適切に要約されると、本人は「しっかり聴いてくれてる」と感じることができる。本人は、臨床家が自分の言葉を真に理解してくれていると信じない限り、臨床家が自分の役に立つとは信じない。
 また、臨床家が要約を試みて、自分の認識が正しいかを本人に確認することを通じて、本人は、自分に関する経験をどのような言葉で説明するべきかをコントロールすることができる。
 そして、適切な要約には、傾聴が必要となり、臨床家にとっては、聴きながら評価する傾向に歯止めをかけることになる。
 今後、言い争いになりそうな場面では、まずは前の発言者の発言の要旨や思いを適切に要約した後でなければ、発言しないようにしてみるとよい。

4 言い換え

 言い換えとは、本人の話したことの本質を短い言葉で明確にフィードバックすること。
 本人の話の趣旨を繰り返しながら、解決に向けた話し合いへと転換させる契機とする。
 例)ひとしきり、両親との関係における衝突のエピソードを聞いた後で、
「じゃあ、君は、両親との関係で起きることについて、不満があるんだね。どんなことが起きれば、その不満は解決すると思う?」

5 良い効果を及ぼす可能性が高い非言語的態度

 本人は、臨床家が自分の話を注意深く聴いているかに敏感である。では、本人は、臨床家のどういった仕草から、その様子を見極めているか?

 本人に合わせた口調
 視線を合わせる
 時折のあいずち・うなずき
 本人の言葉に応じて、表情を変化させる
 適切なタイミングでのほほえみ 
 時折、手のジェスチャーを使う
 本人との距離感
 ほどほどに言葉をはさむ
 本人の方へ、心持ち体を傾ける

(おまけ)「自己開示」を間違えてませんか?

 自己開示とは、臨床家が自分の感覚と批判的思考能力と考えを、解決構築の道具として使うこと。
 「本人と同様の悲劇を経験した」ことを本人に明かすことは不必要で、むしろ本人自身の解決構築の妨げとなる可能性がある。

(おまけ2)内容と過程の不一致への対応

 ここでいう内容とは、本人が語る言語的メッセージ、つまり本人の苦闘と重要な人物と事柄に関する情報であり、過程とは、本人がそうした情報を伝える際の方法、態度、感情的な側面である。
 辛い話をするときは苦しそうに、楽しい話をするときには笑顔で、多くの場合、内容と過程は整合する。
 しかし、時に「もう私には夫はいらない」と言いながら、涙をこぼしたり、内容と過程が食い違う場合がある。
 こうした場合、臨床家は、要約と言い換えと自己開示の技法を使って、その食い違いに踏み込むこともありうる。

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