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B'zとメル友のお姉さんの思い出。

今では死語なのかもしれないが、人生で一度だけ”メル友”がいた時期がある。メールのやりとりだけをする友だち。決して会うことはない友だち。Mさんという、一つ年上の女性だった。

1999年。大学入学後、僕は京都で一人暮らしを始めた。相棒はデスクトップの自分専用パソコンだった。まだ「ダイヤルアップ」だの「テレホーダイ」だの言ってる時代で、決して通信環境はよくなかったが、そこには未知の世界が広がっていた。

インターネットでB'zのファンサイトを見るのが日課だった。「掲示板」に最新情報が書き込まれ、それに皆がコメントして楽しみを共有していた。時折流れてくる新曲のガセ情報もひっくるめて楽しんでいた。色んなガセが流れたが、『ギリギリchop』というタイトルがどのガセネタよりガセっぽかった。

あるファンサイトの掲示板に『友達募集』のコーナーがあり、そこで出会ったのがMさんだった。一つ上の女性で、もちろん同じB'zファン。僕らはいわゆる”メル友”になった。ただし、携帯のメールではなく、パソコンのeメールでのやりとりだった。

顔も知らない年上の女性とのやり取りが楽しくて、毎日のようにメールを書いているうちに、すぐブラインドタッチができるようになった。季節は夏になっていた。

僕は大阪ドームで行われるB'zのライブチケットが当選し、誰と行くかを決めかねていた。高校時代は男友達と行っていたが、大学生たるもの女子とライブに行きたい。

それなりの勇気を出してMさんを誘った。すると二つ返事でOKだった。初めて女子とライブに行く。それもB'zのライブに。もしかしたら、人生はじめての彼女ができるかもしれない。吊り橋効果的な何かが2人の間に起きるかもしれない。

僕は2つの意味で興奮して当日を迎えた。しかし、僕はMさんに出会った瞬間こう思った。

「顔がタイプじゃない」

なんて失礼な奴なのだろう。こっちから誘っておいて、勝手に脳内で振っている。「顔で判断するなんて最低」「鏡で自分の顔を見てから言え」なんと言ってくれても構わない。とにかく顔がタイプじゃなかったのだ。

顔がタイプじゃないMさんと大阪ドームに入って、目を疑った。チケットの表記ではわからなかったが、座席がアリーナの9列目だったのだ。4回目のB'zライブにして、ダントツの良席だった。

ライブはMさんの顔がタイプじゃなかったこともすっかり忘れて、めちゃくちゃ興奮した。アンコールが『RUN』で終わるかと思いきや『BAD COMMUNICATION』のイントロが流れた時は雄叫びを上げていた。

ライブが終わってその事を伝えると「テンション上がるよねー」とMさんは冷静に言った。Mさんはツアー2回目の参加だったので、曲順を知っていたのだ。

顔はタイプじゃないしテンションも釣り合わないな…と徐々に冷静になった僕は、恋の予感がしていた数時間前のことを遥か昔に感じていた。

その後もMさんとはしばらくやり取りが続いたが、ライブ前ほど盛り上がることはなく、いつ間にかフェードアウトしていった。Mさんにとっても、僕はタイプじゃなかったのだろう。向こうはそもそも恋の予感すらしていなかった気もする。

あれから22年が経つが『Brotherhood』ツアーのDVDを観るたびに、顔がタイプじゃなかったMさんのことを思い出す。

今ではライブはすっかり1人で行くようになった。その方が気兼ねなく楽しめるし、地方遠征もしやすい。なんだか大人になってしまったものだ。

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