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【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう①~」

ユキオは25歳になっていた。

サラリーマンを辞めて、マンガ編集のアルバイトをしていた。
脱サラといえば、聞こえはましだが…実際は仕事に適応できず、
首に近い自主退職であった。

すっかり人生に自信はなくなっていて…それでも自立には程遠い自分の境遇と自らの選択の結果に無力感を感じていた。

やけになる状態や躁状態においてのみ、何かを動かそうとするのだが、
結局、自己不信を深めることになっている。

イカ天というテレビ番組に月刊宝島のバンドやろうぜ!の影響で、20歳くらいの連中に誘われて成り行きでバンドを組んだ。

ユキオはギター。
バンドは結成当時ユキオ以外は全員未成年。
残ったメンバーはユキオを入れて4人。

ベースのDにドラムのF、ボーカルのSだった。

きっかけはあるパーティに誘われて、その余興でバンドをやらないかという話だった。

上京した頃に一度はバンドを諦めたことがあったが、
ユキオはその後、たいした練習をしているわけではないが、
そこそこギターが弾けるようになっていた。

音楽をかなり聴き込んだことや、
ギター好きの知人友人がいたこともあって、
難しい曲は無理にせよ、
簡単なコードプレイを覚えて、音楽に合わせて弾くようになっていた。

ある日、ユキオの部屋にFが遊びに来た。

いまFがやっているバンドでは彼はベースをやっているという話をしていた。

ギターは2人いるとのことだった。
Fはドラムを結構叩けることを自慢していて、
今度一緒にスタジオで練習しないかと誘われた。

スタジオに入ったことは数回あった。
どれも、思い出づくりレベルの遊びでのスタジオ経験で、
バンドをやるレベルでスタジオに入ったことはなかった。

それもあって、練習に付き合うことを承諾した。

後日、ストラトキャスターを持ってスタジオに入った。
エフェクターもなかったが、チューナーをつないで久しぶりに大きなアンプにつないでギターを鳴らした。

思ったよりもうまく弾けるので、
気持ちよかった。

Fはベースを一緒に弾いていたが、下手なのとレパートリーが少ないので、
RCサクセションを適当にユキオが弾いてセッションした。

飽きてきたFがドラムをたたきだすと、
ユキオはWhoのサマータイムブルースを弾いた。

ベースは大したことがなかったが、
Fはドラムにセンスがあって、
それなりにサマータイムブルースに聞こえる音楽になった。

個人練習は1時間500円なので、安かった。
Fはもう1時間やりたいといったが、
マンガ編集のバイトが毎日あるので、今日はもう終わりにしてもらった。

スタジオにある喫茶室で興奮気味にFが
「コグレさん、バンドやりましょうよ!」
と言い出した。

「なんだ、急に?」
「コグレさんのギターうまいから」
「うまくないよ」
「いや、うちのバンドの2人よりはるかにうまい」

どれだけのレベルなのかだいたいわかった気がした。

「来月、パーティがあって、そこの余興でうちのバンドが演奏するんすよ」
「おれも、君のバンドのメンバーで出るってこと?」

「いや、うちのバンド下手だし、別のバンド組みましょう。おれはドラムやるんで、コグレさんがギター。だれかボーカルとベース入れて、新しいバンド…そっちのほうが目立てそうだから」

成り行きが、思わぬ「人生初ステージ」の道をひらいたのだった。