【少年・青年小説 食シリーズ】「東京に食べるためにやってきた①~鍋で食べるマルちゃんのタヌキうどんの話~」
ユキオは今日、上京した。
四畳半、キッチン付き、共同トイレ、共同玄関の2階だ。
窓は、南側で明るかった。
家具は自分で東京で買うことにして、親からお金だけもらっていた。
とはいえ、なべや日用品などは段ボールであらかじめ送ってもらっていた。
大家さんにあいさつしたあと、部屋に入った。
夕方近くだったことに気づいたとき…電灯を買ってなかったことにやっと気づいた。
あらかじめ、部屋には100ワット電球がついていたので、真っ暗な夜になることはなかったが、夜に近づくにつれて暗くなり、なんだか心細くなってきた。
電化製品を買わなかった理由に、富士川を挟んで東西のヘルツが違うということがあった。
自動に対応できるものもあったが、面倒に感じたので、東京のビックカメラとかで買おうと考えていた。
段ボールをあけて、鍋やタオルや着替えなどを出した。
銭湯に行くにしても、タオルと石鹸くらいしかない。
小さい折り畳み式のテーブルを送ってもらったので、それを部屋に広げた。布団などを小さな押し入れに入れたりしていたら、日が暮れた。
段ボールには実家から送られた食品があった。
マルちゃんの真空パックのタヌキうどんがあったので、さっそく自炊にかかった。
よく考えてみたら、食器もほとんど持ってきてなかった。
「いらない、金だけくれ。自分でそろえたい」と言って上京してみたものの、少し後悔していた。
どんぶりくらい、もってきてもよかったな…コップも茶碗もなかった。
割りばしがはいっていたので、食べることはできる。
初めての自炊を始めた。
コンロは丸い形で一口だけ。
電池式の発火装置を使って火をつける。
こわい。ガスをひねると思ったより、勢いよく出てくる。
一酸化炭素中毒とか爆発とかが頭をよぎる。
いったん元栓をもどし、気を落ち着けてからもう一度。
3回くらい発火装置をばちばちさせたころに火がついた。
何度もつけるのは、こころもとないので、その場にはりついたまま湯を沸かし、マルちゃんのタヌキうどんをあける。
ハサミとか、どっかに入ってたか?
まあいいや。歯で真空パックをかみやぶり、
沸騰した鍋に入れる。
実家でもしょっちゅう料理はしていたが…
なんだろう…このワクワクする感じ…
できあがった。しかし、どんぶりがないので、
そのまま食べるしかない。
裸電球の下で、新聞紙をひいたテーブルの上で鍋のままのタヌキうどんを食べた。
なんてうまいんだろうか。
ユキオはびっくりした。
自力で作った初めてのひとりぐらしの食事だ。
あまりにもうまいので、足りなかった。
さっきモンマートというコンビニで買ったロールパンを食べてもいい。
しかし、明日の朝ごはんだから、今日はタヌキうどんだけにしておくことにしよう。
とにかく、汁がのみたいのだが、鍋が熱くてのめるわきゃない。
しばらく、冷めるのをとりあえず待った。
なんとか唇がやけどしない程度にさめたとき、
待望の天かすのスープを飲む。
うまい。
だが、飲みにくい。
鍋で飲むってのは、なんて飲みにくいのか…
食べ終わるとユキオの不安は消し飛んでいた。
東京に自分は来たといううれしさがこみあげてきた。
チップスターを取り出し、銀紙に包まれたチップスを食べないまま、
おれはセブンスターを取り出した。
窓を開けると中野サンプラザが見える。
ここに決めた理由もこの景色が気に入ったこともあった。
ライターでセブンスターに火をつける。
タバコの灰はチップスターの箱に入れて、プラスチック製のふたをする。
そうすると、火は消えるし、箱は燃えることはなかった。
いっぱいになれば、そのまま捨てればよい。
友達から教えてもらい、東京生活では、こいつを灰皿にすることを決めていた。
中野サンプラザのランプがゆっくりと点滅していた。
なんで点滅しているかの意味はわからないが、なんだか、いい気分だった。
ユキオは男おいどんの大四畳半を思い出していた。
今日はもったいないから風呂はやめとこう。
疲れたので裸電球の部屋で布団を敷いて…ユキオは、その日は早めに寝た。