【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑬【人生初ステージ3】~」
パーティが始まった。
ユキオは楽屋にとどまっていた。
始まる前には、SやK、Dたちもやってきて、緊張のせいなのか…やたら饒舌だったり、ビッグマウスだったり、はったりめいた言動でうるさかった。
さすがにユキオは25歳をこえていたこともあり、
そんなふうには振る舞わなかったものの…
やはり、ステージの前の雰囲気にのまれていたといってよい。
チューニングを繰り返し、使用するピックをカラーテープを使ってピックガードに取り付けたり、イメージトレーニングをしたりしていたが、
パーティ会場の様子も気にかかる。
ユキオが呼んだ知人たちに声をかけないわけにはいかないと思い、
なんだか気後れしつつも、客席に出て行った。
パーティがもう始まっていて、司会の女子がマイクを片手に会場を盛り上げようとしている。
会費を1000円くらいとられているので、ドリンクくらいは飲もうと思って会場を探した。
すると、ユキオの知人友人が来ていることが分かった。
テーブルにドリンク類に食べ物があることに気づいたので、ドリンクをもって知人たちに渡した。
「コグレ、居場所ないかんじだぞ。いごごちすごく悪いぞ」
「悪いな…しかも、おれの出番午後8時すぎだから…もうしわけない」
「1000円払ったから、食べ物とかもほしいぞ」
「わかったよ。もってくるね」
ケンタッキーフライドチキンやピザをみつけたが…無残にものこっていない。仕方ないので、カルビーのポテチや袋菓子をみつくろって、コーラのペットとプラのコップを知人3人に渡した。
「これでがまんしてくれ」
「いいよ。なんか食べ物がきたら意地でも奪って食べとくから…コグレ、がんばれよ。おまえがまさかステージにたつなんてな…大学のときには想像つかないよ」
「ありがとう。ステージにたつことはさ…けじめっていうの? 落とし前をつけるためでもあるからさ」
「ぷ。なんの? まさかロックに青春を捧げたコグレの人生へのけじめか?」
「まあ、そうだね」
「おまえらしい~」
ステージではビンゴが始まった。
ユキオは知人全員に話しかけて、ドリンクを渡してから、
また楽屋に戻った。
楽屋にはSがひとりで座っていた。