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【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1〈終〉~初めてのステージに立ってみよう⑱【人生初ステージ8】~」

やっちまった…。

ユキオは、速弾きのリフが成功したと思ったとたんになぜか意識が飛んだ。


ラストのギターソロの終わりの部分が弾けずになんとかごまかした。
演奏が止まるようなミスではなかったが…多少動揺した。
気を取り直してラストのソロはうまく弾けた。

客席はあまり気にしてないように盛り上がってくれたのはうれしかった。


最後はFのドラムにSとユキオだけでサマータイムブルースをやる。
ソロはコードプレイでユキオの負担は重くない。

しかし…ユキオはギターソロのときに、感じたことのない独りの感覚をステージ上で感じたことに、動揺していた。
それを言葉で表現すれば「おれはひとりだ」ということだった。

PAがうまくきこえないステージに立ったことのある人間ならわかるかもしれないが…ステージに立つと、他の演奏者の音はあまりきこえない。
譬えて言うと「すごく遠くにいるように感じる」のである。

すぐ近くにいるはずなのに…だ。

ユキオは、人生初ステージが始まったときに、頼るものが自分のリズムだということにすぐに気づいた。

気付かなかったら、たぶん、他人の演奏をどこかに探そうとして、音どころか、バンドとしてのリズムは合わなかったであろう。

「ロックとは他人のリズムを頼りに演奏するものではなく、
自分の音をよりどころとしてバンドに歩み寄ることでしか、
成立しない音楽なのだ」

ユキオは、ステージで痛いほど感じ取っていた。

「頼るものはなかったのだ…ロックだろうが、人生だろうが…
それはたぶん同じなのだ」

恐ろしいまでの孤独感をギターソロの最中に感じたユキオは、
ロックミュージシャンが、いかに困難な作業を平気でおこなっていることに
畏敬の念を持った。

「天才ばっかりだな…プロミュージシャンってのは…」

サマータイムブルースが始まった。
もうユキオは、自分の演奏だけに集中した。

自分を頼りに自分のリズムを出して、
FやSに届ける、彼らから帰ってくるリズムを受信する。
それが、バンドの音になるはずだ。

すべてが終わった。
客席が継続を求めていることが分かった。

前列に興奮した観客が押し寄せる。

感激したWくんが「コグレさん、二人でこのあとブラウンシュガーやりましょう」と言ってきた。

笑っただけで、楽屋に戻った。

「終わりかよ~」
客のヘビメタのにいさんが、騒いでいたが、振り切って戻った。

25歳からのロックバンド…ユキオは初ステージの体験を完成させた。
虚脱感と達成感があった。



「25歳からのバンドやろうぜ1〈終」」