【ロック少年・青年・中年・老年小説集】「中年からのバンドやろうぜ1…〈肥満とブルーズ、減量とロック⑬〉~ばんどやろうぜ、再び2~」
タッ〇ポウルのDスタジオに開始15分前についたとき…
Fはiくんと一緒にギター持参で待っていた。
待合室で久々の再会をした。
「コグレさん…体形…戻ってる」
Fとは電話は時々していたので、
減量したとは伝えてあったが…
しばらく会っていなかったので、
予想以上の衝撃を与えたようだった。
「コグレさん、いい感じになりましたね」
iくんは、まだユキオが痩せていないころ、
ベルベットアンダーグラウンドが好きだということで、
一度セッションをしたことがあって、
会うのは2回目だった。
気分がよかった。
Fは相変わらず太っていた。
しかし、いまや小さいながらも
プロダクションの副社長だ。
言うこともなかなかだった。
「コグレさん、減量のマニュアル本、
うちから出しましょう」
「本業忙しいから、やらない」
「もったいないな…
しかし、痩せましたね~」
「おまえに言われた言葉は響いたから、
Fのおかげでもあるかもしれないなあ」
スタジオが空いたので、
セッティングをした。
久しぶりだ…5年くらいだろうか?
いや、もっとか?
アニーボールの弦をさっき張り替えたばかりだ。
念入りにチューニングをしながら、
ブギーのアンプをセッティングした。
DODのオーバードライブとボスのデジタルディレイ、
チューナーだけつなぎ…テレキャスターを鳴らす。
FがES335をもってきていた。
しかし、i君とユキオの2台分しかアンプがない。
「Fさあ、3時間とってんだし、
まずはドラム叩いてよ。
テープ録音するし…
たのしもうぜ」
Fも承諾して、セッションが始まる。
i君は、ベルベットアンダーグラウンドとローリングストーンズとU2くらいしか知らないし、かつ、適当にヨーロピアンサンとかヘロインとかのアドリブみたいなギターしか弾けないので…ちょっと面倒だったが…
ユキオは「僕は待ち人」のニコがボーカルをとる、ライブ映像のバージョン風のリフを始めた。
Fはドラムをそれっぽく叩く。
ベルベットアンダーグラウンド風ではないが、ニューヨークパンク風だ。
i君は気づいて、ベルベットアンダーグラウンド風のアドリブをのっけから、
弾き始めた。
ボーカルをとる人間がいないので、
ユキオが適当にうたう。
i君はまあ、おいておいて、
Fとユキオの息はあっていて、
なかなかユニークなロックンロールになっていた。
2曲目はサンデーモーニング。
ユキオはほぼ1弦2弦の3フレット目をずっと押さえるコードの弾き方で、
同曲を弾く。
ユキオはサンデーモーニングが終わると、
Aのキーでサイケデリックロック風のリフを
適当につなぎあわせてアドリブでセッションに持ち込んだ。
i君はコードプレイも下手で、
弾けるのはアドリブだけ。
それをテープで聴いてもおもしろくするには、
i君にアドリブをえんえんやってもらい、
ユキオがコードのオリジナル曲のように弾けば、
ガレージロックやB級C級のサイケデリックロックバンドのようにきこえるんじゃないかと思ったのだった。
Fはかつてユキオと、ドラムとギターだけでセッションをよくやっていたので、心得たものだった。
予想以上におもしろいセッションになっていた。
しかし、ユキオはやはり物足りなさを感じた。
「もう少し、まともにバンドらしい演奏をしたい」
そう思いながら、それでもセッションは
それなりにたのしんでいたユキオだった。