【ロック少年・青年小説集】「東京にやってきた③~ロックビデオを見に行こう前編~」
ユキオは東京の5月をたいへん気に入っていた。
都会の割に緑地は多いし、公園はきれいだった。
隣室のi君とその友人に、四谷の公共施設でやるロックフィルムコンサートに誘われた。予備校の勉強もそこそこに、土曜日に四谷に一緒に見に行った。
当時、東京ではロックの映画だとか、フィルムコンサートのたぐいはそれなりに気軽に行われていたようだ。
無料だったかそれに近い廉価なイベントだったと思う。
細かいことは覚えていない。
内容はヘビメタからポップス、ニューウェーブ、パンクと、
誰が主催者か覚えていないが、当時、欧米でプロモーションビデオの盛んになりだしたころで、MTVはまだ民放では見られなかったこともあって、
若いロックファンで会場は満員だった。
クラッシュのロンドンコーリングだったり、ジューダスプリーストのブリティッシュスティール以降のプロモーションビデオだったり、
ヘビメタもパンクもニューウェーブもMTV並みに混在していて、
見るほうも笑ってしまうラインアップだった。
とても面白かったので、またフィルムコンサートに行きたいと思った。
特に印象に残ったのは「ラッシュ」のたぶん、フェアウェルトゥキングスかクローサトゥーザハートのプロモーションビデオだったと思う。
こういう、ヘビメタでもないし、ハードロックでもない、ましてやニューウェーブでもなく時代遅れのファッションだが、気持ちのいい音が印象に残った。
渋谷陽一さんの「ニューウェーブのスマートさとオールドウェーブのかっこ悪さ」というような意味も分かった気がしたフィルムコンサートだった。
確かに、ニューウェーブってのはファッションセンスでいえば、都会的だった。
自分の上下ホワイトジーンズに長髪はどう考えても、時代遅れといえるかもしれなかった。
i君たちと、お茶を飲んで別れた。
家で、試験勉強をした。
夜になって、今週のぴあを広げた。
アートシアター新宿「レッドツェッペリン 狂熱のライブ」
とある。
明日、行ってみることに決めた。
次の日、新宿の6丁目とかそのあたりを歩いていた。
昼すぎからだったので、近くで昼ご飯を食べようと探してみたが、
安めのチェーン店がない。
仕方なく、定食屋のような飲み屋のランチなのかわからないが、
カウンターの店に入った。
いちばん安い焼き魚定食を頼んだが、
周りは常連客ばかり。
会話が夜の仕事のひとたちの会話のようで、違和感があった。
どうも、苦手な雰囲気だった。
料理も、友達のうちの昼飯をおかあさんがいやいや出してくれたような、
さめた小鉢も魚もおいしくない。
雰囲気だけは存分に味わって店を早めに出た。
まずくて600円くらいで、かなりの出費の感じで落ち込んだ。