見出し画像

三人の魔術師:番外編 モノベさんの日常14「ある占い師との思い出②」

マリネ先生の鑑定が終わったのは、午後3時頃だった。
「着替えるから待っててね」と言われ、
播磨坂の桜並木にたたずんで待っていた。

5月はもう終わり。
梅雨入り前のつかの間のさわやかな日を味わっておこうと思った。

桜の葉も濃くなってきた。
私は、この夏に向かう桜並木もすごく好きであった。

樹木の花粉の香りがただよう。
しばらく忘れていた、
青臭い女性への気恥ずかしい自意識を思い出していた。

10分くらいでマリネ先生がやってきた。
ん。
化粧が濃くなっている。
背が高いので芸能人のように目立つ。
紫外線アレルギーなのかサングラスに帽子に長い手袋…。

「お待たせ。電車で行きましょう」
「はい…」
気の利いたことは言えなかった。
気を使うのもいやなので、無理に会話をしようとすることはやめた。

茗荷谷から丸ノ内線。乗り換えても45分くらいで、目的地近くの駅に着く。
驚いたのはマリネ先生が極度の方向音痴であることであった。
かわいいといえばかわいかった。

駅探で調べてきたというルートはあまりにも複雑すぎるので、
私は乗り換えを1回で済むルートを提案した。
採用されたので…私の案内で、目的地まで向かった。

鑑定のときとは別人のようで…会話もたわいのない話が面白かった。
スピリチュアルな話はほとんどせず…それも先生の気遣いだったかもしれないが…気楽でたのしい道行きをたのしむことができた。

目的地についた。
この場所に実は過去に来たことはあったが…女性の手前、
そのことは口に出すことははばかられた。
とはいえ、街自体を探索したことはなく…
初めての街に来たのと同様であったので、
喫茶店への道のりはマリネ先生に任せた。

昨日来ていたはずだったが…極度の方向音痴で…
やはり、1回でたどり着くことは難しそうだった。
私は交番に戻って、喫茶店の名を警官に告げ、
詳しく教えてもらった。
警官の方はたいへん親切であった。

午後5時約束で、5分前に来るように書かれたメモを、マリネ先生から見せてもらった。丁寧な文字が書かれていたが…裏紙で、裏側には信用金庫の口座番号が記されていて絶句した…。悪用されるとは思わないのか…気が進まない度合いがさらに増していくように感じた。

現在、午後4時前。交番からは10分もかからず、迷わずに到着した。
「花のサンフランシスコ」という喫茶店に到着。
1時間前だが、喫茶店ということもあるので、店の中で待たせてもらうことにして、マリネ先生と二人で店内に入った。

思ったより広い店内にはレコードやらエレキギターや額縁に入ったポスターが飾られている。ヒッピームーブメントの雰囲気がいちめんに漂っている。

しかし…よくあるような、アメリカ村だとか、ヴィレッジヴァンガードのようなおしゃれな60年代の演出というよりは、当時からそのままで…なおかつ、日本人の勘違いしたヒッピームーブメントの解釈が色濃く反映された怪しげな雰囲気といえた。

カウンターの中に入って調理をしていた老婦人にマリネ先生が「午後5時に予約をしたキリシマです」と伝えたとたん、老婦人がカウンターから鬼の形相で出てきた。

「5分前と書いてあるでしょう!」
「あの…お時間まで店内で待っていたいんですが…」
「5分前にという約束を守ってください! 説明したはずですよ!」

後でマリネ先生にきいたが、昨日はそこまで説明はなかったという話だった。

不穏な空気を感じたので…マリネ先生は「では、5分前にまたまいります」
と告げて、私を押し出すように店外に出た。




【ある占い師との思い出③へ続く】

©2024 tomasu mowa