家族を殺され、毒を盛られたTS幼女は、スキル『デスゲーム』で復讐する 第1話 家族の死
目の前に転がる家族の死体。
俺は思わず、買い物袋を落としてしまった。
中の玉子が割れた音が聞こえる。
「え……」
家に帰ってきたら、家の中が真っ暗だった。
普段なら、電気がついてるはずだし、誰かがおかえりって言ってくれる。
出かけるにしたって、事前に何か言ってくれるような家族だ。
こんな異様な状況が広がっているはずがない。
目の前の現実が受け入れられず、俺は一度家を出た。
「間違ってない……」
表札には、確かにアベの文字。
ここは、僕、アベ・ジンの住む、アベ家で間違いない。
急いで電気をつけようとしたが、スイッチが反応しない。
僕はリビングに走った。
「父さん! 母さん! ユキコ!」
「……」
やはり返事はない。
家が荒らされた様子はない。
なのに、なんでなんだ?
「はは。そういうこと? 何かの冗談だよね? なあ、返事してくれよ! 父さん! 母さん! ユキコ!」
暗い部屋で、身を寄せ合いうずくまる三人から、返事が返ってくることはない。
僕が必死に呼びかけても、三人はぴくりともしない。
彼らの体は、もうすでに冷たくなっていた。
「どうして? どうしてだよ……」
「どうしてって? そりゃ、お前の存在を無かったことにするためだよ」
「……は?」
聞き覚えのある声に振り向くと、土足のまま家に入り込んだ四人の姿。
先ほどまで一緒にダンジョンを探索していた、僕のパーティメンバー達。
今日の探索は終了し、僕らはもう解散したはず。
「みんな、どうしてここに?」
そんな問いに、装備をジャラジャラさせたままのリーダー、オオタ・ロウキくんが、ずいっと一歩寄ってきた。
「聞こえなかったか? お前の存在を無かったことにするんだよ。なんでお前の家族だけ消して、お前だけ助ける理由がある。今からお前は、そこにいる奴らと同じように、一生眠りにつくんだよ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。何を言ってるかわからないんだが」
僕の存在を無かったことにする? 一生眠りにつく?
「僕達仲間じゃないか。どうしてそんなことするんだ? あれか? そう、避難訓練。これ、よくできたマネキンなんだろ。わかった。こういう緊急事態に備えてってことだな? そうだよな?」
「本当にわかってないみたいだな。じゃあ、もっとわかりやすく言ってやるよ」
オオタくんは、しゃがんだ僕に目線を合わせると、もったいぶるようにたっぷり間を置いてから、口を開いた。
「お前は、もう、用済みなの」
「用、済み……?」
「本当に、言葉が理解できないのかしら? いらない子ってことよ」
追い打ちをかけるように、大魔導士のコノモト・ダリアさんが杖を突きつけ言ってきた。
いらない子……。
「ま、待ってくれよ。確かに、僕の仕事はただの荷物持ちだ。あまり役に立っていないかもしれない。でも、荷物持ちだって、いなかったら困るのは君らの方だろう? それに、僕は魔物とだって戦えるじゃないか」
「その力は我々に必要ない、ということですよ」
まるで、わからず屋の子供を諭すような雰囲気で、あくまで優しく、聖女、ミーネ・フロニスさんは語りかけてきた。
「そんな、必要ないなんてことないだろ……。なあ、ユラーさん」
バトルマスターのベルドルフ・ユラーさんは、ゆったりと首を横に振った。
「すでに理解していたことだろう。お主のような力のない者には、どこにも居場所などないと」
「……。でも、だからって、家族まで殺す必要ないじゃないか!」
「お前はオレ達組織の汚点だ。だから、綺麗さっぱり消えてもらわないと困るんだよ」
「そうそう。ほんと、残られると目障りだから」
「残念ですが、不要なことに変わりはありませんので」
「力なき者に、居場所は与えられない」
「なんでだよ! 僕が何したってんだよ!」
僕は確かに無力だ。荷物持ちしかできなかった。
でも、そのおかげで感謝してくれていたじゃないか。
急に手のひらを返すなんておかしいだろ。
ここは、何もできなかった僕が、唯一見つけた道だったんだ。
学校も会社も、何もかもうまくいかなくても、誰かの役に立てたらって思って、ここまで努力してきたのに……。
「抵抗してやる! 抵抗してやるからな! タダで死んでたまるか。家族の分だっ、て……」
なんだ? 息が、苦しい。
「抵抗なんて無理だよ。その様子だと、もう実感してるだろ?」
「なんの、ことだ?」
「無理すんなって。一般人が耐えられるもんじゃない。そいつは家族とおんなじ毒だ」
「毒?」
なんだか、体が熱い。意識がもうろうとしてきた。
部屋が荒らされた形跡がないのに、家族が殺されたのも、この毒にやられて……。
「ダンジョン産のヤバめなやつを、お前の飲み物に入れておいたんだよ。気づかなかったろ?」
「……」
「もう声も出せないか!」
「そういえば、どんな効果なのよ」
「知らね。ヤバそうだし、家族は死んでたんだ。こいつもすぐ死ぬだろ」
「どのような毒かも判別できませんでしたし、おそらく解毒は不可能でしょう」
「ただ、無知を呪うことだな」
「じゃあな。せめて苦しんで死ね。足手纏いが」
くそ、くそ!
動けない。
笑って出ていくあいつらを追いかけることもできない。
僕は、家族を殺されて何もできないのかよ。
僕に、力がないから。
もう、唇を噛んで泣くのを我慢することしか、イヤイヤをする子供のように首を振ることしかできないっていうのか。
「い、あ、あ」
せめて、呪いでもなんでもいい。
復讐してやる。
絶対に、復讐してやる。
あいつらに普通の生活を送らせてなるものか。
「……!」
ああ、ダメだ。骨が軋むような音がし出した。
体の感覚が薄くなっているのか、なんだか体が小さくなったよう気分だ。
意識が届く範囲が、どんどんと小さくなっていく。
く、そ……。
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