小さな狂気の閃光を失うな

自己紹介

はじめましての方ははじめまして。
早稲田大学 森島研究室 博士3年の綱島秀樹と申します。
本記事はcvpaper.challenge advent calendar 2022の5日目の記事となります。
研究の専門分野は深層生成モデル、仮想試着、AIの常識獲得で、現在は仮想試着とAIの常識獲得の研究をメインで行っています。元々真の人工知能(Artificial General Intelligence)を獲得したエージェントを開発したいという気持ちがあったので、人間の脳という強力な知的モジュールをどう再現していくか(全脳アーキテクチャ的発想)、ということに焦点を当てていました。それゆえ、私自身が魅力的に思えた運動制御に関する内部モデルを有する小脳*の機能を再現しようと思い、深層生成モデルから研究に取り組み始めていました。現在ではより広く捉え、定義が曖昧ながらも強力な認知機能である「常識」という点に着目し、AIが常識を獲得できるようにするにはどうすればよいのか、という研究を行っています。
このアドベントカレンダー5日目の私の記事はポエムと、研究の楽しさを見失いかけている人に楽しさを取り戻してもらえたらという気持ちの記事になります。
ポエムはすっ飛ばしたいなという方は最後の「おわりに」だけでも見ていっていただけると嬉しいです笑

* 機械学習の文脈でいうと世界モデルのような役割

小さな狂気の閃光

私は未だに厨二っぽい文言が大好きなので、論文とかでコッソリ著者が入れているようなカッコ良さそうな文言があると興奮してしまいます。例えば、silver bulletや、holy grail*ですね。
それはさておき、cvpaper.challengeのadvent calendar2022の2日目の品川さんの記事で、性格診断の16Personalitiesが紹介されていました。私も試しにやってみたところ、品川さんとほぼ同じグラフになっていました(私も時代が時代なら品川さんと海賊王で競い合っていたかもしれませんね。グラフは保存し忘れてしまったので、画像はありません😭)。
私の性格診断結果は「広報運動家」であり、自由奔放ながらも色んな人とわちゃわちゃする創造性が高い人らしいです。広報運動家の説明の中になかなか趣深い文言があったので、急遽こちらの記事のタイトルに採用することにしました。その文言とは "その「小さな狂気の閃光」を失うな" です。16Personalitiesの広報運動家の説明の一部を転載します。


広報運動家型の人達は、本当に真実味のある物事を見い出す前に、多大な時間を費やして、人間関係や感情、アイデアについてじっくり吟味します。しかし、世の中における自分の役割をついに見つけた時、持ち前の想像力や思いやり、勇気で、驚くほど素晴らしい結果を生み出せるのです。

https://www.16personalities.com/ja/enfp%E5%9E%8B%E3%81%AE%E6%80%A7%E6%A0%BC

ここでいう「小さな狂気の閃光」とは上記の文章でいうと「世の中における自分の役割をついに見つけた時」が該当しています。この言い方だとかなり大きい物言いですが、自分的には研究にはぴったりの文言だと思っています。
私自身の研究の哲学ですが、研究は成し遂げたい夢=狂気を持ち合わせている人が長い間強くあれると思っています。トップカンファに通す実力はありながらも、その後の研究をやっていく上で自分は何をやりたかったのかを悩んであとから困ってしまう人を何人か見てきました。逆に長い間前線に立ち続けられている人の出してきた論文を見ると、一貫したストーリーが背景に存在していることが多いようなイメージがあります。「小さな狂気の閃光」とは、まさしく自分が持ち合わせている研究の狂気を見つけたときの煌めきそのものであると私は思っています。
逆に、小さな狂気の閃光を見つけたあとに見失いかけてしまっている人もいると思います。私は小さな狂気の閃光を見つけたのが幸いにも高校2年生という早い段階だったのですが、博士3年になるまでに何度も見失いかけてついに狂気を取り戻しだせました。ここからは博士課程に入ってから新宝島ステップのように迷走していた時期の話と、迷走からどう抜け出したかについての話になります。


* silver bulletは特効薬といった意味があり、とある問題を一撃で葬り去るほどの強力な手法などにたまーーーに見られたりしますが、論文で使うと基本的に過主張となりますので、使うのはやめたほうがよいです。僕は修士のころ、論文の初稿に使って指導教員に咎められました。また、holy grailは直訳では聖杯という意味ですが、desiderata(切実に欲しい物)をさらに強い表現にしたような言葉です。知能を獲得したい系の研究ではintroとかでよく見られたりします。

迷走の博士後期課程

博士1年(迷走期)

修士課程から深層生成モデルの計算コスト削減に取り組み始め、博士1年からは教師なし深層生成モデルでもより問題設定の難しい教師なし前景背景分離(Object-oriented Representation Learning)に取り組み始めました。この頃はAGIってどうやったら作ったらいいんだ?という風になっていて、エージェント内部に存在する概念や表現と、実世界にある物体の結び付けを行う結び付け問題(binding problem)*に深く関連する教師なし前景背景分離を選択していました。当時は狂ったように研究をしていましたが、思うように結果は出ない上、本当に自分がやりたかったことはこれか?という疑問が段々とつきまとい、ついには研究内容は国際学会には出さずに教師なし前景背景分離の研究をやめてしまいました。修士の頃に学振DC1が落ちてしまったので、教師なし前景背景分離関連でDC2も出しましたが、私の研究を信じきれない思いを見抜かれてしまったのか落ちてしまいました。

* 結び付け問題は大雑把に言うと例えば、赤・正方形という概念がエージェントに存在したとしたら、赤い正方形という実世界の物体との概念接地を行う問題であり、未だに脳科学分野においては未解決問題の1つです。

博士2年(過渡期、やや迷走)

1回目の転機が訪れたのは博士2年です。
自分がやりたいことを見失っている旨を様々な先輩方に相談し、たくさん、たくさんたくさんたくさんご相談に乗っていただきました。ご相談させていただく中で、自分が見つけた小さな狂気の閃光は何だったのかを言語化して、達成するための道筋を考えなさい、という旨をいただきました。しっかり時間を掛けて整理をし、整理していく中で見えてきたやりたいことについての文献を読み漁り、ついにこれならやりたいかもしれないというものを見つけました。
それは「AIの常識獲得」です。
この内容で自身満々にDC2に出したところ見事に採択されました。しかしながら、まだ具体的には研究内容が詰めきれていなかったこと、博士2年は博士1年の頃の失敗でかなり精神をすり減らしていたこと、グラントが周りでは自分だけ全く通らず焦りで4本のグラントを出したことでの精神消耗も相まって、AIの常識獲得の研究には身が入らなかったです。手を動かしてやる研究としては産総研リサーチアシスタントでテーマにしていた仮想試着に取り組んでいました。

博士3年(黎明)

2回目の転機、私の中で最も大きな転機は博士3年のときに訪れました。
博士3年まではAIの常識獲得とはいっても研究室のPIや産総研のメンターの方々は常識獲得周りの心理学的話や、強化学習周りに詳しい方がいらっしゃいませんでした。博士3年に入ってから様々な方と仲良くさせていただく機会が増え、その中でオムロン サイニックエックス様でリサーチインターンをさせていただく機会が生まれました。オムロン サイニックエックス様ではメンターの米谷さん牛久さんからとても密に様々なアドバイスをいただけ、ついにAIの常識獲得に向けての具体的方策が見つかり始めました。米谷さんと牛久さんとご一緒に研究を進められたことで、自分がやりたかったことがさらに鮮明になり、ついに「狂気」を取り戻せそうになってきました。その他様々なことが博士3年ではいい方向いい方向に転がり始め、最近は毎日が常に楽しいです。精神消耗で研究に身を入れてできなかった時期があったので、その癖が残っているのかまだサボり癖は抜けていないですが、段々と研究に割ける時間も増えてきました。そろそろみなさんをあっと言わせられるような研究成果を発表できると思います。

おわりに(楽しい研究生活のために)

このアドベントカレンダーは、「本当に自分がやりたいこと=小さな狂気の閃光」について自身の経験ポエムでした。
私が迷走を経た上で学んだ、楽しい研究生活を送るためのtipsは3点あります。

  1. 自分が見つけた小さな狂気の閃光は何だったのかを言語化して、達成するための道筋を考える

  2. 迷走してしまったら、すぐに色んな身近な研究者に相談して考える時間を増やす

  3. テーマを進めていく上で行き詰まってしまったら思い切って環境を変えてみる

若造が何を言っているかとなるかもしれませんが、博士課程に限らず研究者は悩むことが仕事というくらい悩むことが多いと思います。特に小さな狂気の閃光を見失ってしまって行う研究ほどツライことはないと私は思います。研究者はロールモデルとなることがほとんどないと言われるくらい千差万別すぎる職業であると思いますので、私の意見が直接参考になるかはわかりませんが、悩んでしまっている研究者に何かしらで参考になれば幸いです。
それではご安全に!

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