筆者の研究事情
一般病院に勤務しながら研究もするというのは私のような凡人医学物理士にとって容易ではない。資金・設備・時間が限られている中で一定の成果=論文業績を出すためには研究テーマ選びも大事である。臨床の医学物理士が研究やる必要あるの?については以前の記事を。
今回は市中病院歴が長い筆者おっさんがこれまで迷走しながらも実施してきた数々の研究を紹介したい。臨床の傍らどのような研究をすればいいのか悩んでいる方の参考になればと思い、もれなく病院業務しながらの体感的な苦労を「難易度」で表しています(研究の質や意義を反映するものではないです)。個人レベルで完結できるだろう単発的な内容を想定して、大学との共同研究や新しい技術開発といった壮大なテーマは除外しています。
1. プラニングスタディ系(難易度★☆☆☆☆)
治療計画装置を使って仮想プランを作成し、それを評価する研究。例えばアルゴリズムAとBで計算結果がどう変わるのか等。プラン作成者の力量にも依るところがある(?)のでこの手の研究に否定的な人もいるが、日常的に計画装置を使っている臨床医学物理士としては取っ付き易いし、研究自体にかかる費用はほぼ皆無なので、時間とアイデアさえあれば何とかなる。
2. 臨床データレトロ解析系(難易度★★☆☆☆)
治療計画の線量分布や検証結果、照射時のログ解析など自施設で実施した症例群に対して後方的解析を行う研究。研究というより医学物理士の仕事の一環な気がするが、それなりの症例数や何か特徴的な結果があれば報告する価値はあるだろう。治療医と協力して臨床成績とか組み合わせると尚良い。解析のために多少の情報処理能力は必要になるかも。
3. 新製品評価系(難易度★★★☆☆)
新しくリリースされた機器やソフトウェアの特性を評価する研究。これも研究というより業務の範疇の上、他との銅鉄研究感は否めないが、新製品という点で報告すれば一定の注目は得られる。従来製品との比較をすればより研究らしい。新しい製品を買ってもらった時にしかできないのが難点(市中病院だとせいぜい機器更新のときくらいか)。
4. プログラミング系(難易度★★★★☆)
かなり包括的で恐縮だが、例えばモンテカルロ計算や画像解析、最近では深層学習など端末上でプログラミングを駆使する研究。それ専門の先生方のレベルには遠く及ばなくとも、実臨床の課題に絡めてやれば臨床医学物理士らしい研究になる。ただしプログラミング不得意な人が中途半端な気持ちでやると途中で心が折れる(筆者体験談)。
5. 基礎生物実験系(難易度★★★★★)
細胞や動物を使ったいわゆる生物研究。そのための設備をもつ大学などに所属しているか、そのような場所を借りて実施することになる。実験のため細胞や動物の継続的な管理が必要なので、臨床の仕事しながらで実施するとプライベートの時間はかなり犠牲になる。その苦労の見返りか、こういった基礎研究は独自性を出しやすく、研究費獲得の打率が良い(当社比)。
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いずれにせよ、具体的なテーマを決めるためには、絶えず関連論文に目を通し、どういったことがトレンドでインパクトあるだろうかという発想力を養っておかないといけない。まぁ私のような凡人にはこれがいちばん難しいわけだが(難易度★★★★★★★★★★)。