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ハオルチア属 Haworthia sp.

私が唯一枯らさずに今まで生かすことができた植物はハオルチアだった。
何故ならば、適当な水やりの頻度が月に1回程度だから。
毎日とか、3日に一回とか、水分欲する系の方々のこまめな世話をすることができず、幾多の植物を枯らしてしまった。
しかし、学生時代に池袋の西武の屋上だとか、五反田の即売会だとかで購入したオブツーサなどのハオルチアたちは、まだ実家のベランダでおばけみたいな大きさになって生存している。

さて、最近、何かを育ててみたいという気持ちになり、そんなことを思い出した。
下手に世話のいる何かを迎えても、(今の私ならば健康的な生活を送っているため毎日お世話できると思うけれど)よくない結果になるかもしれないという懸念から、ああハオルチアなら大丈夫か、と考え色々と手始めに購入してみた。

最初池袋西武の屋上のお店に足を運び、色々と眺めてみた。
意外とピンとくる個体がおらず、ううむと思っていたところこの個体が目に止まった。

新古都姫という品種
やんごとない名前だ


黒い。
そして形が整っていて美しい。
黒いハオルチア、かっこええ〜としみじみ感じ入り購入した。


それから、通勤の行き帰りの電車の中で、ハオルチアについてたくさん調べた。
ん、そもそもこれは、どこに自生しているのだ。南アフリカ。へえ。というか世界中で南アフリカにしか生息していない。知らなかった。

移動能力に乏しいハオルチアは、ある場所から10km、せいぜい30km圏内しか地理的・遺伝的に拡散することができないとされているようだ。
そのため分化が進んでいる。500種以上、未確認のものも含めるとその倍は種数があるのではないかという説もある。どひゃー。

大体の種は、親株から子株、つまりクローンをつくり増える能力を備えている。
また、花をつけるとハチの類が花粉媒介し結実する。その種子は重力散布、すなわちポトンと落ちることで種まきが終わる。強風が吹けばその種も数kmないし数十km飛んでいくかもしれないが。
すなわち、親株の隣にぽこんと子株ができるか、近くにポツンと落ちた種から発芽するか、狭い範囲で増えていく植物なのだ。

面白い。

日本でいうと、例えばカンアオイの仲間は同じように移動能力が乏しいために地理的分化が進んでいる。
葉の形状や斑を楽しんだりするのも、カンアオイとハオルチアは似ている気がする。

動物だとオサムシの仲間や、陸産貝類、サンショウウオ類なんかも、地理的隔離による種分化が起きて、特定の地域にしかいない種が沢山いる。
トウキョウサンショウウオとか、埼玉県などにもいるから東京都にのみ生息するわけではないが、地域の名を冠したご当地サンショウウオなど興味深い。ホクリクサンショウウオとか、ツクバハコネサンショウウオとか、オオダイガハラサンショウウオとか。ポケモンGOやらピクミンやらもその土地に行かないと見つからない種がいるようだが、生き物もまた然りである(というか生き物が元ネタか)。

Haworthia cooperi var.picturata 
IB13706 Skoonuitsig
植えたばかりだからシワシワだけど、ピンク色のの丸い形がとてもかわいい


南アフリカでのハオルチアたちは、岩陰や他の植物の影などにひっそりと生えている。
多肉植物だから、てっきりカンカン照りの吹きっ晒しの中で逞しく生きている様子を想像していたが、そうではない。
意外にも、日陰を好む陰性植物なのだ。多少のギャップ萌えである。
ゆえに栽培時も、陽に当てすぎてはいけないようだ。

当地での写真をインターネットで閲覧すると、葉の透明の部分(愛好家の中では窓と呼ばれるようだ)のみを地中から覗かせてあとは地面に埋まっています。ひっそり。みたいな、アフリカの大地に埋まっている宝石のような素敵な写真が散見される。プラントハンター?みたいな人のYouTubeの動画もいくつかある。
オブツーサとか、不思議な半透明の葉っぱだなあ何に使うんだこの透明の部分、と日本で植木鉢に植えられたものを見て思ってはいたが、自生地だとその魅力と効果は100倍ほどに増えるのだなと妙に腑に落ちた。陰日向に生えるから、太陽光を少しでも反射させて取り込むとかなんとか。



はてさて、こうして調べていくうちに、原種のハオルチアのことが好きになった。
たくさんの栽培家の方々が苦労の末生み出した、ビニルハウスの中の美しい改良品種のハオルチアたち、それもいいのだが。広大な南アフリカの大地で、長い長い時間をかけて分かれてそしてたまたま人間に発見されて今現在まで受け継がれてきたいわゆる原種のハオルチアたち。渋いではないか。美しいではないか。南アフリカの風を感じるではないか。遠い彼の地に思いを馳せることができるではないか。

改良品種か原種か問題は金魚とフナ類のようなもので、そう言えば私は、植物のウチョウランにおいても、ド派手な美しい改良品種よりも、山で見つかったままの系統の相対的にみて素朴な品種の方が好きだった。
後は魚のベタに関しても、ハーフムーンとかフルムーンとかゴージャスな改良品種も良いが、プラガットで、色味も一見地味だが美しく力強いワイルドベタと呼ばれている原種のベタの方が好きだった。
ハオルチアに関しても、原種が好きになるのは自身の好みとして至極真っ当な流れであった。


というようなことがあり、いくつか原種のハオルチアを入手してみた。
驚いたことに、原種のハオルチアは、
「学名、採集者、採集者が付けた番号、産地」
がセットになったラベルが付けられて栽培家の中で管理されている。
採集年月日があればほぼほぼ昆虫標本のラベルと同じだが、そこは勝手が違うようだ。といっても採集者が付けた番号は、固有の年における通し番号だったり(そこのルールは採集者同士で統一はされていないらしい)するため、発見者にあたればおそらく大体はわかるのであろう。
日本の山野草なんかは、その道の方ならば入手ルートで大体推察はできるのであろうが、私の知る限りそこまで明確なラベルは一般的には付けないのではないかと思う。
乱獲にもつながってしまう恐れもある。
南アフリカのこの山、といっても、そもそも探し当てられるような規模では生えていないのだろうか。その辺の事情はよくわからないが、情報大好きな私とっては、このような固有のラベルで管理されているという点でも原種ハオルチアはとても好ましく感じられる。

しかし、たとえ同じラベルのものでも、有性生殖つまり種から育った実生か、無性生殖なクローンか、その発見時の野生個体から、どういう方法で栽培増殖されてきた至現在な個体なのかにより形質が異なるようだ。
だれそれさんがタネから育てて選抜したその中でもいい感じの個体ですよ!とか、見つけた当時の個体から延々株分けして増えたクローン個体ですよ!とか。
園芸奥深すぎかよ。


つまり同種でも産地が違うもの、
また仮に産地が同じでも栽培されてきたルート・由来が違うものは形質が異なる、という集めがいがある世界なのだった。気に入った種があれば、そればかり集めても面白そう。


H.doldiiとかH.teneraをお迎えしてから、
モジャモジャ系のハオルチアの可愛さに開眼しつつあるため、
来月あるらしい多肉植物の即売会では、Haworthia odetteae というモジャ丸い、毛玉みたいな可愛い種を探してお迎えしたいと目論んでいる。


ハオルチアそのものの価値ももちろんだが、次の楽しさもある。
植物はその土地のDNAだという人もいるが、その通りで、
長い長い時間スケールのなかの今、地球の広い空間スケールのピンポイントで生き抜いてきたハオルチアを、これ綺麗だねーって世界中の愛好家の人たちがみんなで愛でているという状況が楽しい。
野生の個体においては、節度のある採集を期待する。

今月はもう増やさない予定だけれど、また何か新しいものをお迎えしたらまた紹介したい。


原種たちの写真も追々追記します。


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