見出し画像

日本サッカー史に残るキャプテンの【メンタル術】とは

突出したテクニックがあるわけでもない。

試合を決定づけるフリーキックも、持ち合わせていない。

高校のサッカー部では、これといった戦績を残していない。

しかし、高校卒業後にはJリーグの名門である浦和レッズに入団し、2年目にはレギュラーに定着し、いくつものタイトルを獲得。

その後ドイツ1部リーグに渡り、2年目にはリーグチャンピオンに輝く。

日本代表でも長年キャプテンを務め、ドイツ1部リーグでは「309試合」に出場し、「ドイツ1部リーグ・アジア人最多出場記録」を達成。

サッカー選手であれば誰もがこのようなキャリアを歩みたいと思うであろう。

しかし、その張本人は自身のことを「突出した能力がなく、サッカーの監督や関係者にとっては評価しづらい選手」と分析している。

では何故、プロサッカー選手としてここまでの栄光を収める事が出来、36歳になった今もなおヨーロッパのトップレベルでチームの主力として君臨し続けられているのだろうか。

この【心を整える】は、そんな長谷部選手が突出した能力が無い中でも、プロサッカー選手として生き残る為の【概念】が記されている。

1.【心を整えるとは】
 
2.【過度な自意識は必要ない】
 
3.【集団のバランスや空気を整える】
 
4.【群れない】
 
5.【変化に対応する】
 
6.【特別な“何か”を求めるな】


「今すぐにでも成功したい」と考えているアスリートやビジネスマンにとって必見の内容である。

1.【心を整えるとは】

メンタルは強くするものではない。

メンタルは「調整」するものだ。

スポーツにおける「心・メンタル」といえば、「強くする」という概念が蔓延っているが、あくまでも長谷部選手は「心は調整・調律するものだ」と考えている。

例えば、長谷部選手は2010年の南アフリカワールドカップの期間、「心を鎮める時間」を意識して取っていた。

サッカーの大会中はというと、組織としての集団生活を重要視する為、食事や宿舎での生活もチームメイトと送ることが主流だ。

メンバーの仲を深めるといった面では大事かもしれないが、本当の意味でリラックスする時間は無いに等しい。

だからこそ、多くのプレッシャーがかかるワールドカップの舞台で、「心を鎮める時間」が大事だと長谷部選手は考えた。

長谷部選手は必ずチームのスケジュールが終わると、チームメイトと戯れることなく自室に帰り、心のメンテナンスをする時間を30分設け、「心を整えた」。

そうすることによって、重圧が押しかかるワールドカップという舞台でも、平常心を崩すことなく、ゲームキャプテンとして闘え抜くことができたのだ。

2.【過度な自意識は必要ない】

「胃薬に頼る事もあった」

いくつもの大舞台で重役を成し遂げてきた長谷部選手でも、若い時は周囲の視線や期待に悩まされ、本来のパフォーマンスを発揮出来ない時期があり、体調不良に悩まされることも多くあった。

若くしてJリーグで活躍し、日本代表にも選ばれるようになり、世間の期待を過度に背負ってしまったのだ。

はじめて日本代表に招集された時。

「うまく馴染めるのか」

「チームから認めてもらえるのか」と、

不安になっていた。

蓋を開けてみると、プレー面では問題無かったものの、ホテルで自室を出る時には「廊下で先輩に出会わないかな」と心配してしまい、気楽にドアを開けることが出来なかった。

ドイツに渡った後、そんな長谷部選手のメンタル状況を心配したヴォルフスブルクのマガト監督は、メンタルトレーナーのカウンセリングを推薦した。

そうして、90分の片道をかけて、カウンセリングを受けたこともあった。

しかし、ドイツに渡ってから一年。

気がつけば、胃が痛くなるというストレスに襲われなくなった。

答えはいたってシンプルで、「自意識を捨てる」ということ。

海外の人間は良くも悪くも最大の関心は自分自身であり、周囲の人間が何をしているかなどあまり気にしていない。

日本にいる時は過度に周りを気にしてしまい、それがストレスとして蓄積されていたのだ。

自意識を捨て、図太く、鈍感に。

そうすることができれば、いかなる環境でも「自分らしさ」を追求できるのではないのか。

誰も“オマエ”のことなんか気にかけていないということだ。

3.【集団のバランスや空気を整える】

「ゲームキャプテンはオマエにやってもらう。オマエは誰とでも分け隔てなく話をすることが出来るし、独特の明るさがある。何か特別なことをやろうとしなくていい。今までやっていた通り、いつもどおり振る舞ってくれ」。

南アフリカワールドカップの直前に、前ゲームキャプテンであった中澤佑二選手に代わってゲームキャプテンに任命された時、岡田武史監督に言われた言葉だ。

ワールドカップ直前、代表の下馬評は最悪だった。

壮行試合ではひどい試合内容を国民の前で披露してしまい、何もかもが上手くいってなかった。

そんな中、岡田監督はたくさんのテコ入れを行った。

しかし、そのテコ入れすらも「上手くいく」と予想していた人間は少なく、期待されていなかった。

そんな中行われたワールドカップ第一戦。

相手は強豪カメルーン。

岡田監督が施した戦術変更が功を奏したのもあり、代表チームは本田圭佑選手のゴールで期待を裏切る勝利を手に入れた。

期待の低さ。
独特な重圧。
自分たちに対する疑心暗鬼。

これらのものから解き放たれた選手たちはその感情を爆発させた。

試合終了後のロッカールームや帰りのバスで歌を歌いながらその喜びをそれぞれの選手が表現していた。

しかし、長谷部選手は冷静になった。

もちろんチームとしては喜ばしい結果ではある。

このまま突き進んでいきたい。

でも、試合に出場できなかった選手たちは今どんな心理状態なんだろう。

決して心のそこから喜べないはずだし、それはいち選手として当たり前のことだ。

試合に出れず悔しかったとしても、チームの輪を乱さない為に同じテンションに合わしているのか。

長谷部選手は試合に出れない選手の気持ちも十分に理解していたのだ。

だからといって全員が全員その選手たちをケアするのは不自然である。

しかし、このチームを俯瞰した時、その役割をする選手がいなかった。

熱くなる選手が多ければ自分は冷静になり、声を出す選手が少なければ自分が率先して声を出す。

前線に立ってチームを引っ張るというのも立派なリーダーシップではあるが、長谷部選手は組織の穴を埋めるようにチームを調律していくのだ。

4.【群れない】

派閥を否定している訳ではない。

派閥同士で切磋琢磨し、結果的にその組織のレベルが向上することだってある。

長谷部選手はいつの時代も派閥というグループに属さないように生活を送ってきた。

例えば子供の頃。

皆から無視されていた子とあえて一緒にいるようにしていた。

浦和レッズに所属していたときも派閥には入らないように意識していたため、時に「一匹狼」として見られることもあった。

何故そこまでするのか。

それはグループの力に甘えたくないからだ。

あそこまでの地位に立てば、様々なグループが手を差し伸べてくれるだろうが、長谷部選手は一人の力で勝負することにこだわった。

ピッチ外で派閥の力が生じてしまうと、ピッチ内で甘えが出てくると考えたのだ。

「全員と信頼関係を築きながら、それでいて特定のグループには属さないスタンスが僕は好きだ。もしそれが実現できれば、どんな逆風が吹こうとも、自分の芯も、チームの芯も、簡単には揺らがないのではないだろうか」

5.【変化に対応する】

「宿敵韓国に大敗。
このままでいいのか岡田ジャパン」

それは、ワールドカップの為、サッカー日本代表が国内で行った最後の親善試合であった。

ワールドカップ参戦が決まり、ワールドカップに挑む為のメンバーも既に決まっていた。

その安堵感からなのか、選手たちのプレーには気迫を感じられず、精彩を欠いていた。

その姿に日本国民は落胆し、大敗した相手が宿敵韓国なだけあって、全体的なダメージを負ってしまった。

選手たちにも迷いが生まれた。

今までは一貫して攻撃的な「前線からプレスを仕掛けるスタイル」を岡田監督のもと構築してきたが、このままでいいのだろうか。

ワールドカップで対峙するのは格上だらけ。
このスタイルは果たして通用するのか…

ワールドカップ直前に行われたスイス合宿で、長谷部選手は選手たちだけのミーティングを提案した。

そこでは、「戦う気持ちはあるのか」、「ワールドカップに臨む準備は出来ているのか」という姿勢問題から、

「前線からプレスをかけるべきなのか」それとも、「守備的にはなってしまうが、ある程度低いところで守備ブロックを敷いて、カウンターを狙った方が勝率は高いのではないか」

という戦術的な議論まで行われた。

その後、岡田監督は大会直前にして大きな「指針変更」に打って出た。

メンバー構成からゲームキャプテン、チームとしての戦い方も、攻撃的ではない「守備ブロックを敷いたカウンターサッカー」への移行を決断した。

その後、行われたイングランドとの親善試合。

岡田監督は決めた。
もう後戻りは出来ないし、
長谷部選手は付いていくしか無い。


そう頭では分かっていても、なかなか思うように行かなかった。

このままではいけない。

そう思っていた時、長谷部選手は遠征に持参していた【ニーチェの言葉】の文中からこのような言葉に出会った。


脱皮しながら行きていく

脱皮しない蛇は破滅する。

人間もまったく同じだ。

古い考えの皮をいつまでも被っていると、やがて内側から腐って行き、成長することなど出来ないどころか、死んでしまう。

常に新しく行きて行く為には、僕たちは考えを新陳代謝させていかなくてはならない。

長谷部選手は岡田監督の決断を頭では理解していたのだが、腑に落ちていなかったのだ。

「正解は一つではない」

何に対しても固定概念にとらわれてはいけない。

正解を決めつけてしまうと、自分が知らない物の見方や価値観に対して臆病になってしまう。

「考えは生き物であり、常に変化していく」

そう思った長谷部選手は決して岡田監督の決断が「逃げ」ではないことに気がついた。

そして、「脱皮すること」を決断したのだ。

6.【特別な“何か”を求めるな】

「成功するための5つの法則」

「お金稼ぎも夢じゃない。ビジネスの裏技を大公開!」

このような言葉たちは大嘘だ。

冒頭で、

「今すぐにでも成功したい」と考えているアスリートやビジネスマンにとって必見の内容である。

と書いたが、そんなものは残念ながら存在しない。

しかし、不思議なもので人間はそれを頭で分かっていても、ついつい楽の道に走ろうとする。

だが、長谷部選手はどうだろうか。

何も派手な魔法を習慣にしているわけではなく、日頃からこのような小さな事を積み重ね、ここまで生き残ってきているのだ。

2002年からプロキャリアをスタートさせ、3度のワールドカップに出場。

そして、その全てでキャプテンを務めた。

2020年の現在も尚、ヨーロッパのトップで活躍し、ドイツ1部リーグ・アジア人選手最多出場の記録を達成した。

全ては「継続」なのだ。

それを長谷部選手が自身の人生を持って体現してくれている。

決して不可能なことでは無いだろう。

これを読んでいるあなたも何か小さなことでもいいから、一つ一つ積み重ねてみよう。

積み重ねることによって、新しい価値観に出会えるかもしれない。