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【成田流“ゼロイチ思考”とは】

今回は、函館を中心に指導者として活動されている成田響純さんにインタビューをさせて頂きました。

幾多の試練を乗り越え手に入れた『ゼロイチ思考』について。壁にぶつかる度に向き合った『人生哲学』について聞いてみた。
 

【自己紹介】
「小学4年生からサッカー、GKを始める。チームは全道大会常連の強豪チームだったが、実力不足から公式戦は10試合も出場出来なかった。高校では、部員人数が少なく存続すらも危ぶまれる状態であったが、3年時にはキャプテンに。

卒業後は短大に進学。社会人サッカーとフットサルチームに所属しながら、『幼稚園教諭』と『保育士』の資格を取得。卒業後保育士になる予定だった。しかし、フットサルの魅力に惹かれ、プロフットサル選手を目指す事を決める。

土壇場でエスポラーダ北海道のサテライトに拾って頂き、1年在籍、夢の始まりと思いきや、実力不足の現実に挫折、怪我もあり満足にプレーすることないまま退団し、現役引退。

指導者へ転身し札幌を拠点に指導活動を開始する。
現役時代にコーチを務めていたクラブチームのU12の監督に正式に就任、他、北海道GKスクールなども所属しながら様々な現場で活動。

翌年、新たなクラブチームに移籍し、U15のヘッドコーチを務め、その他U12、社会人フットサルカテゴリーに所属するトップチーム、サテライトのGKコーチなどを務めた。
しかし、その最中でうつ病を発症、そこから一度死の淵まで落っこちてしまい、1年近く休職や閉鎖病棟へ入院など経て、2017年9月地元函館に戻ることになる。

その後1ヶ月程の休養と入院を経て治療を続けながら、函館の社会人フットサルチーム エイトビートにチームダイレクターとして加入。
チーム指導と采配を担当。

翌年2018年には函館大谷高校サッカー部と契約し2ndチーム監督、GKコーチを務める。
エイトビート加入2年目からは監督を務め、チームを指揮、3年目の現在はヘッドコーチを務めている。
その他では、2018年11月、函館を拠点とするHakodate Football Academy SOLE&TOEをカナリアショップオーナーの尾森氏と設立し活動を開始。

現在フットサルスクールを開校し、小学生を対象にフットサルの普及を務めている。現在も精神疾患の治療を続けながら、他、チーム単位のフットサルクリニックや、期間限定フットサルチーム指導、函館に新たに設立された女子フットサルチームのアドバイザー、新たに開校した北海道GKスクール 函館校のメインコーチ、分析映像作成など多岐にわたりフットボール指導者としての活動している」

プレイヤーとしてはサッカーからフットサルまで経験し、指導者としてもヘッドコーチやGKコーチまでこなし、スクールの立ち上げにも携わっている。そんな経験豊富な成田さんが指導者として最も注力している事は何なのか。

「『思考』になります。この部分は僕自身がエスポラーダ北海道のサテライトに所属していた時に最も自分に足りなかった部分であり、非常に悔いの残る部分にもなります。具体的には、一つ一つの練習やプレーの意図を汲み取ること、分析すること、『なぜ?』という視点を持つといった『思考』です」

今では、指導者として武器となった『思考』に対して、どのような後悔があったのか。

「もっと思考して日々の生活を送ることが出来ていれば、一つ一つの行動に責任を持ち、問題を見つけ、改善する意識が身に付いていたと思いますし、そうすれば選手生活にもっと価値を見出せたのかなと思います。
それを指導者としての観点に置き換えると、今現場で携わっている選手たちがより、一つ一つの練習、試合、人生に対して思考し、より『なぜ?』を意識しながら問題解決に取り組むことがスタンダードに出来れば、一人の人間としてサッカーのキャパに限る事なく、より存在価値が上がるのかなと。
それは仮にプロになったとしても必ず役に立ちますし、セカンドキャリアにも役に立つと思います。そしてプロにならずとも、一人の人間として、社会に出た時により自分の武器を把握して社会を生きることにより、魅力的な人生を送れるのかなと思います。
そうした意味で、現在幼児から大人まで指導現場に携わっていますが、そのすべての選手を対象に思考出来るようになる為のアプローチに力を入れています」

確かにそうだ。思考するのとしないのとでは、その後の行動の質が大きく変わり、自身の成長を実感する事が出来る。例えば、現在指導にあたっている選手達に、一つ一つの「練習、試合、人生」において、どのようなアプローチを仕掛け、『思考』に導いているのか。

「対話です。しっかりと互いの思考を共有するという部分を心がけ、アプローチの方法としては、明快で分かりやすいかつ、正確なコミュニケーション『ロジカルコミュニケーション』を用いて、物事を体系立て、選手側の思考を導き出して、更に解決策を互いに思考しようと試みます。 
その中で、選手側の思考を、練習、試合、人生に置き換え、話を広げつつ、それぞれの題に対しての思考を導き出していきます」

その『ロジカルコミュニケーション』は我々大人にとっても大切な鍛練となる。しかし、特には幼児クラスやジュニア世代の選手達に対してそのようなアプローチを取る事はなかなか困難な事ではなかろうか。

「困難な部分は正直ありました。分かりやすく言えば、子どもが言おうとしていることを先取りして話を広げてしまう時があるんですね。なので、しっかりと話を聞いたうえで、話の道順を提示し、言葉を繋いでいきます。
後は私自身、幼稚園と保育士の免許を習得しているのですが、その際の勉強や実習での経験も活きています」

「子供が言おうとしている事を先取りし、話を広げてしまう」事によって、どのような「機会損失」を生んでしまうのか。

「『思考意欲』の損失を生んでしまうと考えています。それこそ会話が一方通行になってしまうというケースがよくありますが、子どもが言わんとする意図を全て先に汲み取り、話してしまい、子どもが"うん"だけで終わってしまわないように、敢えて我慢しながらその子自らの言葉を引き出してあげるのが、損失を抑える手段の一つなのかなと」

選手の思考を導き出せるよう対話に細やかな気遣いを忘れない。このように、常に選手の事を考えながら指導現場に立っていると、成田さん自身にもその「思考術」が身に付いているはずだろう。「思考に後悔した男」が、「思考を武器」にしているのだから面白い。その中でも成田さんはどのような思考術を得意としているのだろうか。

「『ゼロイチ思考』です。戦術や練習はもちろんのこと、何かしら新しいアイディアを生むことを得意としています。何もない所から何かを作るというところで勝負をしてみたいと思いますね。同時に、やはり選手にも同じ思考を持ってもらいたく、先程の回答の中で『なぜ?』という考え方を持つことが大事だと述べましたが、そこから更に新たな、例えば戦術的なアイディアを生む選手が増えればもっと、指導者、選手含めて勝負に挑む意欲が上がるのかなと思います」

その「ゼロイチ思考」からはどのようなアイディアが生まれるのだろう。

「例えば一つのアイディアとして、住んでいる地域が北海道の函館市なのですが、『函館にサッカーの魅力はあるのか?』というテーマで、サッカーをする子どもや選手を集め、グループディスカッション会を行うとしましょう。
地域の特産や特長、この地域にはどのようなニーズがあるのかを考え、アイディアを出し合ったりします。函館は観光が有名です。『観光は楽しむ』ものですから、その部分と『観ていて楽しいサッカー』という要素を繋ぎ合わす事が出来るし、私からは『楽しいサッカーってどういうサッカーが良いかな?』と、コミュニケーションを図ります。そのようにして何もない所から『その地域特有のサッカー』を創り出し、サッカー関係者のみならず、地方創生などに携わる方々も一緒に参加して頂くと。このようにして『ゼロイチ思考』を用いる事が出来ますね」

素晴らしい。僕は「サッカー×地方創生」というテーマに非常に興味を持っている。成田さんは「サッカー×地域創生」についてどのように考えているのだろう。

「内閣官房・内閣府 総合サイトに掲載されている、地方創生とは?には、『東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みやすい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持することを目的とする』と記述されています。
詳しくはサイトを見ると非常に面白いのですが、それをサッカーに絡めて一つ挙げるとするならば、行政で行う地方創生への取り組みよりも、比較的サッカーをツールとして取り組む方が取り組みやすいと思います。
前提として、地方に競技レベルのサッカー或いはフットサルチームがあるとします。まず高いレベルを目指すチームがあれば、競技レベルが向上するのと同時に、試合自体の質が向上され、試合を観る面白さが充実し、『試合そのものの価値』が高まります。
そこで少しずつ観戦する人や応援する人が増えてくれば、そのチームと『地域への愛着』が生まれてきて、そこに企業が絡んでくれば、『地域活性化』や、『雇用の発生』を創り出す可能性が出てきます。この街でチームを応援したいという気持ちを醸成させる事が大切です。そういった意味ではサッカー×地方創生の取り組みの可能性が広がっていきます」

なるほど。「サッカー×地方創生」を考える時、難しい事を考えてしまっていたが、最も大切な事は「この街でこのチームを応援したい」と思える事。その軸を絶対に忘れてはいけないと思った。

成田さんはこのように、目の前の事柄に対して真摯に向き合い考え抜いている。その中から自分の考えやアイディアを創り出している事が伺えるのだが、どのようにしてこの姿勢を確立させたのだろうか。何かきっかけがあったのか。

「うつ病を患った事が大きなきっかけです。21歳で現役を引退し、22歳の時に指導者としてキャリアをスタートしたのですが、チームとして結果を出すことの難しさに葛藤するのと同時に母親の病気が重なってしまい酷く落ち込んでいきました。一度落ちてしまうと、中々這い上がるきっかけがなく、人にも言えないという部分もあり、本当に人生を終わらせる寸前まで行き、結果的に23歳の時に精神科の閉鎖病棟へ入院しました。
人生で一番のどん底とも言え、人格が消えていた時期とも言えます。
その時期から現在26歳である3年間で、時間はかかりましたが、まずは『生きる』ことを再び始め、コツコツと自分と向き合いながら現在にいたります。
しかし、その期間というのは、思考についてよく考えた期間でもありました。どん底はどん底でしたが、底を知ってしまうと、もうそこから失うものがないと気付きます。
それがより良いキャリアを構築するきっかけでした。そこからは人生に挑戦するようになり、今では様々な現場で選手、子どもたちに出会うことが出来ています。
そしてもう一つ、人との繋がりの大切さに気付かされました。どん底に落ちた時、支えてくれた方が親を含めて、沢山いました。
生きる価値が無いと思っていた自分に様々なきっかけを与えてもらい現在に至ります。
そう考えると、一番の困難や壁であったのと同時に、一人の人間としての価値を見出すこと、『自分に素直であること』の大切さに気づくきっかけになりました。
なので、今日までこうして、今回こんな私にインタビューして頂いているSS@footballさん含め、関わって頂いている方々へ本当に感謝です」

どん底まで落ちたからこそ、そこからは這い上がるしかない」壮絶な壁を経験したうえで、成田さんの持つ「人生哲学」にはどのような変化があったのか。

「一番の変化は『価値観の捉え方』になりますね。
具体的には、価値観の捉え方は私みたいに人生の生きる意味を失う者もいれば、世界を動かす者まで、人間であればとてつもなく様々な価値観の捉え方が存在します。
これだけの振り幅がありながらも、一つ共通することが、価値観の捉え方は変えることが可能ということです。つまり自分次第でいつ、どこでも変えられる。
もちろん環境や立場によってはそう簡単に変えられない人も存在しますが、価値観は行動を表現するとも思いますので、つまり、思考次第で人生は大きく変えられる可能性が十分にあると気付きました。
うつ病を患う前はそんなことを少しも考えませんでした。もうどうにかなるだろうと。〜だろう感で生きていましたが、それでは人生を上手く楽しむことは難しいなと実感しました。人を批判的、否定的な視点で観ることも多かったのですが、『褒める』、『良い部分を探す』など、を意図的に行い始め、それが少しずつ新たな価値観に変わっていきました。
そして、こういった本質を求める思考の仕方が自分の今の哲学にあたると思います」

「『人生は一度だから自分に素直に生きる』『知れば知るほど楽しくなる』という事を伝えていきたいです」

その為に我々が出来る事は。

「『肯定』することです。
自己に対しても他者に対してもまずは肯定出来ることを探す意識が大切だと思っています。
あとは常に『?』を持つ。否定的なものではなく、単純に何で?どうして?と興味を持ってみる。そうすることで他者との会話も始まり、自然と『知る』ということが増えると思います」

積極的に考え、積極的に人生を生きる。

成田さんの今後の展望を聞いてみた。

「このご時世なので、現状の指導の活動は全てストップしています。これがいつ復活するのかというのも予想が難しいです。出来ることはシンプルで、用いるとが可能なツールは使うだけ使って、『伝える』をしていきたいです。
ただ、この世の中には縁というものがありますので、全く予想の出来ない展開があるかもしれません。いつでも全力で誰かのお役に立てられるように、勉強を続けて、準備をしていきたいと思います」

思考から逃げない事が人生を豊かにするキーワード。

いま直面している壁、これから直面するであろう壁を「思考」する事によって乗り越えていきたい。

最後まで読んで頂き有り難う御座いました。

成田 響純 (@KYOJUN_NARITA)さんをチェックしよう https://twitter.com/KYOJUN_NARITA?s=09