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「最近気づいたんだけどさ」
「ほい、なんでしょか」
「俺、近所の肉屋のいいカモにされているかもしれない」
「詳しく聞こうじゃないの」
「最寄りの近くに肉屋あるじゃん。覚えてる?」
「入ったことはないわ」
「そっか、お前くる時軒並み閉まってるもんな」
「そうなんだよな。それで?」
「そこってめちゃめちゃ美味い唐揚げが買えるんだけどさ」
「あー、まだお前の感想でしかその存在を拝めてないやつね」
「もう完全に顔を覚えられててさ」
「まぁよく買ってたら覚えられるわな」
「通るたびに『やぁ!』って呼ばれるわけ」
「あら〜」
「俺はさ、別に毎日食べたいわけじゃないんだよ。俺にだって気分があるわけで。でもな、あの顔見たらさ、『どうも〜』っつって入っちゃうんだわ。わかるだろ?」
「んー、店の人のビジュアルもまだわからんから共感しかねるな」
「ジャムおじさんの人間性を引っこ抜いて阿部寛に移植したような人」
「あ〜ら混沌としちゃって」
「ジャム寛に呼び止められる日々なんだよな」
「あ〜そっち取っちゃったか。阿部おじさんではないんだ」
「俺の意思の強さとか関係なく、日々徐々に『やぁ!』に抵抗できない体にされてるんじゃないかと思い至り」
「『カモかも!』と」
「そう」
「診断結果なんですが」
「出るの早いね」
「カモです」
「そうですよね」
「そんなカモを目撃したいので、今日は俺を連れてけ」
「なるほど、お前思ったよりも運ないから今日も閉まってる可能性あるけど」
「大丈夫、大丈夫だよ」
「その自信はどこから」

〜誠に勝手ながら、本日より2週間は営業時間を午前中のみ(13時まで)とさせていただきます。手洗いうがい、気をつけて!〜

「……うーんと」
「よりによって今日からこんなことが」
「お前がカモになる呪いよりも俺がこの店閉じさせる呪いの方が強いんじゃないの?」
「やめろよ縁起悪い。そしたらお前、毎日こっちきたら閉店しちゃうだろここ。絶対2度とくるなよ?」
「うわ、理不尽。でもこれで解法が見えた。土曜の午前中にくれば確実に入れる!」
「どっこい土曜は仕入れの日だから午後からの営業なんだな」
「あー、悲しくなってきちゃったな。カモになれるだけ幸せだって思えてこない?」
「確かに。お前と違ってここの唐揚げ食えるし」
「泣いちゃいそ〜〜」

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