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Review#13:IMPUZZIBILITIES (Jim Steinmeyer)

研究家としても名高い、Jim Steinmeyer氏によるセルフワーキング小冊子シリーズの第1巻、Impuzzilibitiesです。

2023年6月時点、全10巻発行されています。学生時代に米国でインターンをしていた際、当時6巻まで出ていたImpuzzibilitiesシリーズを全買いした記憶。タイトルは”Impossibilities”と”puzzle”の合成語、でしょう。

なおMAJIONさんにて第8~10巻が販売されているようです。いつか読む(積読宣言) 2巻はこちらでレビュー済。

セルフワーキングと侮るなかれ

本シリーズは、いずれも"Strangely Self-Working and Interactive Conjuring"をテーマにしており、セルフワーキングかつインタラクティブに現象が起きるものばかりです。

解説の基本的な流れは、以下のようなものです。

セルフワークが成立する原理の紹介⇒そのバリエーション・アイデアの紹介

セルフワーキングだし大したことないやろって思ってたんですが、結構巧妙なアイデアが多く、唸りました。ギャンブリング系の現象がやや多い(ポーカー、モンテ)気もするのですが、ここで紹介された原理をベースとして、十分に研究する価値ある内容だと感じました。

また、これらの作品群は、古典的な数理トリックをアレンジしたもの、さらにシンプルにしたもの、そこから新たに発見された原理、などなので、原典を当たってみるのも勉強になりそうです。アイデアの元となる作品がある場合については言及があるのも、さすがSteinmeyer。

さらには、電話越しやラジオ、テレビ越しに観客の手元で行える(いわゆる、”hands-off”)の作品も多いです。 Three Card Monteとか電話越しにぴったりの作品だと思います。

それゆえに、まずはカードを手に持ち、自分自身で手順をなぞってみることができるんです、この本。何度「不思議やん?」と読んでいる最中に声をあげられるので、読んでて楽しいです。

だがしかし、電話越しにマジックする機会ってあるんでしょうか、って思うんですが…(苦笑)プロならともかく、アマチュアがこれを行うというのはどういう状況なんでしょうw意中の女性と電話してる際に、「メアリー、面白いものを見せてあげるよ。じゃあ、カード3枚を手に持って…」という状況なんでしょうか…。うん、でも、すぐ手元にトランプがあるメアリー、そいつはきっと手品師だ!
(なお、"hands-off"でコインを使った作品も紹介されているので、意中の女性に電話をおかけになる際はそちらをどうぞ)

しかし読んでて舌を巻くのはそうなんですが、Steinmeyerの凄さにちょっと引くんですよね。こういうセルフワーキングの研究に加えて、イリュージョンデザイナーだし、Conjuring Anthologyという本に掲載されている各種手順も素敵なものが多いしで、スーパー手品クリエイターです。手品業界にこういう方がいてくれて本当によかったなと思います。

あ、あと、解説文自体は非常にあっさりしていますが、英語自体もかなり論理的で平易な書きぶりなので、英語が得意じゃない人にもオススメです。

掲載作品

ほな作品紹介して終わります!

1.The Nine Card Problem

9枚のカードで織りなすセルフワーキングトリック。自分でやっても驚きます。不思議です。数理トリックではあるのですが、そう簡単には追えないと思いますし、応用が効きそうなトリックではあります。最後は"magic"とスペリングしてrevelationしたくなる。

2. The Full Deck Problem

電話越しにもできるフルデックで行うカードロケーション。Nine Card Problemの原理を使っているのですが、不自然な動作もあり、逆算するとすぐにトリックが明かされてしまう気がしなくはない。この本の中ではちょっと微妙です。演出次第でカバーはできそう。

3. Dimes & Pennies

トリックコインの題名のようですが、そうではなくて、ダイム(10セント)とペニー(1セント)を複数用いる数理トリックの原理。客の手の中にあるコインの合計から引き算を行わせた結果を当てる、という原理です。日本円でも1円玉と10円玉があればすぐできます。ただあんまり日本人って小銭ポケットにいれていないので、ぱっとその場でやる状況にはなりませんね(笑)これは電話越しで可能ですし、10円玉1円玉はお財布に入ってるでしょうから、いいかもしれません!なお、友人にやってみたところ、あっさりと逆算されたので、あくまでこれは「原理」として何かしら応用しなくてはならないかなぁと思っています。

4. A Quarter to Nine

Quarter(25セント)コインを加えることで、さらにデセプティブかつ引き算不要としたもの。観客は足し算のみするように負担が減らしてあります。(が、これにより、逆算されやすくなっている気もしなくはない…笑)

5.The One o’clock Mystery(おすすめ)

時計板の上に指を置き、指示通りに移動した先の時刻を言い当てます。
いやぁ、これはすごい。数字のスペリング(英語)は必要なものの、不思議です。自分でやって「なんで!?」と言ってしまった。鮮やかです。この本の中だと圧倒的なおすすめ。

6. The Three Mystery

One o’clock mysteryは実は12時まで必要なくって10時までの時計でもできるよ、というバリエーション。

7. The King Mystery

上記5~6の原理をカードに応用しましょう、というもの。こうやって様々な応用を考えるんですね、クリエイターの人って。全然印象が変わる。

8. Understanding the Bermuda Triangle

ダグ・ヘニングから教えてもらったアイデアを用いた数理トリック。40〜50個くらいの何かモノ(コインでもカードでも)を用いて、各辺ごとのモノの数を13個にして大きな三角形を作ります。そこに、さらに何かモノを加えますが、数えても数えても各辺は13個のまま。これを4、5回繰り返せます。
自分でやっても楽しいです、このマジック。この本でこれまでに出てきたものに比べて、かなりマジックらしいものになっていると思います。実際、床にこの三角形を作って、”play big”(大きく演じる)にできる、とステインマイヤー氏も書いています。ウケるかは別だが(笑)

9.The “Ten Boys” Poker Deal

10カードポーカーディール。シャッフルしながら3回ポーカーハンドを配りますが、徐々にマジシャンの手札がよくなっていき、最後にはロイヤルフラッシュに。自分でやってて楽しい系。あまり応用が思いつかないのですが、ポーカーデモンストレーションなどをやる人は、こういうセルフワーキングものを間に入れると、良いアクセントになりそうだなぁ、と。Woody Aragon氏の作品が、それに近い気もします。

10. The Five Card Mix

5枚のカードを用いた“hands-off”の作品(というか原理)。1枚ずつカードを取り除いていき、最後の1枚をマジシャンは当てることができます。いいなぁ、これ。ショーで5枚カードお客さん全員に配って、やりたくなります。ちょっとした演出のアイデアも紹介されています。

11. Automatic Poker

これまた10カードポーカーディールです。が、カットやら裏表ごちゃまぜやらでとにかくめちゃくちゃにして、その後に手札を配ります。表裏ぐちゃぐちゃではあるのですが、マジシャンの元にはフルハウスが…!というもの。混ぜ方の指定とかも、結構緩く自由度も高いため、不思議です。これ、何かに使えそうな感じがある。

12. Three Card Monte(おすすめ)

こちらも”hands-off”作品。裏向き3枚のカードで1枚が当たりのカード。観客が頭に好きな数字を思い浮かべて、その数字の回数、カードを回していきます。一連のランダムなカード移動を行ったのち、電話越しにマジシャンは当たりのカードを見つけることができるというもの!
ちょっとこれは自分で手を動かしながら、びっくりしました。電話でやりたくなります。意外と通用するんじゃなかろうか。

13. Teleportation

カードアクロスの現象。あるパケットからもう一方のパケットへカードが移動します。演出や台詞が全てモノを言いそうな作品。

気が向いたらまた他の巻もレビューしますが、たぶん気が向かないかもしれんですw

※本記事は過去ブログで執筆したレビューをベースに大幅に加筆修正したものです。

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