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財布を盗まれた日

みなさんは、今まで生きていてお財布を盗まれた経験はあるだろうか。
私はある。

今から二年前のこと。

その日も7月で、その日は友達と一緒に小樽のライブへ浴衣を来ていこうと予定をしていた。


札幌で浴衣を着付けしてもらい、小樽に行ってランチを食べ、ライブを見て、運河で写真を取り
札幌へ帰ってからは大通公園のビアガーデンでビールを飲んだ。

ちょうどすすきの祭りもやっていたので、歩行者天国でお酒を飲んだ。
その後白木屋でもお酒を飲んで、もう終電も無くなった時間にタクシーで帰った。


お酒をたくさん飲んだこともあり、次の日はお昼過ぎまで寝ていた。
15時から、ネイルの予約をしていたのでそろそろ出かける準備をしようと思い
財布などの荷物を、昨日使っていた巾着からカバンに移そうと思ったところ、巾着がない…



昨日の行動を振り返る。
たしかにタクシーに乗っていた時は巾着を持っていた。

浴衣は着付けてもらったため、大きなカバンに浴衣や帯、下駄などの諸々を入れていて、昨日はその大きなカバンと巾着の2つの荷物を持っていた。

あ、あそこだ。

マンションの玄関で、オートロックの鍵を開けようとした際に荷物が邪魔で宅配ボックスの上に荷物を一旦置いたんだ。
でも、今部屋の中には着替えを入れておいた大きなカバンしか見当たらない。
確かに記憶を思い返しても、2つ置いたカバンを1つしか回収した覚えがない。

すぐに部屋を出て、玄関に降りて宅配ボックスを確認するとたしかに巾着はそこに居た。

焦って中身を確認すると、財布だけが無いのだ。
財布以外は驚くほどそのまま。


その時は、巾着に入るよう普段使っている長財布ではなく二つ折りの小さい財布を使っていた。
財布の中には、保険証とクレジットカード兼キャッシュカードと1万8,000円ほどの現金。


とりあえず、ネイルの予約が迫っていたのでその時はその巾着を回収しネイルへ行った。

とりあえず、移動中にクレカの停止だけ電話で手続きをした。

現金はそこまで大きな金額ではないしさほど痛手ではない。
でも保険証は無いと困るし、なによりその時に盗まれた財布は両親がグアムに旅行に行った際にお土産で買ってきてくれたものなのだ。(妹と色違い)


それが失くなったことがなによりも悲しい。
もちろん、玄関の宅配ボックスの上に荷物を置きっぱなしにした私が悪いのだが…


ネイルから帰ってきてすぐ、とりあえず交番へ行った。
「すみません、財布を盗まれたのですが…」というと
「どこでですか?」と結構な勢いで聞き返され
「自宅のマンションの玄関エントランスなんですけど…」と返すと
「すぐに行きます」とのことで、警察官二名が私のマンションへ来た。

幸いなことに、私のマンションの玄関には防犯カメラが付いていた。
ただ、周りの人達からはよく「マンションの防犯カメラはダミー」や「カメラで写っていても録画はされていない」など聞いていたので自分のマンションはきちんと作動しているのかも分からなかった。

そこからは、現場検証という形で玄関エントランスや宅配ボックスの写真をいっぱい撮り
財布はどのくらいの大きさで何色でどのブランドでどんな形のものか聞かれたり、どのような行動のあと何時頃に家に帰ってきたのか詳しく聞かれた。

お酒を飲んでいたとはいえ、私の記憶は鮮明だったし、幸いなことにタクシーも配車アプリを使っていたため、家に帰ってきた時間も分単位で確認して答えることができた。

とりあえず管理会社に確認してみて、もし防犯カメラがちゃんと作動していれば映像確認してみますとのことでその日は終わった。


それから一週間ほど経った頃、警察から電話で連絡が来た。
「財布盗んだ犯人が見つかりました」
という連絡だった。
犯行の瞬間はしっかりと防犯カメラに記録されていたらしい。


私は、同じマンションの住人かなと思っていたらまさかの新聞配達員の人だった。

私はなにより、マンションの防犯カメラがちゃんと作動していて、録画している映像も残っていたことに驚いた。


現金以外の、財布と保険証とクレジットカードはすぐに警察官の人から返してもらった。

現金は、警察が介入できないらしく、本人から受け取らなければならなく
「本人に連絡させるので、連絡先を伝えて良いか」と言われたが、そんな窃盗をするような人に連絡先教えて直接やりとりするの嫌だな、と思いながらも「こんな事言うのもあれだけど、全然怖い人じゃないから」とか言われて渋々教えた。
でも、こちとら財布盗まれてるんですけど。と思いながら。

わりとすぐに、犯人から直接電話での連絡が来た。

たしかに、腰の低いおじさんって感じの方が
「このたびは本当に取り返しのつかないことをしてしまって…申し訳ありません。
魔が差してしまって…」と言われた。
そんな風に謝るくらいなら、最初から盗まなければいいのにと思いながらもなんだかいたたまれない気持ちになった。

それから、後日直接返しに行ってもいいですかと言われ、
まぁそもそもマンションバレてるしなと思い承諾した。
「今は新聞配達ではなく現場での作業をしているので、その空き時間で行っても良いか」と言われ承諾したが、そうか新聞配達クビになったんだな。
そうだよな、勤務中に配達先で窃盗したんだもんな。
職を失うなら、やっぱり最初から盗まなければいいのに。とまた思った。


直接会った際、想像より小柄で疲弊感漂うおじさんが土木現場の作業着で
「すみません、本当にこの度は申し訳ありませんでした」と私に平謝りをしている姿を見て心が少し苦しくなった。

そんな人を責める気にもならず、もちろん置きっぱなしにした私の落ち度もあったので「いや、置きっぱなしにしていた私も悪いので…大丈夫です」と返すと
「いやぁ、本当にいい人で良かったです。助かりました」と言われた。

金額も、「この金額で間違いないと思います!収支をちゃんと管理してるんで」と封筒に書かれた正の字を見て
私はざっくりとしか財布の中身覚えてなかったけど、この中身を臨時収入だと思って盗んだあと正の字で収入の欄に棒を増やしたんだと思うとなんとも言えない気持ちになった。

私はそこまで大きい金額ではないから、と思っていたが、この人にとってはきっと大した金額だったんだろうなと思うと、よりいたたまれなくなった。


警察によると初犯だったそうだし、私は盗まれたものは全て返ってきたので起訴することもなく、そのまま終わった。


26歳の夏、財布を置きっぱなしにすると盗まれるという当たり前のことを改めて学んだ出来事だった。


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