禍話 第一夜(1)こっくりさん禁止の学校

散々今までこっくりさんの話をした後で何ですけども、こっくりさん禁止の学校の話ってことで。
ちょっとまぁ、あの聞いていただければ。
よろしくお願いいたします。

まぁこれも女の子の話で、
お前どんだけもてるんだって、もてないんですけど。聞いただけなんですけど。
その子の話なんですけど。

その子、僕より10歳下なんです。
ってことは、まぁ正直こっくりさんのブームなんかとうに終わった後の世代じゃないですか。
で、高校に入った時に、あのー、生徒手帳が配られるでしょ?
でまぁ結構暇だったんで、バーッと見てたんですって。その、暇な時に。全校集会の。
そしたら最後らへんに【こっくりさん禁止】って書いてあるんですって。

で「おお…なんか古臭いな(笑)」と思って。
ああ校則を最初に作った時から一回も変えてないんだろうな…なんてまぁ気軽に思ってたんですって。

でもその後で何度か、なんかそのスカートの丈とかが、実はそこはちゃんと変わってるんだってことを知って、
(え、じゃあなんでこっくりさんのとこだけ…?)
その…ねぇ?要らないから削除しちゃえばいいじゃんそんなとこ。そんな一文。全く無駄なんだから。
おかしいな、なんて思って。流行ってないんですよ?別に。

一回先生に言ったこともあるんですって。
そしたら先生も「そうだよねぇ」って。
「昔なんかあったんですか?例えば集団ヒステリーとか」
「うーん、特に聞いたことないんだけどね」
なんて。言ってたんですって。

で、結構年配の先生にも訊いてみたんですって。まあちょっと…興味があったんで。
「これ、なんでこんなずっと残してるんですか?」って言ったら、
年配の先生は
「なんか確か…その…人死にが出たとかじゃないんだけど、なんかトラブルがあって『それだけは残そう』ってなんかPTAの喧しい方が言って…残してるっていうのは聞いたことがあるよ」
なんて話だったんですって。

でも結局理由はわかんない。
長老みたいな先生にもわかんないみたいな。

へー…?って思ってたんですって。


ある時。

夏休みの前だったらしいんですけど。

家に帰って、さ、ちょっと宿題しよう!と思ったら、
「あ!学校に忘れた!」って。

朝早く行ってやれば全然間に合う宿題だったらしいんですよ。
簡単な。プリント一枚くらいの。
でも彼女真面目な人なんで、わりと。
今までの話を聞いてもわかるように、ちょっと疑問になったらその場で訊いちゃうような人だったんで、即断即決というか。
これ…学校取り行こうかな…って思ったんですって。

帰宅部だったんですけど、そのまま行ったらもう学校真っ暗なんですね。
わずかにグラウンドで一部そのなんていうか、部活してるくらいで。
真っ暗で、怖い。
昇降口行っても真っ暗なんですよ。
ただまぁ勝手知ったる自分の学校ですから、大体わかるからまぁ普通に上履きとかなんか履き替えたりして。

で、電気点けりゃいいんですけど、
使うのが自分ひとりで…
めちゃくちゃ点くんですよね、ばーーッと明るくなって。
それがちょっと彼女良心が咎めちゃって。真面目な子だから。
点ければいいんだけど、別にわかるし。
で、そこはなんか警備システムがすごいちゃんとしてるから、その…侵入者とかもろくにないようなところだったし、
まぁわかるからいいか、と思って取りに行ったんですって、校舎に。

そしたら校舎の中に誰もいないんだね、もう。いよいよ自分だけなんだよ。
自分のスリッパの音が響いてちょっと怖いみたいな。
怖いな、と思いながら、まぁ階段上って踊り場に行って階段行って…みたいな。

で、3階なんですってね、自分のいる教室が。
で、3階まで行って、そこも明かり点けずに…偉いよね、俺だったら普通点けるんだけど。
階段も廊下も全部点けずに行って。
というのは、その前はまだちょっと微妙に明るかったらしいんですよ。
微妙にまだ見えないこともないみたいな。

で、教室行って、教室も明かり点けずに、
あのもう、自分の机ってわかるじゃないですか。
パーッといってプリント取って、よしよしって言って、じゃあ帰ろうみたいなことを思って、
はっと気が付いたら、ちょっと暗くなってるんですって。
その、夕暮れって早いじゃないですか沈むのが。夏前とか特に。
うわ早いな、みたいな。
まぁでもいっか、あとはどうせ帰るだけだし、あとは階段通るだけだしいっかと思って出て、
さ、帰ろ帰ろと思って階段に差し掛かったら、

あれ?

踊り場に、人が何人か蹲ってるんですって。

え?え?と思って。
だって行きはいなかったからね。
しかも自分しかいなかったから音がすごい響いてたくらいだったから、
人が何人かいたらもう、即聞こえるじゃないですか。
え?え?な、何何??と思ってたら…なんかね、

二人はこっちに背を向けてる感じでしゃがみこんでる。
で、もう二人はなんかこう、こっち向きではあるんだけども暗いからちょっと顔が全然わかんないというか。

なんだ…?と思ってたら、
なんかブツブツブツブツちっちゃい声で言ってるんですって。

え、何何何?って思って。
ちょっともう…様子を伺いながらこう…見てたら、

こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん

ってずっと言ってるんですって。

ええええええ何何何何????こっくりさんしてるの????踊り場でこっくりさんしてるの????って思って。
怖いなぁなんて思いながら。

で、やってたら、なんかずーっとずーっと、なんか手は動いてるっぽいんだよね、4人。
で、

こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん

ってずっと言ってるの。

おかしいな?と。

彼女はこっくりさん素人なんですけど、
普通、
「こっくりさんこっくりさん、いらっしゃいましたらおいでください」
とか、
来てるんだったら質問してるじゃないですか。普通ね。

なのに、

ずーっと4人が口をそろえて

こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん

って言ってるんですって。

異常じゃないですか。状況が。

うわっ…って思って。

もちろんもう反対側の階段から降りりゃいいんですけど、さ、そうしようかなと思ったら、
真っ…暗なんですよ廊下。
で、もう、なんか…しり込みしちゃうというか。

で、彼女の中で、変な話なんですけど、
ずっと今「こっくりさんこっくりさん」言ってる連中が、もしですよ、
【反対側の階段に行って、居たらどうしよう】という気持ちがどんどん芽生えちゃって。
もうその場を動けないんですよ。

で、そいつらがずーーっとどんどん暗くなっていくんですよ。
もう夜18時、19時になっていって。
なのに真っ暗な踊り場で、見えるかどうかわかんないよね、もう紙の上を走ってる10円玉かどうか知らないけど。

ずっと

こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん
こっくりさん

って言ってるんだって。

その、はじめも終わりもないじゃない、そんなの。

で、うわって。
もう彼女はもうその場に凍り付いてどんどん額とか脂汗とか脇とかすごい脂汗を垂らしながら、
(え、これなに、これなに、なにこれ、いつ終わんのこれ…ていうかこっくりさんなんだから質問しなきゃダメじゃない!)
って思ったら、

いきなり、

こっくりさん
こっくりさん
こっくりさんは忘れ物を取りに来たんですか?

って言って。
えっ、って思ったら、4人が自分の方をじーーーーっと見てるのがわかるんですって。

で、うわーーーーーーーーーーっつってそこからもう記憶がないんですって。恐怖のあまり。

で、次に気が付いたのは、学校の一番近いコンビニで。スリッパ履いたままなんですって。自分は。履き替えないで。
恐怖のあまりですよね、そう、上履きを。

で、はっと気が付いたら、
店員さんに「大丈夫ですか?大丈夫ですか?…大丈夫ですか??」って。
アイスをぼーっと見てたんですって。
入ってから何も動かずにアイスをぼーっと見てるから、店員さんが「大丈夫ですか?」ってなって、「え、ええっ?!」って気が付いて。

あの、その踊り場で言われてから、コンビニまで一切記憶が無いんですって。

まぁ恐怖のあまりでしょうね。
全力失踪したんでしょう、すごい汗かいてたらしいから。
多分「うわーーーーーーー!!!!」って帰ってきて、ほら、下の方だと明かりが見えてきて、コンビニとか見えてきてほっとして、
まぁ、そういう…一時的な心神喪失状態っていうんですか。

で、彼女が言うんですよ。

そりゃこっくりさん禁止になるだろ…。
そんなことが起きるんだったら。

って。
言ってましたね。
そんな話がありました。はい。


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