禍話 第一夜(2)公園と酔っぱらい



これはね、あのー…飲み会でね、聞いたんですけど。明るい感じで。

後半ちょっと私は怒ったんですけど、まぁそれはなぜかっていうのは後でわかるんですけど。

その…知り合いが…まぁ知り合いの知り合いで、俺は全然知らない…顔も全然知らない人なんですけど。
まぁおっさんで、良い人なんですけど、酔っ払うとなんかこう、めちゃめちゃ酔っ払っちゃうんですよ。
もう歩けないくらい。
でも人間って不思議なもんで、家までは行けるんですって。そのもう、フラフラだけど酔拳みたいなので歩いてるみたいな。

ただ、家まで帰りつくと、もう、そこら…その道すがらめちゃめちゃ物を落としてるんですって。
鍵とか。財布とか。
時々ね、一回免許証だけ落としたことがあるんですって。
財布は無事だったのに。
お前はなんで一回抜いて…一回抜いてどこかでシュピーンって投げた?みたいな。
だから本当に、投げたようなところで溝に落ちてたりするんですって。

それで、いちいち呼ばれるんですって。

『ゥオーい!オイ財布が無いヨ☆』みたいな電話がくるんですって。

バカ!っつって。
でも近所だから助けてあげてたんですって。


で、
まぁ家でこう…その日休みで。この話してくれた人が。
家で、まぁ夜22時23時くらいになって、まぁテレビとかぼーっと観てたら、そのオッサンから電話ですよ。

まぁ大体わかるんですよ。
あ、これもう酔っ払って、なんかトラブル起こしたなと。
まぁただ人に絡んだりはしないんですよ?自損事故っていうか、全部。

で、うーい!みたいなこと言ってくるんですって。
『うーい!トイレから出られないヨ☆』
って言うの。

あーもうバカだなぁコイツは…って思って。
前もあったんですって。
なんかあの、(ドアを)押しゃあいいのに引いてたみたいな。ずっと。

「えーもうどこですかどこですか」
って。

『ちょっとさぁ、おしっこしたくなっちゃってさ。道でしたらさ、犯罪じゃん?』
なんでそこは判るんだみたいな。
なんでそこは意識があるんだ、みたいな。

『で、だからさ、公園に入ってさ、あの、トイレでやったらさ、出られなくなっちゃった☆』
とか言ってんの。


「で、どこですか?」
って聞いたら、まぁ、本当に近所にある公園で。

で…なんか…最近のトイレってそうなんですかね…あの、三角錐みたいになってて。
で、もうそこに一個しかない和室便器が、一個だけあって、まぁ男女兼用みたいな。そういうトイレあるじゃないですか。

そこに閉じ込められたっていうから、
どうせまたね、押してダメなら引いてみろで開くんだろって思いながら「ハイハイ…」ってもう電話しながら出たんですって。

「どこですか?どこですか?え?何区の公園ですか?」って言ったら
『三区ゥ!』なんて言って、(そこはちゃんとしてるんだ…)って思いながら、
「あぁハイハイ…もう…ほんとに開きません?…あーそれね、あれですよ、引き戸で、引いたら開きますよ」
って言ったら、
『うーい!……ダメだぁ!違う違う、これ押すやつだから!』
とか言って。
『でも開かないな、びくともしないよ!』
ってなって。
助けてェ~!助けてェ~!なんて言って。
うるせぇな(笑)みたいな。

で、
「あーわかったわかった、なんかもう…行ったら開きますから多分」
て言って、パジャマでもう…しょうがない、まぁでも近所だからいいやと思って、行ったんですって。

で、行って。
ふって見たら、


「あ、あれ?…あれ…?」


その三角錐のトイレの、ドアを。

確かにもう、もう声はしてるんですって。
「おーい、おかしいよぉ~?」
なんて言いながら。
「早くぅ~」
なんて言いながら。
もう中からオッサンの声がしてるんですって。

確かに中から押して開けるタイプなんですよ。
オッサン間違ってないのね。


ただ、そのトイレのドアを、幼稚園児が。
…もう幼稚園児の恰好をしてたんですって。幼稚園児がバスのお迎えが来るときの恰好ってあるじゃん。
幼稚園行くときの恰好。
クレヨンしんちゃんみたいな。

…そういう格好をしている幼稚園児が、両手をこう…(ドアに)ぐーーーーってやってるんですって。


で、「お~い、開かないヨ!開かないヨ!」……。


だって、幼稚園児の力で、オッサンの力と対抗できるわけないじゃないですか。
なのにガッチリ閉まってる感じなんですって。


(え、なにこれ?)って思ったんですって。


え、えええ…23時、24時に、ねぇ。
幼稚園児が。
朝見る恰好じゃないですか。朝とか夕方くらいに。

(え、何してんのこの子?)って思って。      

「お~い、開かないよ~」
とかずっとオッサンはもう、もう何て言うんですかね、外の音と携帯の音がもうステレオ状態で
「『お~い開かないよ~』」
って。

「…あぁ、えぅ…ぁ、はい…」

『なんで~なんでだ~』とか言って。
『助けてよ~』なんて言ってんだって。


こう…怖いじゃないですか。
明らかに状況がおかしいじゃないですか。

ん…んんんん?なんて思いながら、

『おーいおかしいよこれー!トイレの中さぁ、ここ、トイレ酷いよ~!』
なんて愚痴り初めて『このトイレは最悪だぁ!』とか言い出して。
『紙もないし!』
っていや紙は無いじゃない?って思って。紙はないですよ普通、みたいな。


「らくがきだらけなんだよ~!

…幼稚園児ぐらいの」

うわっ…!て思って。

「いやちょちょちょちょちょ…なんで幼稚園児ってわかるんですか!」
って思わず言っちゃったんですって。
そしたら、

『いや背丈が幼稚園児ぐらいのところにらくがきがあんだよ~…わけわかんねぇチューリップとかさぁ…もう最悪だよぉ…
ここの管理はどうなってるんだよぉ…トイレのドア開かないしよぉ~』

って言って。

幼稚園児は、微動だにしないんですって。その間。
3分くらいずっとやってんだけど。


もう、怖くて、もう公園入れないんですよ。
(うわ怖い~…)って思いながら。


『おい、おい来てよ~』
とか言ってんだけど、
「いやっ、ちょっと…いや~…ちょ、ちょっと待ってくださいね、ちょっと待ってくださいね、…本当に開かないっすか?」

すごい…もう、(ドアを)ガンガンガンガンやってる感じが伝わってくんのよ。
でも、開かないの。

(えぇ~…あの幼稚園児なんでそんな…)

力強いわけないじゃないですか、そんなに。

えぇ…?えぇっ…?って思って。


その時に、人間ってちょっとおかしなもんで、我に返るというか、理性が変なところで働いて、

(保護者はどうしてるんだ?)

とか思ったんですって。


ふっ…と見たら、
奥の薄暗いベンチの…いやその時間だからもう薄暗くなっちゃってるんですけど、そこに、
女性が座ってて、
すっごい嬉しそうにその子の方見てるんですって。

その瞬間に、うわぁ~って。
そのままもう申し訳ないけど、電源オフってもう家に帰ったそうなんです。
怖くて。

で、翌朝そのオッサンは、記憶がないんで
「ごめ~ん!なんか俺きのう電話した~?」
っつって。
「起きたらさぁ~公園のさぁ、三区のさぁ、公園のトイレのさぁ中でさぁ目覚めてさぁ~もう…恥ずかしいよぉ~」
なんてつって。
覚えてなかったんで、大丈夫だったんですけど。

その公園が、彼の近所だから、もう…絶っ対行かないって言ってました。


はい。そんな話がありましたね…。

いかがでしたか?

だからね、酔っ払うと良くない。

酔っ払って、その…公園のトイレとか使うことあるでしょ皆さんも。トイレが。
犯罪になるから、立ちションしちゃったら…。

…した方が、マシなこともあるんじゃないかなぁ…っていう。

これ素面だったらヤバイですよ。ねぇ。


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