禍話 第一夜(2)タクシーの夢
私が…私が返り討ちに合った話なんですけど。怪談会で、突っ込んだら。
私よくね、突っ込むと返り討ちにあうんですけど(笑)
その、ディテールの甘さとかを言うと、急に怖いのが返ってくるっていうのあるんですよ。
ま、どんな話でもいいからしろっつったんですよ。
ひとりね、どうしてもなんか「怪談がない」っていうから。
あるでしょって。変な体験とか。
もうー…なんか、ねぇ、『これはなんだろう?』くらいの話でいいからしろっつっても、しないんですよそいつが。5歳くらい年下の奴。
なんか。男でね。
図体だけすごいでかくてね。
ちょっと陰気な顔したやつだった。うん。眼鏡かけてなかったんだけど。
友達の友達くらいだったから、あんまり強く言えないんだけど、「お前も怖い話をしろ!」なんつって。
「もう夢でもいいからしろ」って言ったら、
「…夢ならあります」
って言うの。
おお、あるじゃねぇか!っつって。
夢でいいんだ、俺は夢マニアだとか適当なこと言って。
話せ!って言ったら。
ちっちゃい頃からずっと見てる夢がある。って。
ずーっと。
「え、ちっちゃい頃っていつくらい?」って言ったら、
「幼稚園から、今の今まで」って言うの。
「え、お前今何歳?」て言ったら、
「二十ウン歳」
めちゃめちゃ見てるじゃん…みたいな。
どんな夢なの?って聞いたら。
玄関に、自分が腰かけて、で、玄関あいてるんですよ。
で、ぼーっと外見てるんですって。
一軒家なんですけどね。その人の家。
そしたら、家の前にタクシーが止まるんです。
キーって。個人タクシーみたいな感じで。
で、タクシーの後部座席が、ガチャッ…て開くんですよ。
あ、じゃあ家の人が呼んだタクシーなのかな?って思うじゃないですか。
でも家の人、だーれも出てこないんですよ。
なんだったら、家が無人な感じがするっていうか。自分以外誰もいないっていうか。
で、(なんだろうこれ?)と。思いながら。
でもタクシー運転手もほら。
そんなに長い時間開けてたらなんか、ねぇ。
そろそろ、なんかしびれを切らして出てきたりする…?くらい時間が経つんですって。
5分10分とか。
なんっ…にもしないんですって。
運転手は運転席から動かないんですって。
で、自分としてもどうしていいかわからないから、ずっとその場にこう…してるっていう。
「そういう夢を見るんですよ。」
「え…なにそれ…」
え、怖いね…っつって。なんか気持ち悪いねっつって。
「なんかタクシーに、なんかトラウマとか、なんか…ねぇ。記憶に残ってることはないの?」って言ったら、
「特にはないです」
「ふーん…そうなんだ…」
「ねぇそれどんな、ねぇ。個人タクシーっていうけど…まぁタクシーっぽいって言うけど、どんなタクシーなの?」
って言ったら、なんか、
「これこれこうで、こうで、そう、こんなタクシーで…」
まぁでもね。
まぁ自分もね。
玄関に座ってそれを見てるだけだから。
家の前にタクシーが来てね、後部座席開けてるな、って見てるだけだから。よくわかんないですけど。
———よくわかんないけど、その運転手、首の後ろにホクロがありました。
って言うんだよ。
ちょいちょいちょいちょい待てと。
待てこのバカと。
これは、これちょっとね、
「いやお前ちょっとおかしいだろ」っつって。
「お前は、玄関に座って、ね。
で、座って、腰かけてってると、家の前にタクシーが止まって、ガチャッと後部座席を開けるんでしょ?
そのまま動かないわけでしょ?両者とも。
じゃあなんで、『運転手の首の後ろにホクロがある』ってわかんの?」
って言ったの。
ちょっと意地悪いんだけど。
そしたら、そいつがすごい真顔で俺に、
「え、じゃあ俺あのタクシーにもう乗ってるんですかね?」
って聞いてくるんですよ。
超、怖かったです(笑)
返り討ちだなと(笑)
なんだこいつ?!と思ってね。
まぁそれから会ってないんでね。
多分今頃タクシーに乗ってどこかに行ってるんじゃないですか(笑)
だから皆さんも、タクシーに乗って、首の後ろにホクロがあったら、もうダメだということで(笑)
まぁでもね、ぞっとしましたよね。
感性の問題かもしれないけど、ぞっとしましたね。はい。
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