禍話 第一夜(2)赤い女のビラ*前編
赤い女の話なんですけれども。
赤い女って結構いるんですよね。
大阪の泉の広場にも出るんですよ。
まぁ赤い服を着た女が出るっていう話があるんです。
作家の山口敏太郎さんも赤い女に付きまとわれてるんです。
それはまた別の赤い女で。
あちこちに赤い女ばっかりいるじゃねぇかって話なんですけど。
やばい…何て言ったらいいんですかね…怪人と言っていいのか、妖怪と言っていいんですか、いるんですけど。
これはまたね、そいつらとは違う、やばい話なんです。
♦♦
皆さんと同じくらいの…って言ったら失礼なんですけど、大学生、大学卒業したくらいの歳の方の体験なんですけどね。
その方、あのー、まぁ、マンション暮らしなんです。
ちゃんとエレベーターがあるようなマンション暮らしなんです。
で、5階に住んでましてね。
で、まぁあのー、当時はまだ彼、4年生くらいだったかな。
あの、コンビニのバイトしてたんですよずっと。
夏休みとか結構ね、もう、夏休みって大学生って長いじゃないですか、他の人よりも。
だがら結構なんか無理なシフトが入ったりしていてて、ちょっと。
で、結構長くいたコンビニだったんで、なんか結構無理矢理なシフトになるんですよね。
おいおいおい三日間連続夜勤かよ、みたいな。
で、結構ぼーっとしてた時期に、久しぶりの休みだ。
休みだ!よかった!って思って、今日は一日ダラーッと過ごそうかな~と思って、ま、とりあえずポストに郵便物が溜まってたんでチェックしようと。
玄関にある集合ポスト。
見たら、色々チラシだなんだ入ってるんですけど。
「ん?…なんだこれ」
手書きの便箋が入ってるんですよね。
封筒に入ってないんですよ。
封筒に入ってなくて、手書きの便箋が突っ込んであって、なんだこれ?って。
見たら。
あのー…なんていうんですかねぇ…。
多分、年齢が結構いってる人が書いてるんだろうけど、ちょっとやばい感じの、ちょっと精神的にちょっと不安定な感じの方が書いたのかな~っていうグチャグチャな字で…。
こう書いてあったんですよ。
私そのメモをね、貰ったんで、ちょっと朗読しましょう。
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赤い女に気をつけてくださいインターほんをしつようにおしてきたりノックをしつようにしてくる全身真っ赤なジョセイにチュウイしてくださいその女はつきあっていたカレシにむごたらしく殺された女でハンニンのカレシをさがしていますドアをあけてしまったらカクしもっていたはもので殺されますタイショほうは霊感のあるトモダチにきてとたのんできてもらうしかありません赤い女に気をつけてください
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と。
ということが、ところどころ平仮名とか片仮名とかが混じった感じで、もう…一切その…間の句読点とかがない、どわーーーーーって書いてあったそうなんです。
(気持ちわるッ…)
気持ち悪っと思って。
電波系文章じゃないですか。
きもちわるっ!ってなって。
見たら、その、集合ポスト。
他にもこう忙しくてこう、ね。自分のポストちゃんと見てない人がいるから。
見たら、便箋が突っ込んであるんです。同じ便箋が。
えぇ…?と思って見たら、同じような内容が書いてあるんですよ。
若干ちょっと言い回しが、ちょっとニュアンスが違うんですけど。
つまり、全部手書きなんですよね…。
ボールペンか何かでドゥワーーーーーって書き殴ってるんです。
(うわ、やっべぇな…)
まぁその場で、集合ポストの下のところにゴミ箱があるんで捨てました。
なんだよ…この辺もなんかやべぇ人いるんだなぁ、くらいで済んでたんです。
それからまたちょっと、2~3日して。
ポスト見たら。
便箋が入ってるっていうんです。
(うぇっ…)と思ったら、あの便箋。
中見たら、
『赤い女に気を付けてください』
って書いてある。
(うーわ、また来たよ…なんだこれ…)
他のポスト見たら、結構新しく全部ささってるんですね。
(うわっ…なにこれなにこれ…)
やだなぁ…なんて思った。
それから結構…みんなが、まぁ住人も気持ち悪いから捨てますよね。
でも定期的にこの、手紙というか警告文というか、なんていうのかね、ビラというのかチラシというのか。
【赤い女に注意しろビラ】が入るようになりまして。
であの、さすがにね、こう気持ち悪いんで、こう、周りに聞いてみたら、
他の…隣のマンションとかにはないって。
ビラは入ってないって。
近所の後輩とかバイト仲間とかに聞いても『そんなビラは観たことない』って。
(うちだけなのか…)
それも気持ち悪いよねぇ。
同じ住人がやってるかもしれないじゃないですか、そうなると。
うわ、気持ち悪いなぁ…と思いながら。
そしたらあの何人かが、家族持ちの方とかもいたのでそのマンションて。
管理会社に「ちゃんとしてくれ」って言ったんでしょうね。
それからしばらくして、集合ポストの横に、えらくでかいね、まな板二個分くらいの
【勝手にビラとか入れないでください】
っていうのが、【管理会社●】ってこう…もう、バーン!ってでっかく貼られてたんですよ。
(ああ、さすがにね…管理会社も動いたんだな)なんて思ってましたら。
その日、夜勤が終わって、朝けっこう眠い頭で帰ってきたら、
その管理会社が貼った警告文というかビラがビリッビリに破られてて。
(えぇっ…)
また新しい『赤い女に気をつけろ』っていう便箋が入ってるんです。
(うわっ…なにこれ…イタチごっこやな)なんて思いながら、困ったな~なんて思ってたら。
そのうち、またまぁ管理会社も懲りずに貼るんですよ。破られても。そこはね。
また破られるんです。
それを2~3回繰り返した後に、
(あ、また貼ってる管理会社…)と思って見てみたら、
写真が添付されてあって。
【こういう女の人を見かけたら、すぐに警察に連絡してください。警察には話をしてあります】
みたいな。書いてあった。
(あ、そうかそうか監視カメラがあちこちにあるからなぁ。管理会社仕事してるなあ)
と思ってみたら、後ろ姿なんですって。
その写真が。
普通、ね。
『住民の皆さんもこの女を見たら即刻…』とか言おうと思ったら、正面からの姿を撮るじゃないですか。
それを公開するじゃないですか。
そこら辺プライバシーってあんまりうるさくないと思うんですよ、その辺。
なのに後ろ姿なんですって。
え、なんでだろう?と思って。
あと、その女って、全身真っ赤な服。
「いやおめーじゃねーか!!!!」って思わず突っ込んだんですって。そいつ。
赤い女っておめーじゃねーか!!って突っ込んで、まぁエレベーターに乗って帰りながら。
(でもなんで…後ろ姿なんだろう…?正面は見せられないような顔だったのかな…?)
って考えたら余計怖くなっちゃって。
で、そういう話を後輩にしましたらね、
『怖い怖い!すごい怖い話だ!』
ってなって、大人気になっちゃったんです。その話が。滑らない話みたいな。
まぁちょっと、【狂人に悩まされている先輩】みたいな感じで。
で、なんかバイトの飲み会があって、みんなでこう…歩いて帰ってたら、
「あ!あれが先輩の部屋ですか!」
みたいな、酔っ払ったちょっと威勢のいい奴が『あれですか!』なんて言ったら、
「あーそうそうそうそう」
「あれがあの、赤い女のビラが入るっていう!」
「ああ、ああ。そうそう、あれあれ」
なんて言ってたら、
自分のフロア。
外廊下が見えるんですけど。
女みたいなやつが、遠くだからはっきりとはわかんないんですけど。
すーっと歩いてるんですよ。右から左へ。
うわっと思って。
自分のフロアにはそんな人いないから。
(ひょっとしたら…)と思ったんです。
そしたら、その、威勢のいい後輩が、男気を発揮したというかな、
「待て待て~ぇい!!!!!」
とか言い出して、急に。
どぅわーーーーーーーーーっと走っていくんですよ。自分のマンションに。
バーーーって行って。
で、みんなあっけにとられてたんですけど。
他のみんなは『ヤバい!』と。
相手狂人じゃないですか、いたとしても。
大変なことになるじゃないですか。
「待て待て!」
「バカ!」
「待て!」
って後を追っかけるんですけど、結構速いんだそいつ。
今まで知らなかったけど。
あいつこんな速かったんだ、みたいな。
ぶわーーーーって行っちゃって。
で、まぁあのー、そのマンションって上る手段がエレベーターと一個だけ階段があるんですけど、
階段をぶわーーってカンカンカンカンカンカンカン!って駆け上がって行っちゃって。
「うわうわっ、ちょちょっバカ!バカ!」
って言って、もうみんなが(マンションに)駆け付けた頃には5階にそいつ行っちゃってる。
(うわ~今頃もう鉢合わせて、もみ合いとかになったらどうしよう)
と思ったら、
上から「あれ?…あれ??」みたいなそいつの声がして。
(…ん?)
(ん???)
なんだなんだ?…みんな怖いから上に行かないの。
そしたらエレベーターで普通に下りてきて、
「いませんよ?」
「「「えっ?」」」
一本道で。
そこ(5階)、見えてたんですよ。ぶっちゃけ。
で、一瞬その…マンションの入口に来ると、その、上が見えなくなるみたいな状況で。
だから、絶対に上にいなきゃおかしいんです。
「え、じゃあこのマンションは7階建てだから、ちょっと探してみよう」
っつって、探したんですけどみんなで。
…いないんですよね。
で、バターンみたいな音もしなかったんで、住人でもないんですよ。
夜中ですから。
えっ、怖いね…ってなって。
誰かが一言
「え…おばけなんですか…?」
って言っちゃって。
それが夜中の2時ですよ。
みんなシーンとなって。
「きょうはおつかれさまでした」「ばかやろう!」
みたいになって。
それからですよ。
相変わらずビラは入ってるんですけど。
【おばけかもしれない】っていう可能性が出てしまった。
怖いんですよね。
(怖いな~…)
で、そのビラの内容も、どんどんその、それこそ(おばけかもな?)と思ってから、内容が、
赤い女がどんどん、その…このマンションに狙いを定めているので気を付けてください、みたいなのが付け加えられるようになってきた。
【赤い女を見ました!私はもう!】
とか
【気を付けてください!】
とか、なんかこう、
【危ないって言ってるんですよ私は!】
みたいになってきて、
え、え、なになに?なに?みたいになってきたんですけど。
夏休みの終わりころで、めちゃめちゃにシフトが入ってたんですってある時。
もうぐっちゃぐちゃで。
朝までやった後、次の日昼から、みたいな。
残酷なバイト。
大学生の無駄遣い的なことになって。へろへろになって。
人間ね、そこはもう実生活の方が大事ですから。
結構ビラのことが頭から抜けてたんですって。だってそれ以上怖いことがないですから。ビラが入ってるくらいで。
で、すごい連日ぐちゃぐちゃな、もう4日くらい連勤で、その最終日が19時~20時あがり。
もう頭フラフラなんです。くらくらになっちゃってて。
で、家に帰ったんですって。
で、その辺っていうのはあんまり普段から人通りが夜20時でも無いところらしいんですけど。
フラフらになってて、エレベーターでがーって上って、
「はぁ~…」ってなって、もうくったくたなんですよ。
なんだったら目の前の焦点がぼやけてるみたいなね。
あるでしょ、時々ほら連勤するとさ、なんかボーっと頭が眠ってるような状況になって。睡眠が足りてないから。
(は~ぁあ…)って思って。
まぁその人の家が2号室なんですけど。
はーぁあって思ったら、なんかあの、廊下の電球がちょっと切れかかってて暗いんですって。ちょっと。
(あーもう暗いなやだなぁ…もー、なんだ管理会社はさぁ…赤い女といいさぁ、もうちゃんとしろよ…)
なんて思いながら、さぁドアを開けようと思ったら。
疲れてて、くったくたでしょ?
おまけにちょっと暗い…ちょっとですよ?…ちょっと暗いっていうのもあって。
鍵が全然こう…入らないんですって、人間って。もう疲れすぎてて。ドアノブに。
んで、一回スカッとなって、
「いやちょっと俺どんだけ疲れてるんだよ~(笑)」
って思ったら、
廊下の一番端っこから
「あかいおんなにきをつけてください」
(えっ…?…えっ…????)
見たら、
ぜんっぜん気づかなかったんですけど。ちょっと暗かったから。
一番端っこに、女が、座ってたんですよ。体育座りみたいな感じで。
(えっ?えっ?)
って思って、うわああああと思って急いで鍵を開けようとするんですけど、
焦ってるから、鍵が反対にさしちゃったりして開かないんですよね。
ったら、
「あかいおんなにきをつけてください、インターホンを執拗に押してきたり…」
って言いながら、どんどんゆっくりね、自分の方に向かって歩いてくるんですって。
で、その女、片手が、左手だったらしいんですけど、後ろ手ににまわってるんですって。背中の後ろに。
何か持ってるんですよ。
(うわああああああああっ)
でもすごい走ってくることはないんですよ。
ゆっくり。ゆったり、ゆら~っと陽炎のように揺れながら、
でも口ではずっと、
「しつようにしてくるぜんしんまっかなじょせいにきをつけてください」
「そのおんなはつきあってたかれしにむごたらしく」
って、なんかそのビラの内容をずっと言ってるんですって。
うわ、うわ、うわああああっと思ってどんどん近づいてきて、
「あかいおんなにきをつけてくださいとわたしはさいさんいっていたはずです」
とか言ってきたから、うわあああと思ってたら、
そこで、幸い、開いて。
バァン!って閉めて、鍵かけて、チェーンもつけて、
(はぁっ…はぁっ…はぁっ…)
ってなってたら、
あのビラの内容通り、
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
って押しながら、
「あかいおんなにきをつけてください」
って言ってんだって。
(うーわ、ちょちょ、ちょいちょいちょいちょい)
って思ってたんだけど、
結構、そのマンション、なんか知らないですけど誰も起きてこないんですって。
そんなに執拗に押してるのに。
で、
ドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!
そのドンドンが、なんか物持ってる感じでノックしてるんだって。
なんかあんたあきらかに手に刃物持ってるでしょって感じでノックしながら、
「あかいおんなにはきをつけてください!!!!!!!!!!」
って言ってるんですって。
(うわぁ~~~~~~っ!!!)
って思って。
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