前島賢の本棚晒し【復刻版】03:上遠野浩平『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー 「パンドラ」』
とある女性が禁断の箱を開いたせいで、そこに詰められていたあらゆる災厄が世界にばらまかれた。だが箱の底にはたったひとつ「希望」だけが残されていた……という有名な神話、パンドラの箱。
シリーズ第三作『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー 「パンドラ」』は第一作目からここまで皆勤の「博士」こと末真和子が語る、この神話の異説から始まる。
末真によれば、あらゆる災いが詰まった箱に「希望」などというものが入っていたというのは矛盾である。そうではなく、箱に残ったのは予知という災いなのだ、という。未来に何が起こるかわかってしまえば、人はやがて来る終わりに怯えて生きなければなければいけない。かろうじて、この災いだけが箱から飛び出さずに済んだため、人々は自分の将来に何が待っているかを知らず、だからこそ未来に「希望」を抱けるのである……。
そんな皮肉な説話から幕を開ける物語は、「パンドラの箱」に残されたはずの災い――未来予知の能力に目覚めてしまった少年少女の物語だ。
本作の主人公は六人の予知能力者。とは言っても、その能力は未来の匂いだけがわかる〈アロマ〉とか、未来の音を口で再現できる〈ウィスパリング〉とか、きわめて限定的なもので、それ単体ではほとんど訳に立たない。だからこそ彼らは六人集まり、それぞれの曖昧な予知を重ね合わせることで未来を知り、時には大事故を未然に防いだり、あるいは大金を手に入れたりしてきた。
そんな彼らが、今度は、周辺で怪しげな密会が行われることを予知。これが反社会組織による麻薬取引の現場と判断した彼らは、正義感からこれを阻止しようと試みる。
だが実際には、そこで取引に及んでいた者たちは暴力団や犯罪結社などではなく――世界の裏側に蠢く巨大システムと関わる人間たちであった。
結果、彼らは、連中が従えていたひとりの幼い少女・キトを保護することになるのだが、彼女には世界を滅ぼしかねない、恐るべき秘密が隠されていた……。
縁もゆかりもない少女の命を――そして世界を守るため、予知能力があるという以外は平凡な少年少女でしかない彼らは、凶悪な敵と戦っていくことになる。
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