前島賢の本棚晒し【復刻版】03:上遠野浩平『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー 「パンドラ」』

本記事は、電子書籍ストアeBookJapanに、連載「前島賢の本棚晒し」第31回として2015年3月6日に掲載されたものを、加筆修正の上再公開したものです。
記述は基本的に連載当時のもので、現在とは異なる場合がありますが、ご了承ください。
連載時に大変お世話になりました、そして、再公開を快諾頂きました株式会社イーブックイニシアティブジャパンの皆様に厚く御礼申し上げます。


 とある女性が禁断の箱を開いたせいで、そこに詰められていたあらゆる災厄が世界にばらまかれた。だが箱の底にはたったひとつ「希望」だけが残されていた……という有名な神話、パンドラの箱。
 シリーズ第三作『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー 「パンドラ」』は第一作目からここまで皆勤の「博士」こと末真和子が語る、この神話の異説から始まる。

 末真によれば、あらゆる災いが詰まった箱に「希望」などというものが入っていたというのは矛盾である。そうではなく、箱に残ったのは予知という災いなのだ、という。未来に何が起こるかわかってしまえば、人はやがて来る終わりに怯えて生きなければなければいけない。かろうじて、この災いだけが箱から飛び出さずに済んだため、人々は自分の将来に何が待っているかを知らず、だからこそ未来に「希望」を抱けるのである……。
 そんな皮肉な説話から幕を開ける物語は、「パンドラの箱」に残されたはずの災い――未来予知の能力に目覚めてしまった少年少女の物語だ。

 本作の主人公は六人の予知能力者。とは言っても、その能力は未来の匂いだけがわかる〈アロマ〉とか、未来の音を口で再現できる〈ウィスパリング〉とか、きわめて限定的なもので、それ単体ではほとんど訳に立たない。だからこそ彼らは六人集まり、それぞれの曖昧な予知を重ね合わせることで未来を知り、時には大事故を未然に防いだり、あるいは大金を手に入れたりしてきた。
 そんな彼らが、今度は、周辺で怪しげな密会が行われることを予知。これが反社会組織による麻薬取引の現場と判断した彼らは、正義感からこれを阻止しようと試みる。
 だが実際には、そこで取引に及んでいた者たちは暴力団や犯罪結社などではなく――世界の裏側に蠢く巨大システムと関わる人間たちであった。
 結果、彼らは、連中が従えていたひとりの幼い少女・キトを保護することになるのだが、彼女には世界を滅ぼしかねない、恐るべき秘密が隠されていた……。
 縁もゆかりもない少女の命を――そして世界を守るため、予知能力があるという以外は平凡な少年少女でしかない彼らは、凶悪な敵と戦っていくことになる。

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