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「死なれちゃったあとで」に書かなかった話

といっても、ショッキングな話ではないです。安心してください、誰も死にません。


「針中野の占い師」に書いた、後輩Dの死から数年後。

会社を辞めて無職生活を送っていた俺に、Nちゃんからメールが届いた。彼女とはDの葬式以来、会っていない。葬式の数週間後にDの遺書めいたメールを転送してもらって以来、やり取りも途絶えていた。そういう発言があったわけではないけれど、なんとなくこのまま疎遠になるんだろうなと思っていたので、数年ぶりのメールには驚いた。

なぜいま福岡に?と思ったら、岡村ちゃんのライブを見るために福岡まで来るのだという。地元開催のチケットを取り損ねたか、あるいはツアーを追いかけているのか、「Zepp福岡のライブに行くので、終わったあと会えませんか?」とのことだった。無職で時間はあるし、あれからどう過ごしているか知りたくもあるので、もちろん快諾した。もともと通っていた関西の私立大学を中退して、地元の国立大学に編入したところまでは知っていたが、メールで近況を聞くと、そのまま大学院に進学したあと、就職したのだという。

当日。その夏はアロハシャツばかり着ていたので、やはりその日もアロハシャツを着て、ハンチング帽もかぶっていたので、ほぼBEGINみたいな格好で西通りの店に行った。ライブ終わりのNちゃんは男性と二人で店に現れた。会社の先輩なのだという。年齢は俺より少し上、30を過ぎたくらいじゃなかったかな。二人とも岡村ちゃんが好きらしい。それきっかけで意気投合したのかもしれない。

たしかその夏のフェスで、俺も岡村ちゃんのステージを見ていたので、「岡村ちゃんいいよねえ」「いいですよねえ」みたいな他愛もない話をしばらくして、そのまま好きな音楽の話になった。先輩と俺は年も近いので、聞いてきた音楽がかなりかぶっていて、ずいぶん盛り上がった記憶がある。

ふと、先輩が聞いてきた。

「なんで二人は知り合いなんですか?」

そうだった。Nちゃんが大学に入学して、Dと付き合い始めたのは、俺が大学を卒業して大阪を離れたあと。そもそも大学も違うし、大学生だった期間もまったくかぶっていない。この質問をしてくるということは、そのへんの事情を知らないのだろう……と察して、適当にごまかした。いったいどんな理屈でごまかしたんだ?と、いま書いてて不思議に思うけど、とにかくごまかした記憶だけはある。Nちゃんもそれに合わせてくれた。

楽しいおしゃべりが続き、お開きの時間がなんとなく近づいてきたな……と感じたタイミングで、ずっと気になっていたことを聞いてみた。

「あのー、つかぬことをお聞きしますが……もしかして二人は付き合ってる?」

「いえいえいえいえいえいえいえ! そんなんじゃありません!」

聞いた瞬間、二人とも同じセリフ、同じ手のひらの動きで否定した。そうなんだ。なんか距離感的にそんな感じがしたんだけど。

「ああ、じゃあ今日のホテルも別々で」
「いや……一緒の部屋なんですけど……(恥)」
「じゃ、付き合ってるじゃん」
「いえいえいえいえいえいえいえ!」

付き合ってないのが本当だとしたら、「付き合う寸前の、いちばんドキドキする状態」ってことじゃん。今夜あたり、二人で革命を起こす機運が高まってるってことじゃん。

とは言わなかったけど、「新しい人生を歩んでいるんだな」というのは伝わってきて、うれしく思った。ちょびっとだけ、寂しくも思った。

あれから20年くらい経つ。今では、俺は岡村ちゃんの対談連載の司会をやっているのだけど、Nちゃんはまだベイベを続けているのだろうか。続けていたら、その原稿をまとめたのが俺だと知らずに、本を読んでいたりするのだろうか。

ふと思い出した話。


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