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友だちに「死にたい」といわれたとき、きみにできること【君に読んでほしい本 1冊目】

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友だちに「死にたい」といわれたとき、きみにできること
── 大切な人の自殺を食い止める方法


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リチャード・E・ネルソン、
ジュディス・C・ガラス 著
浦谷 計子 翻訳


ゴマブックス
2007年
239ページ


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 高校の修学旅行前に出会ったこの本を、旅行の最中、新幹線の中でもベッドの上でも読みたい熱量が衰えずに、時間があるかぎりずっと読んでいた17歳の私を未だに憶(おぼ)えている。


 もともとアメリカで出版された本書には、原題 “ The Power to Prevent Suicide ── A Guide for Teens Helping Teens ” の通り、10代の若者を読み手とした、その友人と彼ら/彼女ら自身の自殺を防ぐために essential な知識及び行動の指針が記されている。紹介の訳書は2007年8月発行のものだが、悩みを抱え、無力感に襲われやすい teens に寄り添った原書の優しく理解しやすい筆致を浦谷 計子(うらたに かずこ)さんによる和訳が丁寧に再現している。



 構成は2部から成り立つ。知識の第1部「なぜ、何が、だれが?」ではまず、人が本当に死にたいと考える理由や自殺について正しく理解するための知識、加えて、希死念慮を示すサイン(=自殺のサイン)や自殺のリスクが高い人(ハイリスク・グループ)に関して解説している。

 そして、行動の第2部「自殺を食い止めるには」においては続いて、友人の自殺サインに気付いたあとに何をすべきか、どのようにその気持ちに耳を傾け、また、どのように助けを求めればよいのかが書いてある。さらには、それでも友人が自殺を遂げたときや自らが死にたいと考えたときに自身を助ける方法についても、章を1つ設けて述べている。

 また、本書で充実しているものが自殺を防ぐ行動のヒントや、自他の自殺リスクを知る目安としてのチェックシートである。そのうえ、万一のための緊急連絡先をまとめて記入しておくカードも付いており、全体として自殺防止に資する内容だと思う。(詳しくは最後に付した「もくじ」を参照されたい。)



 ただし、対象が teens のため、ある種仕方のないのだが、行動ガイダンスが詰まるところ「君の信用する大人に助けを求めましょう。」の一文に要約できる部分が多く、大人にとって実践的なアドバイスを求めるのならば、この点は物足りないだろう。

 また、読者想定が学校に通い、親と同居する子どもなので、大人の読者は子ども向けの記述を自らの状況に応じて適宜読み替える必要がある。(読み替えの例:「勉強」→「仕事」、「好きな先生が転任となった」→「信頼する上司が異動となった」、「親の収入」→「自身、或いは家計を支える人の収入」、「弟や妹が生まれた」→「甥や姪が生まれた」等)



 ここまで長々と書いた。けれど、正直にいえば、他のは何一つ読まなくていいから、どうか、これだけは読んでほしい。この本はそんな一冊。

 私は今までに計3回通読し、それ以外にも必要なときに数え切れないほど何度も開いて学び直してきた。しかしながら、それでも自殺を防ぐことは難しい。実際、この本を読み終えてから今日までに、私の友人3人が自殺を遂げた。

 だから、知っている。本書のような自殺防止の知識と行動の指針があっても、必ずしも自殺を止められない。

 けれども、次のことも知っている。指針があることによって、自殺防止の可能性が大きくなる。すなわち、自殺を遂げる人が減る。

 その人は自分にとって大切な人かもしれないし、自分自身かもしれない。

 確かに、自死防止が生かされたその人にとって救いとは限らない。もしかすれば、このうえない苦しみか、或いは絶対的な死かもわからない。本当に死にたい人を生かすべきなのかはわからない。わからない。



 けれど、読んでほしい。

 君の大切な人と君自身を自殺から守り、生かすために、この本を読んでほしい。





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友だちに「死にたい」といわれたとき、きみにできること


【もくじ】


謝辞

まえがき

はじめに

この本を書いたわけ

この本について


第1部

なぜ、何が、だれが?


第1章

人はなぜ死にたがるのか?


自殺を食い止めるための心理学

人間には愛が必要

人生の「おもり」と「風船」

ネガティブな感情が行動を支配するとき

「死にたい」は「生きたい」の合図


第2章

自殺について知っておくべきこと


自殺を正しく理解する

事実1 自殺は若者の死因のトップ

事実2 危険サインを出さずに自殺をすることはほとんどない

事実3 自殺は防ぐことができる

事実4 「自殺の話題」と「自殺」は直結しているわけではない

事実5 自殺は遺伝ではない

事実6 自殺したがっている人の大半は精神病ではない

事実7 自殺を予告する人は自殺を図る

事実8 自殺の予告は気を引くためだけにするわけではない

事実9 自殺したがる若者は自分の問題を「深刻」だと思っている

事実10 たび重なった不幸が自殺の原因になる

事実11 自殺する人のタイプは特定できない

事実12 自殺未遂後に元気を取り戻しはじめた頃が一番危ない

事実13 心配して親身になってくれる友だちには事態を変える力がある


第3章

自殺のサイン


自殺者が発する危険サイン

サイン1 自殺の予告

サイン2 行動にあらわれる突然の変化

サイン3 大切な何かを失う

サイン4 大事にしていたものを手放す

サイン5 身辺を整理しはじめる

サイン6 攻撃的・挑戦的・反抗的になる

サイン7 むちゃな行動をする

サイン8 自尊心と自信をなくす


第4章

自殺のリスクの高い人とは?


自殺におけるハイリスク・グループ

リスク1 うつ状態

リスク2 アルコールやドラッグなどの薬物の問題を抱えている

リスク3 ゲイやレズビアン、または自分の性的嗜好に疑問をもっている

リスク4 自殺未遂を起こしたことがある、または家族に自殺者がいる

リスク5 何かの才能に秀でている

リスク6 学び方が違う(LD)

リスク7 妊娠している

リスク8 虐待されている

自殺のおそれが現実になるとき


第2部

自殺を食い止めるには


第5章

手をさしのべる


自殺のサインに気づいたら

友だちにぶつける四つの質問

無意識に実行してしまうのが自殺

危険性を判断する

問題解決策の選択肢が少なくなる


第6章

耳を傾ける


良い聞き手になるために必要なこと

友だちの気持ちを想像して「共感」する

ことばに敏感になることで本音を読みとる

よい聞き手の条件とタブー

ポジティブな気持ちで接する

よい聞き手になれるか自信がないとき

ありのままのきみでいること


第7章

助けを呼ぶ


友だちの自殺願望を知ってしまったら

だれに話すのが最適なのか

友だちを後押しすることば

きみにできるその後のケア

仲間同士で助け合う〈ピアサポート〉


第8章

自分自身を助ける


きみ自身を助ける方法

それでも友だちが自殺してしまったら
── 乗り越えるためのヒント

きみ自身を自殺から守る

ストレスをやわらげる方法


第9章

学校や地域ぐるみで自殺を防止する


友だちを救えるのはきみ

若者の自殺についてもっと知るべきなのはだれ?

きみからはじめるステップ・バイ・ステップの行動計画


いざというときのために
── 緊急の時の連絡先



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【 関 連 書 籍 】


自殺予防学

河西 千秋 著

新潮社
2009年



なぜ自分を傷つけるの?
── リストカット症候群
(10代のセルフケア)

アリシア・クラーク 著
上田 勢子 訳
水澤 都加佐 監修

大月書店
2005年



臨床面接のすすめ方
── 初心者のための13章

M・ハーセン、
V・B・ヴァン・ハッセル 編集
深澤 道子 監訳

日本評論社
2001年



What to Do When Someone You Love Is Depressed , Second Edition

Mitch Golant 著

Holt Paperbacks
2007年





【 さ よ う な ら 】






私が自殺を遂げる前にサポートしてほしかった。