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バンドン観光その三 アンクルン(スンダの楽器)の演奏会を見に行く


■ アンクルンってどんな楽器

アンクルンという楽器をご存じない方が多いと思いますので、まずはアンクルンのご説明をします。

アンクルンは竹を使った楽器で、2010年に世界文化遺産に登録されています。
インドネシアでは、ワヤン(影絵芝居)、クリス(くねくねした短剣)、バティック(ジャワ更紗、ろうけつ染め)に次ぐ4番目の登録となります。

竹は中が空洞になっていますから、たたけば太鼓やギターと同じで反響します。
また、木琴や鉄筋と同じで、長い、短いによりたたいた時の音程を変えることができます。コップに入れた水の量で音階が変わるのと同じです。その原理を使ってドレミファソラシドの音階を作り出せます。

音はYoutube等で聞いてもらいたいのですが、やわらかく包み込むような音色で、長く響きません。そのためアンクルンの演奏は小刻みに揺らすことで、長く揺らし続ければ長く伸ばしたのと同じ効果をだします。

■ サウン・アンクルン・ウジョ(ウジョのアンクルン村)のご紹介

1966年にウジョ・ナラゲナ氏とその妻であるウウム・スミヤティ氏により作られました。

ウジョ氏の写真 展示物より

今では500人のこどもたちが、ここで歌や踊りを習っているとのことです。
敷地は小さな小学校くらいあり、観光バスが大挙してやってきても大丈夫な広い駐車場、おしゃれなレストラン兼カフェ、演奏会場、きれいな庭や竹の建物が立ち並んでいます。

バンドン中心部から東に車で20分ほど行ったところにあります。大学から7キロメートルくらいです。
バイクタクシーで15,000~18,000ルピア(150円くらい)

けっこう郊外で田舎なんだろうと思っていたら、ずっと町が続いている感じです。

世界文化遺産に登録されたのは、ウジョさんの貢献も大きく、世界遺産登録後はバンドンの観光資源として多いに期待されていたらしいです(事前に調査していたらビジネススクールの学生論文がいくつか見つかりました)。
実際には苦戦しており、わざわざ外国から客を引き寄せるよりは、別の目的で来た外国人がついでに来る場所にとどまっており、むしろインドネシア人への訴求力の方が大きかったという結論になっています。

海外の客を呼び込む取り組みとして、政府と組んで海外演奏ツアーをいろいろな国でやって宣伝活動しているようです。

入口 大型の観光バスから次々に観客が降りてくる

■ 演奏会の様子

平日ということもあり、客の入りは2/3程度という状況です。客層はインドネシア人と外国人(オランダ、ドイツ、日本)が半々といった感じ。
インドネシア人といっても、バリやジョグジャカルタから来ている人がかなりいましたので、地元客というより観光客です。

15:00 会場オープン
15:30 演奏開始
17:00 演奏終了
ちなみに入場料は大人一人85,000ルピア(800円)
入場券の代わりにアンクルンのミニチュアがついたネックレスをもらいます。

正面の舞台で演奏 中央の空間でダンス

スタートは、若い女性がスンダの民謡風の曲をガムランやアンクルンの演奏をバックにコブシを聞かせて歌い上げます。
その後、歌っていた女性が司会者となり、サウン・アンクルン・ウジョの歴史を説明し、観客にどこから来たの?と振りながら緊張感をといてリラックスさせていきます。

■最初の演目はワヤンゴレッ(人形劇)です。
ジャワはワヤンクリッといって影絵の芝居なのに対し、スンダは人形という違いがあります。
ガムランの演奏をバックに、人形使い師が足や手を使いながら人形を動かすのが見えます(台の下をオープンにして見えるようにしている)。
お題目は聞き取れなかったのですが、スンダのコミカルな劇のようで、剣士と従者が旅の途中で追いはぎにあって逆に追い払うという内容でした。

赤い顔のおじさんがコメディアン担当

わたしはテレビを見ないため、最近のお笑いにあまり詳しくないのですが、大阪にいるときに見ていた吉本新喜劇と似ているところがありました。
はげとか、ちびとか、頭頂部がはげているオカマ(すいません、よくない言葉だと思いますがこの言葉の方が合っている感じなんです)を容姿でいじってお笑いに昇華させていました。
他に吉本新喜劇でよく見る、池野めだかが小さすぎてどこにいるかわからずキョロキョロして探すというネタや(インドネシア人の子供らが「志村ー後ろー」というように、「下、下!下にいる」と叫んでいました)、かわいらしい女性がいきなり男性やくざのようなきつい関西弁でわめきたて、「わたし怖かった」といって落ちをつける芸に似たパターンもあります。
あと、口臭がきつい人が、息を吹きかけて相手を失神させるネタとか。これは新喜劇では見たことがないネタです。
新喜劇と違うのは、ガムランの演奏家たちが人形たちにヤジを飛ばしたり突っ込みを入れるところで、インドネシアのお笑いにもボケと突っ込みがあるんだな、こうやって笑いにするんだなと興味深かったです。

日本のお笑いとインドネシアのお笑いはもしかしたら近いのかもしれません。

人形劇の次は各種ダンス
この村で行われるという少年と少女によるダンス(大人がかごにのった少年をかつぎ、周りを囲んだ少年少女が踊ったりジャンプしながら練り歩く)、きれいに着飾った女性によるダンスです。やっぱり見栄えがしますね。
司会者が英語を交えて説明してくれるのでわかります。

アンクロン演奏と子供たちの合唱
曲は日本でいう童謡「ちょうちょう」です。世界共通の曲なので入りによいのでしょう。インドネシアではBoneka Abdi(わたしのお人形)というらしいです。たぶん歌詞の内容は国によって違うのでしょう。

アンクロンというよりは竹の木琴を使った楽器演奏
結構現代的な音色だなと思ったら、ベースとドラムスが入っていました。音が締まります。
低音が響くリズムによりダンスがはじまります。外国人はオランダ人、ドイツ人、日本人でどちらかといえばシャイな民族ですから、ノリが悪く、インドネシア人たちのノリの良さに助けられました。
ラテン系の人たちがいるとまた違った雰囲気になったかもしれません。

■みんなでアンクルンを演奏
これは本当に素晴らしかったです。機会があればぜひやってみてほしいと思います。
まずアンクルンの持ち方、音の鳴らし方を学びます。
次に自分の持っているアンクルンの番号を見て、指揮者の指示に従って自分のアンクルンを鳴らします。
番号は1から7まであり、1がド、7がシです。わたしはシでした。最初に音を鳴らしたときは自分の持つアンクロンが一番高い音程だとは全く気づきませんでした。
写真があればわかりやすいのですが、太い竹2本と細い竹1本の計3本で構成されており、低いシと1オクターブ高いシが同時に鳴る仕組みです。

指揮者が番号別の手の合図を教えます。そして簡単な曲からだんだんと難しい曲に挑戦させていきます。
知っている曲の方が演奏しやすいですから、みんなが知っている曲を演奏します。例えばベートーベンの第九とか。

指揮者の手の動きに集中して音がきれいに並んだ時の気持ちよさは本当に幸せな気分になりました。

指揮者の方がアンクルンの演奏で大事なのは3つ。1つ目はDiscipline(指揮者のいうことを忠実に守る感じ)、2つ目はハーモニー、Togetherness(一体感)、3つ目はSabarn(インドネシア語でがまんする)。3つ目はよくわかんないなと思っていたら、「7番のアンクルン持っている人、手あげて」「さっきの曲1回もこうやる(音を鳴らす動作を示しながら)ところなかったね。それがSabarn。」という落ちでした。笑いが起きました。

そして真面目な顔に戻って英語で、「アンクルンが素晴らしいのは、まったく違う国の人、年齢、宗教、言葉が全部違っていても、一体になってハーモニーを作り出そうとするところ。平和をもたらす楽器なんです」と言っていました。
みんなハッピーな気持ちになったでしょ?と聞かれ、全員がけっこうでかい声で「Yes」と言っていました。本当に一体感が気持ちよかったです。

■最後は子供たちが全員出てきて踊り、観客も一緒になって踊る
わたしは恥ずかしかったので踊りませんでしたが、多くの観客が輪になって楽しそうに踊っていました。よい思い出になったと思います。観客たちは本当に楽しそうな表情をしていました。
でも曲が「ハロハロバンドン」だったんですよ。この曲は日本敗戦後に再植民地化を狙ったイギリス・オランダ連合軍がバンドンに攻め込み、インドネシア軍が街を焼いて撤退した「バンドン火の海事件」を歌詞にしたものです。
この曲を流してオランダ人に踊らせるのはどうなんだろうかと一瞬思いましたが、歌詞に反してポップで明るい曲調なので観光客は気づかなかったかもしれないし、インドネシアを代表する愛国歌だから最後の曲としてふさわしいかもしれないなと思いなおしました。
みんな楽しそうだからそれがすべてですね。

最後に女性の司会者が挨拶をして、子供たちがインドネシア語と英語で元気にお礼の言葉をのべて終わりとなります。

わたしはとても幸せな気分を引きずったまま、バイクタクシーで帰路についたのでした。
日本から家族や友人が遊びに来たら、誘ってみようと思います。








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