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インドネシア人はなぜ時間にルーズなのか?しかもルーズなのは時間だけじゃない。

インドネシア人は自分でも時間にルーズだとわかっており、「ゴム時間」という言い方をします。同じ1時間が伸びたり縮んだりする感覚を指しています。
実際には伸びる一方で縮むことはまれですが。。

時間にルーズになることで様々な非効率が発生しているにも関わらず、もはや社会全体がすべてにおいてルーズな状態で回るよう適応しているため、簡単には変えられません。

こういうことは全体として一気に変えないとワークしないんです。

今回は、インドネシア人がなぜ時間にルーズになりがちなのか、さらにはその弊害として約束を守ることのルーズさにつながっている点ついても考えてみたいと思います。


1.一人だけ時間を守っても意味がないから守る気がうせる。

わたしも最近は慣れてきましたが、まず多くのインドネシア人が時間通りに来ません。授業が終わったらカフェ集合ねと言うので行ってみると大抵わたしだけです。30分待ってようやくほぼ全員集まります。
全員じゃないですよ。ほぼです

授業もクラスの半分以上が遅刻してきますからね。時間通りに授業を始められないんですよ。インドネシア最高学府の一つがこの体たらくです。
わたしが先生だったら、まず出席を取ってしまってそれまでに来なかったら欠席扱いにする罰則を与えて早く来させますね。
実際そのようにしている先生がいて生徒たちから大変不評を買っているようです。

時間を守らないことに対するペナルティーを設けてはいけないという暗黙の了解があるように感じました。

わたしの対策としては、みんなを待つ前提で、待つ間にやることを決めてます。Note記事の校正なんてちょうどいいです。
カフェ集合のケースであれば、たいてい勝手に食事を頼んでみんなが来るころには食べ終わっています。
あるいは先に筋トレに行くから1時間後に行くと言ったりします。

そうするとじゃあ開始時間を遅らせようとか言い出すので意味がなくなってしまうのですが。

2.時間を守ることにかける労力が通常の国より大きく守る意欲がうせる。

交通事情が読めないので、絶対に時間を守ろうとするとかなり余裕を持った準備が必要になります。
時間を守るには自分だけの努力ではいかんともしがたい時もあるんですよ。

また、ミーティングが時間通りに始まらないということは、時間通りに終わらず後ろ倒しになる可能性が高いですよね。
それが次の打合せに影響しがちです。

よく飛行機が「機材がないため遅延します」といって、遅延ループに陥るやつです。成田ージャカルタ便に乗ろうとしたら、ジャカルタからの飛行機がこずに出発が遅れ、そのためジャカルタ到着も遅れ、ジャカルタ発の成田便もその影響で遅れ、という流れです。

なので、わたしがジャカルタに駐在していた時は、1日のアポイントは3件までと決めていました。
朝、昼、夕方です。インドネシア語ではパギ、シアン、ソーレです。パギにどこそこで会いましょう、くらいの時間間隔のバッファーを持っておかないと回らないんです。
本当に言葉が社会風土を表す典型だなと感心していました。ルーズな社会の時間軸として完璧に適合しています。

たまに日本に出張して1日4,5件アポイントを入れ、地下鉄や電車を乗り継いで訪問すると、時間に追いまくられている緊張感がすごかったです。
おそらく、時間に正確な日本人と仕事をするインドネシア人の感覚です。

3.ストレス耐性がない=時間のプレッシャーを感じやすい

基本的にのんびりリラックスしていたい人が多い印象です。
のんびりする時間を確保するための労力は、わたしから見るとかけていると思います。
たとえば、宿題やレポートの提出タイミングについて、異様なほど気にします。1時間でも遅くしたいようなのです。

わたしなら最初に提示した時間は変えず、今こうしてあなたたちが交渉している間にもどんどん時間が過ぎていますよ、といって早く始めさせるでしょうね。
こいつと話しても無駄だと分かってもらうと次から楽になります。

世の中には必ず依頼主がいて、締め切り時間があるんです。締め切りを守れないのであればじゃああなたに頼まないと言って切られるだけです。締め切りを守れない合理的な説明をできれば話は別ですが。

わたしは先生と顔を見合わせて、しょうがねえなみたいな感じで苦笑いすることがあります。なんの根拠もなくただ時間が欲しいといって通じると思ってんのかこの人たちはという感じです。
まあ大学生の延長で社会人経験がないわけなので、理解させる方が難しいのかもしれません。

ストレスでお腹がいたくなったり、夜寝られなかったりするというクラスメイトが何人もいます。
結構繊細なのかもしれません。

ルーズさの時間以外への波及

1.時間を守らない=約束が軽い

むかし日本アジア投資時代の今原さん(日本のベンチャーキャピタルの父)がよくおっしゃっていましたが、「約束を律儀に守る社長に投資をしろ、ちょい飯野郎はやめておけ」というVCのルールがありました。
今度めし食いに行こうと気軽に声をかけてくる奴の多くは口先だけの奴が多い、そういうのをちょい飯野郎と言う。一方、よい社長は必ず些細な約束でも覚えていて果たそうとする。という話です。
そういうところが、作った事業計画は絶対に守る、投資家との約束は絶対に守るという態度につながるのだと聞き、実際にその通りでした。

インドネシア人の多くは、このちょい飯野郎に非常に近い感じがします。仲間とのコミュニケーションが大好きで、楽しい雰囲気、ノリがいい感じなんです。
わたしみたいなのは、「ちょっと待て、それは今できないぞ」とか「いや俺は行かない」など、場を白けさせる言葉を発するのを躊躇しないですが、普通のインドネシア人は躊躇する人が多いです。

結果その場のノリで軽く約束するものの、みんな察しているよね、雰囲気を壊さないために約束しただけで、実行する気はないから、といった感じなのかもしれません。

2.約束を守れないのは自分のせいではないという逃げがある

時間を守れないのは交通渋滞があったから、前の約束が変わったから、急にやらなくてはいけないことができて、など言い訳が許される世界です。
これを約束にも応用する傾向があります。

わたしはジャカルタ駐在時代に、何度も痛い目にあっています。
何らかの手続きを進めるとしましょう。たとえば、会社を買ったり売ったりするときの各局の承認プロセスがありますね。
弁護士や会計士に相談して、必要な書類は何か、どういう承認プロセスでどれくらい時間がかかりそうかと、前もって調べ線表に落としてTo Doリストを作ってと普通にやります。
誰がいつまでにやる。できる、できない、遅れるリスクはどれくらいあると時間の余裕をある程度用意して進めますね。

そして本社の役員会で説明してコミットさせられるわけです。
役員の人たち好きですからね、誰が・何を・いつまでにやるの?とすぐコミットさせようとします。わたしも逆の立場になればそうするので、仕方ないですが。

で、蓋を開けてみると、あとからあとから新しい話が出てきて、お前できるって言ったよなという事態が続出します。

そして怒られるのはわたしです。「想定外の事態が起こりまして、大変遺憾ながら読み間違いました」などと言い訳しようものなら、ボコボコにされます。
きみはインドネシアの代表で、インドネシアに一番詳しいんだろ。きみがわからなければこっちはもっと分からないんだよ。(怒号の嵐)

わたしも5年いましたから、最後の方は悟りの境地に達してきて、「言った通りにできないのはわたしのせいではないし、約束した専門家のせいでもなく、窓口になった役人のせいでもない。その上の上、あるいは究極的にはインドネシアの社会風土の問題なんです。」という趣旨の内容をオブラートに包んで言うようになりました。

「でも、みなさんご存知の通り、最後はなんとかなるのがインドネシアですので、ご心配をおかけしますが寛大な気持ちで見守っていただきたくお願いします。」

3.将来の約束が守られない=現在価値の割引率が莫大なものに

昔、インドネシアの投資先で700名弱の従業員を解雇しなければならなくなって、組合と団体交渉をしていたときのことです。建物をプラカードを持った100人以上の従業員に取り囲まれ、物々しい緊迫した空気に満ち満ちていました。

退職金をいくら払うかが交渉のメインテーマでした。
わたしが、法定通りの退職金を退職のタイミングで支払うことを約束する(インドネシア語で約束はジャンジと言います)と説明したとき、組合メンバーが「ジャンジではだめだ、なぜなら守られないからだ」と怒り出したことがあります。

「約束=守ってもらえない」が常識の世界なんだということです。じゃあどうすんの?となりますよね。
日本側の通訳の人に、ジャンジ以外により強い拘束力を持つ言葉があるか確認したくらいです。ちなみに、ジャンジ以上に強い約束の言葉はありません。

ところで、現在価値って何?という方もいらっしゃると思いますので簡単に説明しますと、今1万円もらうのと、1年後に1万円もらうのでは価値が違うということです
日本だと金利が付かないので説明がちょっと難しいのですが、今1万円もらって銀行にあずけて1%金利がつくと1年後は10,100円ですね。なので1年後にもらうのであれば10,100円にしてもらわないと割が合わないですよね。

普通の国では、約束は守られますから、1年後に1万円と言われれば1万円をもらえる前提で、いくら足してもらわないと合わないなという計算をします。割引率といいます(正確な現在価値の概念は、1年後の1万円を今もらいたいなら1%割り引いて9900円だよということ)。

ところが、インドネシアではそもそも約束が守られないわけですから、今くれとなりがちです。

また、その人は約束を守る気があったとしても、世の中が激変して急に払えなくなってしまうこともありえます。法律が変わるとか、クーデターで政権が崩壊し政府の承認が取れなくなりましたとか。
カントリーリスクという言い方をしますが、リスクの高い国の割引率は高まります。

また、約束というのは、いろいろな階層が絡んで全員が守ることでようやく守れるというケースが多いですから、インドネシアのように約束を守らなくてもよいと思っている人間が多いと、階層を絡めれば絡めるほど約束が守られる確率が下がるわけです。
(約束守る率80%として、階層が1つだと80%、階層が5つだと理論上0.8の5乗で0.33(33%)に落ちます)

組合交渉の結果やいかに

前述の組合交渉がどうなったかというと、こちらからすると、従業員側が経営側に大幅に妥協した決着となりました。
当初組合は法定の倍とか3倍の退職金を払うべきだと主張し、法定を主張するわれわれ側と、倍以上の乖離がありました。
ところが、いくら払うべきかという議論から、いつの間にかいつ払うかの議論にすり替わり、すぐ払ってもらえるのであれば経営側の金額でよいとなってしまったのです。

すぐといっても6か月くらいの差ですよ。解雇のタイミングを早めるだけで、経営側にはむしろ好都合です。その間の給与を払わなくてもいいわけですからね。
それでも組合側はハッピーでしたし、おそらく従業員もハッピーだったのでしょう。それはおそらく彼らの頭の中の割引率が高かったからです。
半年後に1万円もらうより今5,000円ほしいということです。

割引率は半年で100%ということですから、半年ごとに2の2乗、3乗、4乗と増えます。
計算すると1万円が1年後は2,500円、1年半後は1,250円、2年後は625円と割り引かれていきます。
3年後に1万円もらうより今156円欲しいと言っているのに等しいんですよ。
別の言い方をすると、156円で買った株が、3年後に1万円に上がるくらいのリターンがないと投資しないとも言えます。

そんな投資先滅多にないですよ。一般的にVCはIRR30%を目標にします。年間1.3倍ずつ複利で増えるイメージです。割引率に置き換えると年間30%です。半年で100%(2倍)がどれだけ異常値かお分かりいただけるかと思います。

わたしが意図的に相手をだましたわけではないですが、複雑な心境でした。

結局、約束を守らない=相手が約束を守らないのも仕方ない、という社会構造になってしまっているということでしょう。
過去植民地時代を含め、時の支配者が約束を守ってこなかったという悲しい歴史も関係しているかもしれません。

時間に正確だと言われている日本人も明治初期の頃までは時間にルーズだったという記録が残っているし、わたしも学生の頃は時間にルーズでしたから、インドネシアもがらっと変わる可能性はあります。

わたしが生きているうちにそうなるといいですけど、どうでしょうね。


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