見出し画像

【第5回】 アメリカ、イギリスにおけるエリート教育の根源

~その現地訪問によるインタビューを通じて2007~

※私が2007年にアメリカ、イギリスの学校を訪問してまとめたものです。訪問から月日が過ぎてはしまいましたが、希学園の根幹に通ずるものがここにあるので、各種データは当時のまま、文章部分に修正を加えています。

アメリカ編 Phillips Exeter Academy
回答者:Peter Vorkink / Jorden

Phillips Exeter Academyはボストンから北へ車で1時間ほど離れたニューハンプシャー州のエグゼターという町にあります。471エーカーの広大な土地に全米46州および29カ国から生徒が集まっています。芸術や運動など広範囲のプログラムとその実施のための十分な施設を持った学校です。
 ハーバード大学を卒業したJohn Phillipsによって1781年に設立され、大学のキャンパス並みの広大な土地に150もの建物を配し、そのうち寮は40棟にも及びます。たくさんの建物があり、どこまでが学校か、なかなか見分けることができないため、学校の建物のドアには赤い表札のようなものが貼ってあるのです。中等学校では世界最大の図書館を持っており、この図書館が有名な建築家によって作られたこともあって、2005年度にアメリカで切手になったほどです。
 Exeterは大学へ入学するための準備期間として9学年から12学年までの計4年間勉強するところです。1050名の生徒のうち81%が寮生・19%が通学生となっており、寮生と通学生の違いはほとんど作らず、大学進学に関しても違いはありません。海外からの生徒は9%おり、そのうち日本人は6人いるが、そのほとんどはインター出身です。
 日本人で公立の中学校を卒業してExeterへ入学してきた山本君という子がいました。彼は天才的な生徒で何をやらせても抜群で、各教科で1番をとり、首席で卒業してハーバード大学へ進学したそうです。
 教職員は約191名(2005年当時)で、入学事務、経済的側面、カリキュラム等の学業など(19科目の中に350以上ものコース)に責任を持っています。全員がキャンパス内にある29棟の建物に住んでいますが、ほとんどの場合が、寮の中でのアドバイザー役として寮生と共に生活していると言っても過言ではありません。当初は男子校でしたが、1970年に共学校となり、今では生徒の48%が女子学生です。

日本語クラス(初級)の生徒たち

この学校の特徴といえば、1930年にEdward S.Harknessにより考えられた、楕円形テーブルで行う授業です。日本の那須海城中・高もこの楕円形テーブルを使っています。教室に入ると真ん中に、楕円形のテーブルがあり、先生や生徒達はみんな向き合って授業を進めていくのです。これは生徒達が話しやすくするために作られたもので、授業中先生が話すのは数分で、それ以外は生徒たちが互いに話をして進めていき、聞き方、話し方、質問の仕方、説明の仕方、同意の仕方と異議の唱え方、考え方などを学びます。この授業では、いろいろな考え方やものごとをあらゆる部分から見ることができる創造的な人間を形成していきます。1クラス平均12人であるため、先生はすべての生徒のことをきちんと把握しており、個人的に生徒の成績や感情までも理解し面倒を見ることができるのです。

楕円形テーブルで行われている日本語クラス(中級)の様子

■宿題に毎日6時間
 寮の中を見学させてもらいました。セキュリティーカードがしっかりとし、ドアの横にはセンサーがついていて、各自IDカードを当てないとドアが開かない仕組みになっています。学校関係者以外の人が簡単に入ることができないため、とても安心です。中に入って驚いたのは、3階建ての寮なのにエレベーターがあったことです。近代的設備の整った寮の中を歩いているとまるでホテルにいるような感覚になったほどです。これが200年の歴史を持つ古い学校の寮とは思えないほど充実していました。各部屋のドアの横には名前と卒業する年度が書いてあり、誰がいつ卒業するのかということをすぐ理解できるようになっています。寮の周りには、郵便局、図書館、芸術センター、音楽センター、医療センター、本屋、劇場、食堂など生活関連施設が充実していることは言うまでもありません。
 入学してくる生徒は既に勉強面や才能面で優れている子を選抜しているため、彼らの得意分野を伸ばすのに力を注ぎ、援助をしています。毎日6時間ほどかかる宿題が生徒たちに課せられているため、勉強の嫌いな生徒が続けることは難しいと思われます。自習室がないため、寮生達は寮で設けられている勉強時間を使って、また、通学生は図書館や家でたくさんの課題をこなしていくのです。毎日勉強をしなければ、すぐに下位グループへ落ちてしまうため、生徒達は毎日一生懸命勉強に励んでいます。
 運動面にもかなり力を注いでいます。運動設備は十分すぎるほど整っており、アイスホッケーのリンクは男子用・女子用と2つもあります。キャンパスのはずれには、創立当初からある室内ランニングマットをそのまま残しており、創立時のマインドを伝えるべく、今でも雨が降った際には使用しているとのことです。
 Phillips Exeter Academyには3つの教訓があります。
1.non sibi(英語ではnot for oneself)
ビジネスリーダーになることや、もしくは人の助けとなる仕事につくこと。
2.finis origincet pendet(英語ではend depends upon the beginning)
終わりは始まり次第であるということ。
3.charih theou(英語ではby the grace of God)
神様から恩恵を受けているということ。

長年の使用ですり減った大理石の階段(建物内)
教授室の様子
寮の一室
寮の一室

将来のトップリーダーになるための動機付けとして、いろんな分野の有名な人が定期的に学校のホールへ来て講演をし、全生徒へ「いつか将来の世界のリーダーとなるのだ」ということを話してもらう機会を多く作っています。そうすることが、生徒達の学習意欲を高め、将来自分はリーダーになるのだと意識させるのです。
 入学試験は大学入試と似ていて、申込書(オンラインでも可能)、エッセイと健康診断書等が必要で、IELTSやSSATと呼ばれるテストも受けなくてはなりません。これらを統合して判断し、面接を行います。面接では形式的な質問は避け、受験する生徒の人間性を理解し判断するための場となるため、学校側は保護者の質問に答え、不安を無くしてもらうようにしています。
 実際に一人の生徒を卒業させトップエリートへの道として難関大学へ入学させるために人と財力をふんだんに使っている印象がとても色濃く出ていました。すなわち彼等はこのPhillips Exeter Academyに在学し卒業すること自体エリート街道を着実に歩んでいくことになるのです。また、そのようなエリートを学校という教育機関がつくり出している点にアメリカのエリート教育の真剣さと凄さを感じました。

Peter Vorkinkさん(写真左)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?