韓国の漫画が日本市場を支配する日

ウェブトゥーンを原作としたドラマ『梨泰院クラス』の大ヒットにより、韓国のウェブ漫画が注目を集めています。映画界でも『神と共に』二部作など、日本でも話題になる作品が出てきています。

『梨泰院クラス』は、LINEと並ぶ類似サービスのカカオトーク傘下の「カカオM」社が制作したドラマです。

出版社が今も漫画ビジネスの利益をがっちり握っている日本と違い、韓国では早くから漫画出版の衰退がはじまり、今では漫画といえばウェブトゥーンが主体です。

LINEやカカオトークといったネットサービスと連携し、短期間で一気にユーザーを増やしてきました。

日本でも、韓国のNAVER Corporationの子会社であるLINE社によるLINEマンガが業界をリードし、同じくカカオトークの日本法人が運営するピッコマと合わせると、2サービスですでに7割近くのシェアを握っています。スマートフォンで、両社の広告を見る機会も増えてきているかと思います。

これら韓国の新興サービスは、徹底したマーケティングで配信コンテンツを日本市場に合わせてきているのが特徴です。

韓国製の漫画がすぐに受け入れられることはないだろうとの判断から、LINEマンガは100社以上もの日本の出版社などと協力して、日本製の漫画を中心にサービスを広げてきました。

一方、ピッコマはAIやビッグデータを活用し、日本人の好みを分析。市場が求めるタイプの作品を厳選して提供するとともに、ときには内容をチューニングするなどの工夫も行い、LINEマンガを猛追しています。

これには、長い歴史を持つ日本の漫画文化に、韓国のそれが追いつくのは容易ではないという背景があります。

映画にしろマンガにしろ、クリエイターたちが何世代もかけて積み上げてきたノウハウや世界観に、新興国が太刀打ちするのは難しいです。

実際韓国のウェブ漫画については、日本コミックの絵柄や演出の二番煎じだとの批判があります。

しかし韓国発の企業は、そうした批判を甘んじて受けながら、プラットフォーマーとして日本の漫画市場に食い込む戦略を進めてきました。

プラットフォームを握ってしまえば、そこで流れるコンテンツが日本製だろうが韓国製だろうが、利益を得続けることができるというわけです。

プラットフォーマーとして利益を確保しつつ、その間に自国製、自社製コンテンツの質を高めるというのは、アマゾンプライムビデオやネットフリックスなどの新興企業、サービスがたどってきた成功の道です。

彼らは潤沢な資金と、デジタルプラットフォームという流通を握っていたため、旧来の映画会社の持つシェアを、あっという間に奪っていきました。

おそらく現在は、「日本の漫画や映画が負けるわけがない」と、漠然と安心感を抱いている経営者、コンテンツホルダーも少なくないと思います。

しかし、同じように考えていたハリウッドのメジャー各社も映画館チェーンも、今ではネットフリックスの意向を無視することはできない状況に追い込まれています。

韓国は、映画については国と業界が協力して様々な施策で底上げを行い、米アカデミー賞やカンヌ映画祭のパルムドール(最高賞)を受賞するほどまでに、質を高めてきました。

その間、国内市場ばかりを見てきた日本の映画界は、完全にアジアの盟主の座を奪われてしまった格好です。

同じことが漫画で起こらない保証はありません。

日本の大手出版社は、拡大を続けるウェブ漫画シーンにおいては、すでにLINEマンガやピッコマといった韓国発のデジタルプラットフォームを利用しなくては、自社のコンテンツを広げることができなくなりつつあります。

LINEを子会社に持つNAVERは、韓国ではスタジオNという映像制作会社を抱えており、自社が権利を持つウェブ漫画の映画化、ドラマ化などを自前で手掛けることができる体制を持っています。

KakaoTalkも、カカオMという映像制作会社で同様のシステムを持っています。

デジタルプラットフォーマーたちが、自前のコンテンツの制作に乗り出して成功を目指す流れは、全世界的な傾向です。

韓国はいち早く漫画の世界でそれを実行し、自国市場ではすでに大成功。日本市場においても、ほぼその趨勢を握りつつある、といった状況だと思います。

著者ウェブサイト
https://movie.maeda-y.com/

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