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Netflixが「リスペクト・トレーニング」を実施

動画配信大手のネットフリックスによる「リスペクト・トレーニング」が話題になっています。

「リスペクト・トレーニング」とは、映画撮影に入る前、役者はスタッフはもちろんケータリング業者に至るまで全員に、あらゆるハラスメントについての防止講義を行うというものです。

「これをやっちゃダメ」ではなく「敬意を払い、尊敬の念を示すためこうしよう」とのコンセプトでセミナーを行うため、「リスペクト・トレーニング」と呼んでいるようです。

きっかけとなったのはアメリカにおける「#MeToo」運動です。

「#MeToo」運動とは、2017年の秋のニューヨークタイムズのスクープ記事で明らかになった、大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの数十年間に及ぶセクシャルハラスメントを契機に発生した市民運動です。

女優のアシュレイ・ジャッドやメリル・ストリープ、グレン・クローズらが被害や内情を訴え、ジェニファー・ローレンスやジェシカ・チャステインといった人物が続きました。

あまりに多くの有名女優が被害を受け、発信したため業界を揺るがす大事件となり、いくつもの訴訟が提起され、知らぬ者はいなかった大物ハーヴェイ・ワインスタインは、彼の製作会社とともに事実上、映画業界を追放されることになりました。

ワインスタインはアカデミー賞をとるために連夜豪華なパーティーを開いたり、接待を繰り返したりするなど綿密な根回しを行ったことで知られていました。

それが功を奏して多数のプロデュース作品が受賞し、時代の寵児となっていったのです。

その裏で、大勢の女優にひどいことをしていたこの事件は、アメリカのみならず世界中に大きな影響を与えました。

ネットフリックスが「リスペクト・トレーニング」のような事を行い、製作現場における「古い体質」「なあなあの空気」「女性蔑視」を厳しく取り締まることを表明したことは、おおむね好意的に受け取られています。

一方で、狂気をはらむ芸術といった一面がある映画製作に過剰な規制は似合わないと考えるオールドスタイルの映画人もいるようです。

私もそうした人が「制裁」を加える現場を見かけたことがあります。一般社会の常識でみれば問題になりそうなこうした場面は、業界人ならだれもが目撃したことがあるはずです。

ネットフリックスは、あれほど隆盛を誇ったワインスタイン・カンパニーやミラマックスが、ハーヴェイの失脚で落ち込んだ姿を見ていますから、新しい会社として、重要な危機管理の一環としてこうした動きを率先して行う、行えるのはよく理解できます。

しかし、現実問題を考えると専門家を複数招くこのセミナーじたいにもコストがかかりますし、厳密に撮影現場で厳しいプロトコルやルールを守れば、間違いなく現状よりも製作期間が延びます。

大勢のプロがスケジュールを合わせる映画の場合、製作期間が延びることは即、予算超過につながります。

それでも「やる」と即断できるのは、ネットフリックスの持つ予算枠がけた違いに大きいからです。

年間1兆5千億を超えるといわれる彼らのコンテンツ制作費は圧倒的で、だからこそこうしたことができるわけです。

そしてこうしたニュースが報道されれば、作品、会社への好感度も上がり、宣伝広報費の代わりにもなる。勢いのある会社には、よい循環がおこるという典型的な話なのだろうなと感じます。

と同時に、緊縮思考が全国民的に染み付いた日本との差に、やるせない気持ちにもなります。

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