観客の心臓の鼓動を作品に反映するなど、VR・インタラクティブ映画はどこまで普及するか
9月2日から開幕する第77回ヴェネチア国際映画祭に、VR&3DCGアーティストの伊東ケイスケ氏が、日本から2年連続の参加を果たしました。
『Beat』という12分間のCGアニメーションが、バーチャルリアリティ(VR)部門のコンペティション作品としてノミネートされたということです。
コロナ禍のなか開催される最初の主だった国際映画祭であるヴェネチア国際映画祭。VR部門はオンラインで開催されます。
私も予告編しかまだ見ておりませんが、『Beat』は、命を吹き込まれたロボットの成長物語だということです。
ユニークなのが、作中のロボットに命を吹き込むのは心臓の鼓動という設定で、それが鑑賞者の実際の心拍数と連動している点です。
観客は特殊なデバイスを装着して心臓の動きをモニターしたり、画面と連動したバイブレーションを感じたりして、新鮮な映像体験ができるという仕組みです。
ヴェネチア映画祭には、こうしたインタラクティブな仕掛けを施した映画を集めた部門があります。
ネットフリックスなど動画配信サービスの普及により、映画館の優位性が失われつつある現状で、応援上映など"ユーザー参加型"や"双方向性"という要素が、いま注目されています。この部門にノミネートされる作品は、その最先端といえるでしょう。
すでに日本でも松竹製作の『シライサン』というホラー映画(小説家の乙一=安達寛高による監督作品です)が、実験的なインタラクティブ作品として今年1月に公開されています。
こちらは「イヤホン360上映」といって、観客は指定のアプリをインストールした自分のスマホにイヤホンをつなぎ、それを装着したまま映画館で映画を見るというものです。
すると、劇場のスピーカーにはない効果音などがイヤホンから追加で流され、臨場感がアップするという仕組みです。
映像や劇場のスピーカーとの同期は、視聴覚障碍者用の副音声システムの技術を応用しているそうです。
じっさい体験してみると、思わずイヤホンをはずしてみたり、つけ直してみたりと、なかなか新鮮かつ楽しいものでした。普通の映画より、ちょっとだけお得な感じもしますし、話の種にもなるでしょう。
場合によっては恐怖度を大幅アップした「激コワ音声追加バージョン」とか、全く違ったオチやストーリーを同時進行させる「衝撃のB面同時進行バージョン」など、クリエイターの工夫によってさまざまなことができる可能性を感じさせるものだと感じました。
ただし、『シライサン』の場合は肝心の映画の出来がイマイチでさほどの話題にもならず、それが原因なのかその後の発展の話も聞きません。
インタラクティブやVR上映といったものがいまだ実験段階ということなのでしょうが、無謀に思える試行錯誤が思わぬイノベーションにつながることもあるので、『Beat』とともに私は注目しています。
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