第1回 飽和文学賞〜受賞作発表〜

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飽和文章とは?

飽和文学とは、水に限界まで溶質を溶かした状態である飽和水溶液のように、一つの文章に限界まで似た系列の単語を詰め込んだモノを指します。飽和文章の代表的な例が、昭和の大スター・小林旭さんの代表曲「自動車ショー歌」の歌詞です。

♪あの娘をペットにしたくってニッサンするのはパッカード 骨の髄までシボレーで あとはひじてつクラウン

【直訳】あの娘を彼女にしたくって日参するのはバカだけど 骨の髄まで惚れていて あとは肘打ちを喰らうのさ。

自動車関係の単語がギッシリ詰め込まれたこの文章。文章の読みやすさなんて関係ない。意味なんて知ったこっちゃない。単語が、単語がより多く詰め込めればそれでいい。とにかくギュウギュウに単語を詰め込みたい。大特価単語詰め放題セールに詰めホ書きホ時間無制限。それが飽和文章です。

飽和文学賞とは?

飽和文学賞とは、自らの飽和文章を読み返し、自ら審査、そして自ら賞を与え、自らから受賞する完全セルフ文学賞です。今回は、大学1年から壊れかけのMacBook Airに書き溜めている飽和文章から厳選したいくつかに、賞を与えていきます。現在、競技人口が2人(小林旭と前田知礼)のみのマイナー文学を、より多くの方に知っていただきたく、この飽和文学賞を設立した次第であります。

では早速、受賞作を発表していきましょう。今回はこちらの8作品はノミネートされました。

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それぞれがどんな賞を獲得するのでしょうか。

早速、参りましょう。

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「飽和クレヨンしんちゃん文章」

寿司屋にマサルしんのすけ六寿司をボー食し、我が胃はひろしと言うけれど、もう一切のヒマはなく、グみさえ喉をトオルまい。「ネネ、早くシロ」と言われてもトイレ休憩を園長し、激痛野原をさするだけ。

【直訳】寿司屋に勝る渾身の助六寿司を暴食し、我が胃は広しと言うけれど、もう一切の暇はなく、グミさえ喉を通るまい。「ねぇねぇ、早くしろ」と言われてもトイレ休憩を延長し、激痛の腹をさするだけ。

〈選評〉

可もなく不可もない一作。抜きん出て優れているわけでも、特別に劣ってるわけでもない。「渾身の助六寿司」や「グミさえ喉を通るまい」といった飽和文章ならではの聞き馴染みのないフレーズが、かえっていいアクセントになっている。今後に期待したい。

〈受賞コメント〉

特に思い入れがある作品でもなかったので妥当な賞だと思います。ありがとうございました。


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「飽和ネ申7文章」

「好きだ」と優子と決意して、麻友を整えみなみを正し、「麻里子が好きだ」と叫んだら、「声を陽菜」と怒られた。当たり前田が彼氏が板野

【直訳】「好きだ」と言う事決意して、眉を整え身なりを正し、「麻里子が好きだ」と叫んだら、「声を張るな」と怒られた。当たり前だが彼氏がいたの。

〈選評〉

AKB48の元メンバーが上手く詰め込まれている。「片想いの男が告白しあえなく撃沈する」という構成に、飽和文章の元祖「自転車ショー歌」へのリスペクトを感じた。昭和の歌謡曲のオマージュを、平成を代表するアイドルグループで行なっている点は評価に値する。「身なり」を「みなみ」とした部分に無理矢理感は否めないが、「当たり前田が彼氏が板野」というオチは秀逸。

〈受賞コメント〉

佳作特別賞ありがとうございます。これを作ったのは昨年の夏休みですね。青春18きっぷで木更津に向かう車内で、iPhoneのメモアプリに書きました。夏の青い空、流れる車窓、内房線の冷房を見ながら、爽やかな気持ちで。「まもなく木更津〜木更津〜」のアナウンスと同時に最後の一言が降りてきましたね。TBSドラマ『木更津キャッツアイ』のロケ地巡りをしました。ありがとうございました。ニャー。


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「飽和魚文章」

サンマんのメバルアジイカほど?確カニマグロは旨いけど、そしタラシャチょうの思ウツボマスマス迷うサケのあて。コイに悩める乙女のよう。気がつきゃハヤ藻藻クジラ。兎ニモニモそのニモの、サメないうちに召し上ガレイ

【直訳】3万のメバルの味はいかほどかい?確かにマグロは旨いけど、そしたら社長の思う壺。ますます迷う酒のアテ。恋に悩める乙女のよう。気がつきゃ早くももう9時だ。兎にも角にもその煮物、冷めないうちに召し上がれ。

〈選評〉

巧さとくだらなさを両立している。「サンマんのメバルの味はイカほど貝?」の密度の高さの一方で、「兎ニモ角ニモそのニモの」という強引さも兼ね備えている。魚を題材にしておきながら、新鮮さが見受けられないのが少し残念だが、光るものはある。魚だけに。

〈受賞コメント〉

火曜4限の「情報通信ビジネス」の時間に書いた作品です。パソコン室での授業なんで、デスクトップの死角に隠れてコソコソ魚の名前を調べていました。どうしてもナポレオンフィッシュを入れたかったんですけど、ナポレオンフィッシュが自然い馴染むほど日本語は柔軟じゃないですね。早く水族館に行きたいです。ありがとうございました。


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「飽和西武池袋線文章」

新婚保谷保谷の昼下がり。冷房ガンガン涼椎名。「江古田」と秋津が消したなら、熱に体が飯能し、石神井で汗が大泉。鬼の入間につけたなら、「今さっき消した所沢」。堪忍ブクロの緒が切れた。慌てて抱清瀬謝って、「その辺ニシトコ」と言ったとて、彼女の怒りは富士見台。 しっかりつけねばお豊島園。今日はここまで西武線

【直訳】新婚ホヤホヤの昼下がり。冷房ガンガン涼しいな。「エコだ」とアイツが消したらなら、熱に体が反応し、ジャグジーで汗が大泉。鬼の居ぬ間につけたなら、「今さっき消したところだわ」。堪忍袋の緒が切れた。慌てて抱き寄せ謝って、「その辺にしとこう」と言ったとて、彼女の怒りは不死身だい。しっかりつけねば落とし前。今日はここまでセーブせん。

〈選評〉

ユーモアよりは真面目さを強く感じた。魚と違って駅名は文字数が多いので難易度も上がるのだが上手く対応している。「ところざわ」や「としまえん」や「しゃくじい」といった5文字も正確に処理している。圧倒的な努力が見えた。

〈受賞コメント〉

西武池袋線に乗りながら書きました。と、言いたいところなんですが、ごめんなさい。中央線で書きました(会場、爆笑)。立川のBOOK-OFFで要らない服売って、IKEAに行った帰りの車内でポチポチ作りましたね。これを書いたあとに所ジョージさんの「西武沿線」という似た構造の曲の存在を知りました。半飽和文章のような歌詞なのですが、被ってるのは「富士見台」だけでした。「花見で見るのは桜台、スーパーマンは富士見台」……所ジョージも僕も考えることは一緒です。ありがとうございました。


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「飽和時代文章」

平成生まれの昭和女子大の奈良飛鳥と、大正生まれの明治大学教授(『戦国の探究Ⅰ・Ⅱ』)の室町子は平安神宮に行った帰り、やよい安土桃山城店で鎌倉パスタを食べながら、江戸むらさきを詰め込んだ縄文土器を古墳して割れば、令和元年の音がする。

【直訳】平成生まれの昭和女子大のナラヤヨイと、大正生まれの明治大学教授(『戦国の探究Ⅰ・Ⅱ』)のムロマチコは平安神宮に行った帰り、やよい軒安土桃山城店で鎌倉パスタを食べながら、江戸むらさきを詰め込んだ縄文土器を興奮して割れば、令和元年の音がする。

〈選評〉

文字通り、新時代の飽和文章という印象を受けた。別の意味の単語に「置き換えるのではなく、その語の意味をそのまま利用している。知性と無理矢理感が共存している「大正生まれの明治大学教授(『戦国の探究Ⅰ・Ⅱ』)の室町子」という部分の斬新さには、嫉妬すら覚えた。飽和文章の未来は明るい。

〈受賞コメント〉

昨年、令和になる直前「平成最後の昭和の日に大正駅で明治のR-1を飲む」というほんとぉーに面白い画像付きのツイートがバズってまして。「どうせならもっと詰め込もうよ」と、縄文以降の全時代を詰め込みました。何度か修正したのですが、最短コースを歩めたかと思います。新時代の飽和文豪になれるよう、精進していきたいです。ありがとうございました。


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「飽和東映映画賞」

憑神える夜のこと。誰かが私にキスをした包帯クラブYAMATO先輩。イケメンでカツベン!強できる優等生。今では立派な鉄道員起終点駅で2人きり、僕達急行に乗りたいが、来たのはカ苦役列車だけ。終電逃し彼のHOMEへ。今日が私のX DAYアゲインのないキカイダーサクラサク小川の辺を歩きつつ、GAMBAってYAMATOに告白だ。初恋実って関係は、同じ月を見ている先輩と彼女。次第に相棒ルームメート、そして同棲L♡DK。2人で見るのはNHK、軋むベッドでおっぱいバレー、そして体位は69。「ただ、君を愛してる」と言われたり、大奥の思い出作ったが、四日間の奇蹟は終了し、フラれて心が悼む人。なおかつ恋が終わった人。別れをおしんくちづけも、勇気の海難く断られ、気がつきゃ年は五十六。未だにキセキは起きなくて、閉鎖病棟の片隅で、壁に走馬灯東映し、キセキの日々を振り返る。

【直訳】月が見える夜のこと。誰かが私にキスをした。包帯クラブの大和先輩。イケメンでかつ勉強できる優等生。今では立派な鉄道員。終点駅で2人きり、僕達は急行に乗りたいが、来たのは各駅列車だけ。終電逃し彼の家へ。今日が私のX-DAY、アゲインのない機会だ。桜咲く小川の辺を歩きつつ、頑張って大和に告白だ。初恋実って関係は、同じ月を見ている先輩と彼女。次第に相棒、ルームメート、そして同棲LDK。2人で見るのはNHK、軋むベッドで(自主規制)「ただ、君を愛してる」と言われたり、多くの思い出作ったが、4日間の奇跡は終了し、フラれて心が痛む人。なおかつ恋が終わった人。別れを惜しんだ口づけも、勇気の甲斐なく断られ、気がつきゃ年は56。未だに奇跡は起きなくて、閉鎖病棟の片隅で、壁に走馬灯投影し、奇跡の日々を振り返る。

〈選評〉

メジャーな映画がほとんどなく確認の為に調べるのには苦労したが、その頑張りとセンスは認めざるを得ない。我が国の公共放送である日本放送協会・NHKに、変態仮面を表す「HK」を挿入している辺りに、彼なりの皮肉を感じた。諸手を挙げて絶賛というわけではないが、審査員特別賞を送りたい。

〈受賞コメント〉

東映のエントリーシートを書いてまして、最後の欄が1ページ分程白紙。「自己PR(どんな方法でも構いません。自由に書いてください)」とあったので、「御社のコンテンツを限界まで詰め込んだ文章を作りました」と添え、飽和文章を書かせていただきました。調べれば調べるほど、TSUTAYA の旧作コーナーやレンタル落ち販売コーナーでしか見ない映画ばかり。詰め込み始めたからにはと、なんとか手のひらのした部分でグッと押し込むようにして、最後まで詰め込みました。そして、なんと通過しました。寛容。ありがとうございました。


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「飽和鬼文章」

飽和鬼文章

【直訳】
鬼の魂を喰う魑魅魍魎 それ悪魔なり(「魏志倭人伝」より)

〈選評〉

最優秀賞を紹介する前に、惜しくも入選とはならなかったが優れたアイデアの作品を一つ。漢文という飽和文章史上初めての試み、そして言葉ではなく同一の部首の漢字を詰め込んだ点、様々な野心的な取り組みに至った勇気を讃えたい。

〈受賞コメント〉

嬉しいです。ちなみになんですが「魏志倭人伝」にこのような文章はありません。ありがとうございました。


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「飽和お笑い芸人文章」

X-GUNナイツオテンキも下り坂。レインボーは消えカミナリに。いつもここから眺めてる、アジアンビューティな顔立ちの、たんぽぽのごとく白い君。はなわ無いけどとにかくよゐこいとし・こいしなこの気持ち。磁石のように引き寄せられて、フォーリンラブを夢見るが、きっとこの恋はデンジャラス。そしてなおかつインポッシブル。人生にはないTAKE2。ニコッと笑い飯に行こうと誘えばOK、こりゃめでてーな我が家に直行。両手ピースで小オードリーし、ゴー☆ジャスロンドンブーツを新調す。居酒屋かが屋で待ち合わせ。バイきんぐコース注文し、和牛ライスくりーむしちゅー銀シャリに乗ったとろサーモンハムコロッケサンドラーメンフルーツポンチプリンプリンハライチっぱいになったから、ずんと腰掛け「さまぁ~ず」と、目を見た所でド忘れし、「野爆ね?」と焦り下を向き、ラブレターズっとカンニング。「ミキの事バカリ気になって、ニッチェもさっちをいかない」と告白設楽、「Hi-Hi」と爆笑しつつ「馬鹿よ貴方は」と罵られ、「さらば」と残してEXITキンコンゴングが鳴り鉄拳喰らってTKO。でも「返事ハマダか」とマテンロウたむけん言葉もないままに、しなキャイ~ンのにピンクの電話ハナコに電話。東京03-三四郎ナインティナイン2700ZEN然繋がらない電話。これ以上待っても麒麟がない。2:50やさしい雨に振られつつ、人志れず眺めた流れ星キャンキャン泣いてシルクを濡らす。雨上がり、今日の記憶を決死隊

【直訳】抜群のナイスな天気も下り坂。虹は消え雷に。いつもここから眺めてる、アジアンビューティーな顔立ちの、タンポポのごとく白い君。華はないけどとにかく良い子。愛し恋しなこの気持ち。磁石のように引き寄せられて、恋に落ちることを夢見るが、きっとこの恋は危険。そしてなおかつ不可能。人生にはないテイク2。ニコッと笑って飯に行こうと誘えばOK、こりゃあめでたいなと我が家に直行。両手ピースで小躍りし、ゴージャスなブーツを新調する。居酒屋かが屋で待ち合わせ。バイキングコースを注文し、和牛にご飯にクリームシチュー、銀シャリに乗ったトロサーモン、ハムにコロッケ、サンドウィッチにラーメン、フルーツポンチにプリン。腹いっぱいになった片、ずしんと腰掛け「さぁ、まず」と、目を見たところでど忘れし、「ヤバくね?」と焦り下を向き、ラブレターずっとカンニング。「君のことばかり気になって、にっちもさっちもいかない」と告白したら、「はいはい」と爆笑しつつ「バカよあなたは」と罵られ、「さらば」と残して出口へ。きんこんとゴングが鳴り響き、鉄拳くらってテクニカルノックアウト。でも「返事はまだか」と待てない。手向ける言葉もないままに、しなきゃいいのにピンクの電話で花子に電話。03-346-99-2700。全然繋がらない電話。これ以上待ってもキリがない。2時50分、優しい雨に振られつつ、人知れず眺めた流れ星。キャンキャン泣いてシルクを濡らす。雨上がり、今日の記憶を消したい。

〈選評〉

お笑い芸人という着眼点が一番の勝因ではないだろうか。特に中盤の怒涛の食べ物コンビ名の連続には、マシンガンに撃たれたような衝撃を受け、ふたつの意味で「うまい」と唸らせれた。「東京03-三四郎ナインティナイン2700」というユニット名だけで電話番号を表現するアイデアには感服した。若手から中堅ベテランまで、ありとあらゆる芸人を出しておきながら、オチは雨上がり決死隊。群雄割拠、様々な芸人がテレビに出演する中で、最終的に世間を騒がしたのは彼らである。そのようなメタファーを通して社会を斬る姿。これこそが芸術が芸術たる所以ではなかろうか。

〈受賞コメント〉

まずは、このような長い飽和文章を読んでいただき本当にありがとうございました。僕はこれまで何作もの飽和文章を作ってきました。組み立てては崩し、組み立てては崩し、少しでも余白を埋めたいと必死でした。

誰に見られるわけでも、褒められるわけでもないのに、ひと単語ひと単語を健気に詰め込んできて早3年。

「もうこれ以上は詰め込めないよぉ!」「隙間がない、隙間が……ない……」「単語を!僕に単語を!」そんな苦悩の時期もありました。

詰め込めない夜、単語が足りない夜、詰め込み過ぎた夜、一回全部を壊してた夜、いくつもの苦しい夜を超えたかたらこそ、現在(いま)があります。

最優秀賞、本当に嬉しく思います。

そして、もう飽和文章は小林旭と僕だけのものではありません。

次に飽和文章を書くのは、これを読んでるあなたです。

さぁ、パソコンを開き、Wordを立ち上げましょう。

そこが、あなたの詰め込むべき場所です。


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