「有吉の壁」がヤな記憶を上書きしてくれた
あるテレビドラマの現場で働いていた。
4時半に起きるや否やAirPodsを耳に詰め込む。90分前まで放送されていた深夜ラジオを爆音で聴きながら、安住アナの出てない「THE TIME」を無音で見つつモンスターを身体に流し込む。大江戸線の始発(なんと座れない)に乗って新宿なり渋谷なりに行ってロケバスに乗り込んで、モンスター効果で脳だけ寝てない状態の睡眠を到着ギリギリまでにとる。現場(路上が多い)でポパイのおにぎりを食べて、撮影開始を待つ。「ドライ→割打ち(カット割打ち合わせ)→テスト→本番(OK出るまで)」のサイクルを陽が暮れて報ステが始まるくらいの時間まで、移動や撤収や小言やパワハラ(被)を挟みながら繰り返す。終電間際の大江戸線で帰って、駅のファミマで買った「香ばし生地のクッキーシュー」を貪り食いながら帰宅。泥のように眠って4時半に起きてAirPodsを耳に詰め込む。そんな生活を3ヶ月繰り返し、少し休んでまた3ヶ月繰り返す。誰かのこんな生活の上に連続ドラマは成り立っているのだから、迂闊にながら見できないなと思う。
ある撮影期間に何度も訪れた学校がある。びっくりするほどいろんなドラマ映画で使われてる学校で、かつては古田新太がスカート履いてたり、ムロツヨシが娘を心配したり、元TOHOシネマズナビゲーターの山崎紘菜が桶狭間の戦いに巻き込まれたりしてる。初めて来たとき、猛烈なデジャヴに襲われたのち、フィクションの世界に閉じ込められた感覚に、ゲロ吐きそうのなりながら過ごした。
あの場所で見たもの聞いたものを、外に出したくて仕方がないけど、撮影現場の写真をどこかに公開することは当たり前として、現場で何があったかを口外するのもコンプライアンス上NGらしい。
だから今回は、
「有吉の壁 おもしろ学園選手権」(2月16日オンエア)を観た感想を、それに上書きされた「架空の記憶」と共に綴っていこうと思う。
上書きされる前の記憶はあくまでも架空。「もし僕がサード助監督だったら」という妄想を、脳内で膨らませてできた完全なフィクション。ない人ない物、ないキャストない監督ないプロデューサー、ない助監督、ないAP、ない撮影部、ない音声部、ない照明部、ない美術さん、ない持ち道具さん、ないメイク部さん、ない衣装部さん、ないフードコーディネーターさんなどたちと作り上げた「ないドラマ」の「ない記憶」……とにかく「ない思い出」を振り返っていると思ってもらえたら嬉しい。そしてその記憶は「有吉の壁」で上書きされるので、このnoteを書き終える頃には完全にこの世から消える。うん、消える。
とにかく記憶の上書きを急ぎたい。場所の記憶を、同じ場所の新たな記憶で消していこう。
【校門】
5時半発のロケバスに乗りに行ったら定員オーバーで「申し訳ないが自力で向かってくれ」と電車+路線バス+徒歩で向かい、やっとの思いで撮影開始ぎりぎりに到着したらなぜかブチギレられた記憶、
三四郎相田さん演じるハゲ狂ってる野球部の監督を、ルシファー吉岡さん演じるハゲ狂ってる野球部部員が見送る感動の場面で上書き。
【下駄箱】
学校に実在感を出すために、持ち道具さんが用意してくれた誰が履いたやもしれない大量の中古の上履きを次々と下駄箱にぶっ込んでいく作業をした記憶、
インポッシブルひるちゃんさんがえいじさんに渡した、巨大バレンタインプレゼントの中から登場した、カブトムシの蛹に扮した歩子(ぽこ)さんで上書き。
【ステージ】
新入社員のやる気を見せようと腹の底から全力で声を出していたら、チーフ助監督(フリー)に「もっと低い声は出せないのか?」と言われた記憶、
待ちに待った有壁祭にアジアンカンフージェネレーションさんと、カナブーンさんと、クリープハイプさん(どれも本物)がやって来て、大感激していた野沢ダイブ禁止さんで上書き。
【中庭】
パワハラ味のあるチーフ助監督の「お前は元気がないな。どした?俺のことが嫌いなのか?」という問いに、一か八か目を見たまま黙ってみたら、沈黙に耐えかねたチーフ助監督に「冗談だよ。真に受けるな」と、なんか誤魔化された記憶、
合唱部の屋外練習で際立って上手過ぎて、顧問のジャンポケ斉藤さんに嫉妬されていた、ヒロカズ劇場さんが歌う「this is the moment」で上書き。
【屋上】
4連勤最終日の朝一の屋上撮影、太陽のあまりの眩しさに目を閉じ、その閉じによって、ストレートに眠りにつき、立ったまま意識を失い続け、「これ屋上のへりだったら確実に落ちちゃうな」と、初めて死を覚悟した瞬間の記憶、
パンサーの菅さんが、屋上から鬼越トマホークさんの喧嘩を止めようと再三試みていた光景で上書き。
【渡り廊下】
渡り廊下の掲示板に貼り出される、学年のテストの順位表を作るため、存在しない名前を200人分絞り出したが、あまりに疲れてて高校の同級生の名前を無意識に1人だけまんま入れちゃってた記憶(本人に謝罪済み)、
ドンココの2人に運ばれていくロッチ中岡さんの背中で上書き。
【教室】
持参物の筆記用具を忘れた生徒役のエキストラの人に、しかたなく買いたて新品のシャーペンを貸したら返ってこなかった記憶、
チョコプラ松尾さんのバースデーを祝うべく放たれたクラッカーのテープを、タイムマシーン3号の関さんとチェリー吉武&タンポポ白鳥さん夫妻が、ジャンボストローで吸い込んだ瞬間の「しゅぽっ」という音で上書き。
【教室②】
黒板のすぐ上に時計があるものだから、カットがかかるたびに時間を巻き戻さなくてはならなくて、すでに画角を決めていたベテランカメラマンに「早くしろよテメェ」と急かされた記憶、
落ち込む森田さんを慰めるために、アイロンヘッド辻井さんが奏でたギターの音色で上書き。
【廊下】
ガチギレしてる大人を初めて生で目撃して、「力を持った人間はこうなってしまうのか……」と少し悲しくなった記憶、
食堂に向かう有吉さんと佐藤栞里さんで上書き。
【食堂】
スタンバイしてる役者を呼んで来るよう指示され、すかさず返事するも、インカムに反応するのが早く返事がマイクが入ってなかったよで、「あいつは俺のシーバーを無視してる」とチーフ助監督が騒ぎ出した記憶、
カゲヤマさんが作った高速回転巨大ケバブに吹き飛ばされるチョコプラ長田さんで上書き。
【職員室】
職員室の前方にある行事予定の黒板が画角に入ることに気づいて、即興で架空の年間行事を考えて大慌てで書き殴った記憶、先生たち(空気階段さん)にお昼のお弁当を届けて、手品を披露して帰って行った、一輪車芸人・ベン山形さんで上書き。
【教室③】
「(換気のために)絶対に廊下から風を送り込んでほしいプロデューサー vs 絶対に風に当たりたくない女子高生エキストラ」の板挟みになった記憶、
パンサーの向井さん菅さんと、アイスクリーム屋の親子(鬼越トマホークさん)との進路相談で上書き。
【教室④】
後ろの黒板に描く落書きを、エキストラの女子生徒に頼んで、「例えば、こんな感じで桜とか」って赤いチョークで書いたら、「もうお兄さん〜桜の花びらは3枚じゃないですよ〜〜〜〜」と大いにバカにされた記憶、
ロッチ中岡さんの体操服を間違って着てしまったオーサーオロナさんと龍フォスターさんで上書き。
【玄関】
朝6時過ぎにドライアイスより冷たいレールを素手で20本運んで、一直線に並べた記憶、
切れてなおピクピクと動き続ける龍魔王の尻尾で上書き。
いやー「有吉の壁」のおかげで、少しだけ心が軽くなった気がする。
いやしかし、同じ現場でこんなにも生まれる笑いの量も、質も、熱も違ってくるのかと、呆然としながら観てた。くどいくらい強調するけど、ドラマの記憶は妄想で、パワハラ風味のチーフ助監督も幻想に過ぎない。だけど「有吉の壁」を観ていたら、「もしかしたら僕は本当にあの場所にいたのかもしれない……」と思う瞬間があった。
これだ。
後ろの行事予定、どう見たって僕の字なのだ。
それも職員室シーンを撮る直前に、大慌てで捻り出し書き殴った即興の年間行事だ。
おそらくドラマの撮影日後、消され忘れた僕の字が職員室に残り続け、壁の撮影日まで消されなかったのだろう。学校セットのデフォルトと思われて。
ドラマ本編ではほぼ映ってなかったのに、まさかの「有吉の壁」で自分の汚い板書が流れてしまった。それもロケ帰り真っ暗なバスの中で笑いを押し殺して聴いていた「踊り場」のパーソナリティのお二人がいる空間に。
あー佐藤栞里さん見ないでください。
和●国●●女●中学校の管理人の人、早く消してください。
あの字を未来の日本のドラマや映画に残すべきではありません。早く。
とはいえ妄想は妄想、架空は架空。そんなドラマはなかったし、黒板の字も単なる偶然。うん、偶然。
ということで、助監督って夢のある仕事ですね。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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