絵本屋さん、大学院へ行くVOL.2

居場所としての絵本カフェ・アルモニを開いたことで、親が絵本を選べない現実を図らずも垣間見てしまった――なぜそのようなことが起きているのか? という課題を発見したという吉田美佐子さん。その解決策を探るひとつの手段として選んだのが、大学院で学ぶことだった。仕事の傍ら準備を重ねて見事合格。この春から大学院生として学んでいる。

美佐子

               
――九州大学大学院ユーザー感性学専攻に入学。何を学ぼうとしているんですか?
 絵本といえば感性を育てる、というのがセットみたいに出てきます。しかし、私は「感性」という言葉の正体を分かって使っているのだろうかという疑問を持ちました。感性と論理は相対する概念のように考えますが、本当にそうだろうか?と。
 九州大学の統合新領域学府は、なかなか学問として成立されなかった感性の問題を様々な切り口から研究する学生が集まっています。私は、17年間の絵本専門店の体験から、絵本を介した人との出会いによって社会の断片を垣間見る体験をしていると思います。絵本は感性を育てる、という言説は正しいと思います。では感性に良し悪しがあるのか? 人々は一般的に「良い」と感じる判断をどこでするのでしょうか? 
 私は絵本を切り口にして、一般的に何を良しと判断するのかに興味があります。ある一定の傾向があるのではないか? それはどこから生まれてくるのか? そういうメカニズムを考えて行ったら、絵本が選べないという行為の背景に何があるのか見えてくるかもしれないと思ったんです。まだぼんやりとしていて自分がどんな謎解きがしたいのかはっきりしませんが、おそらく、その辺りなんだろうと思っています。

――大学院では、コロナの影響で、オンラインを含めた授業が行われているようですね。
 鹿児島から福岡の大学へ通うので、オンライン・オフライン両方の良さを感じています。大学院生にはいろんな背景を持った人がいて刺激的ですね。
先生方も大変苦労されていると思います。コミュニケーションを専門分野として研究するところでありながらオンラインで行わざるを得ないわけですから、豊かな学びのためにいろいろな工夫や前準備をなさっている様子を感じます。残念なのは、学生さんたちともっと話したいと思っても授業が終わるとラインがオフになるので出来ないことですね。

――思いがけず、博物館学との出会いがあったとか。
 大学院に入るときには、予想もしませんでした。入学式のオリエンテーションでたまたま挨拶をした先生が博物館学の先生で、希望する先生はまだ決まっていないと言ったら、先生が「じゃあ私のところに来ますか?」とおっしゃってくださって、その場で決まりました。
 ある時たまたま、寄贈された本を破棄して問題になった京都市の公立図書館の話になった時、先生が「図書館は目録重視だから古い本や重複している本は廃棄の対象になる。一方の博物館は、古いものでも誰がどのような使い方をしていたのかも重要」と話されたことがあります。モノが語りかける歴史、ということでしょうか。わたしは、なんだかアルモニは博物館の考え方に近いなあと感じました。

 学びながら自分の研究の方向性が変わっていくのも面白いところですね。今は、修論につながる特別研究を進める過程で、アルモニの過去17年の年表を作り、実践の振り返りをしています。まずは、これまでできたことできなかったことを総括したい。たくさんの本を前に頭を抱えつつも、楽しい学びの時間を過ごしています。

――アルモニの運営にも変化がありそうですか?
 修士論文に向けて、これまではやってこなかったアンケートや振り返りに取り組む必要がありますね。これまでも、絵本作家さんに講演に来てもらい、参加者と対話を生むことをやってはきましたが、少人数の対話が生まれるようなことをしたいですね。そのためにはファシリテーターの勉強も必要だと思っています。ひとつのテーマで掘り下げた話をしていくようなことも今後やってみたいです。
 一方からだけのコミュニケーションではなく、双方向にするための仕掛けがしたいんです。「絵本が自分で選べない」状況を作っている要因のひとつも、一方方向のコミュニケーションかもしれませんから。


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