空想スクール#2「バカンス・スクール」

海と山に囲まれたK市は、仏教文化と神道八幡文化が浸透している1000年近い文化都市だ。古代、大阪湾の海浜が生駒山まで続いていたように、K市もまた、砂地を土壌とした平地が八幡神社の参道となっており、海と神社・山がつながっている。

中世の中心地であり、神社仏閣、山海と自然豊かであるがゆえに日本でも有数の観光地である。また、教育大学の付属小があり、昔から教育熱心な家庭も多い。しかもここ数年、K市の教育環境を求めて移住してくる方も多いそうだ。今回、私が訪れたのは、メインストリートの神社西側にある駅前の商店街。そこに小さな「学校」がある。

その学校は、クレープ屋の隣の古い戸建てで、ガラス張りの引き戸を開けて中に入ると、深緑のカーペットが敷かれた広さ30平米ほどの場所になっている。壁には、岩波少年文庫から岩波文庫、図鑑などの書籍が敷き詰められ、奥のデスクは事務局も兼ねたスタッフルームになっている。

事務局のスペースも含めると50㎡ほどしかないだろう。ここに小学5~中学2年生までの生徒たち15名が登校する。ここは、バカンス・スクールと呼ばれる小中学生対象の学校で、NPO法人バカンススクールが運営している。いわゆる「One-room school」に近い形式かもしれない。

登校時間の10時、15人の子どもたちが鞄を抱えて、カーペットに円になって集まる。そこに、担当のじゅん先生とスタッフ2名を加えて、朝の会が始まる。「さて、まずは昨日どんなことがあったか、それぞれ話してもらおうかな」と言うと、子どもたちはどう順番が決まっているか分からないが、順番に昨日あった出来事を報告し合う。

ジュン先生に訊くと、この朝の会がバカンススクールで最も大切な時間だそうだ。ここで、何をしたのか、それから今日何をするのか、1週間何をするのか決めていく。そこからズレることもあるが、大体そのとおりにみんな行動しようとする。一人ひとりやりたいことがある中で、チームでやることを手分けすることもある。そういうことの全体をここで決めるそうだ。

30分ほどで終わることもあれば、1時間かかることもあるそうだ。私が取材に行ったときは、30分ほどで終えると、この日は歴史文化交流館へ足を運んだ。そこで、子どもたちは、K市で最近発掘された土器について、考古学者にインタビューしにいく。インタビューを終えると、そのまま交流館で3つのグループに分かれて、それぞれ関心のあるテーマについて議論した。

1つ目のチームは、縄文期の海岸線について詳しく調べ、もう1つのチームは、土器の掘り出し方について、それから最後のチームが土器の造形について調べていた。
バカンススクールの子どもたちは、1週間のうちほとんどの時間をフィールドワークに費やしている。個人学習は自宅にいる間におこない、10時~15時まで取材や話し合い、見学、調査活動をおこなっている。

テーマは、ジュン先生によると、意気投合した専門家がいれば、どんどん取り入れるそうだ。専門家との話し合いの元、大学のゼミ活動に似た形式を、小中学生にもできる形に咀嚼しておこなっている。今のところ社会学、地学、経済学、数学、哲学、化学、経営学、建築学、芸術学の教授群と子どもたちと共に半期ごとにテーマを決めて、プログラムを決定している。
もしかすると、さまざまな学問の研究の基礎が学べるので、学部生のゼミよりも多様で充実しているかもしれない。

彼らは、それぞれ文章がうまい。書けないという子がいない。これは、土日にEDORG JAPANという団体が主催する音読道場と作文道場に全生徒が通っており、そこで基礎学力を養っているために、書こうと思えばいつでも書ける状態になっているそうだ。そのため、バカンススクールは基礎学習について指導する時間を子どもたちに任せても問題なく成立している。

もともとジュン先生は、とある大学の社会学博士課程卒だが、最初は理系大学に進んでいたそうだ。そうした自分自身の体験から、子どもたちにも、進路が変わることにおびえず、自分の研究したいと今強く思えるものを見つけてほしいという思いから、子どもが「好きなものを探しやすいように」バカンススクールを立ち上げたそうだ。

バカンススクールの名前の由来は、『15少年漂流記』からきているそうだ。フランス語にすると、この本の「漂流」がvacancesとなっている。15人を1チームにして、研究内容によって、3つに分かれたり、つながったりするのが、研究する上でちょうどいいと思ったそうで、この名前がつけられた。

子どもたちは15歳になるとそれぞれの研究したいテーマを見つけ、研究論文を書くことになっている。1期生が来年15歳になるので、来年より土日に15~18歳クラスを設けるそうだ。こちらは、高校に行ってる子も含めて開催される予定。ただし、入学には、文章力テストが設けられ、基準を満たさなければ、音読作文道場への入学も求められるそうである。

バカンススクール詳細は以下。
登校日:火・水・木
月・金は個人ワークの日。朝の会のみリモートで開催。
時間:10時~15時
それ以降も預かることをご希望の場合、学童をご案内します。
学費:月額42,000円
フィールドワークの交通費など含みません。
スタッフ募集:ファシリテーター月収30万(週3勤務) 事務スタッフ時間給1,100円(週3~5日6時間勤務)


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