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自力で考えよう! 「コピー経済」からの脱皮

広野彩子編著『世界最高峰の経済学教室』日本経済新聞出版から
ノーベル賞経済学者である故ゲイリー・ベッカー氏(米シカゴ大学教授など歴任)の発言を引用する。
氏は日本の大学で6週間、講義され、日本人の教え子も多い。この経験から日本の学生の弱みを2つ指摘された。
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1つ目は、日本の大学生は、米国の大学生ほど勉強しない。よい大学に入るために一生懸命に勉強するものの、入ってしまえばあまり勉強しなくてよくなる。これは変えるべきだ。
2つ目は、自力で考えることを十分に教えない。講師と意見を戦わせることをせず、批判を嫌がる。米国人の学生は全く違い、とにかく講師を批判する。時々、やりすぎじゃないかと思うこともあるほどだ。
批判すれば、講師から反応が返ってくる。良い講師は、批判を受け入れ、間違っていれば間違いを指摘し、正しければ、説明しながら意見を変えるだろう。そのやりとりが必要なのだ。礼儀正しくなければならないが、若い人も目上の人の考えをどんどん批判すべきなのだ。
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この発言は2008年に行われ、「1つ目」については今はいくらか改善しているように筆者は思うが、「2つ目」の「自力で考えること」は、はかばかしくは改善していないだろう。
学生のみならず社会人も同様で、筆者はかねて日本の高度経済成長は「自力で考えること」よりもむしろ「コピー」によりもたらされたと考えている。

太平洋戦争の空襲により日本の都市や生産設備は徹底的に破壊された。しかし、太平洋戦争は工業力の競い合いでもあり、戦いのなかで工業技術というソフトは長足の進歩を遂げた。この自前のソフトを基盤としつつ、戦後に欧米から先端的な工業技術を輸入した。「コピー経済」と言っていいだろう。
「コピー」により増強された生産基盤、欧米に比べ割安な労働力を生かして、わが国は高度経済成長を遂げた。しかし、「コピー経済」が進むにつれ、「コピー」する余地が減り、それだけ「自ら考え、創り出す」ことが必要になってきた。

ところが、ここでベッカー氏ご指摘のような「自力で考えること」の不足が顕在化した。「自力で考える」力が弱いため、「コピー経済」の時代が去った今、多くの企業が自らの進路を明確に描けず、投資も滞りがちになった。日本経済の生産性の停滞はこのあたりに発しているのでは、ないだろうか。
ベッカー氏による15年前の発言は今なお傾聴に値する。

イラストは チコデザ より借用。

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