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丑三つ時には草をちぎって。

これまでに、猫と暮らしたことがなかったので猫の生態が今ひとつわかっていないのかも知れない。

一緒に暮らしてる猫は、結構どんくさい。ジャンプして机に登るのも失敗する。カーテンレールの上をご機嫌に歩いていたのに、突然足を踏み外して慌てふためいたりもする。

結構なビビリでもある。これは、どこお家の子もそうなのだろうか? インターフォンがこわい。大きな車のエンジン音がこわい。宅配便なんかが来た日には、ダダダっと走って逃げたり、そっと隠れて様子を伺っている。

そして、一番よくわからないのが、うまくネコ草を食べられないことだ。動物と暮らしていない人は知らないかも知れないけど、通称ネコ草と呼ばれている草がある。ネコ草というけれど、犬にも与えることがある。

ネコ草は毛づくろいの際に体内に入った毛を吐き出すために食べるらしい。「岩合光昭さんの世界ネコ歩き」でそんなようなことを言っていた。

ただ、うちの猫はネコ草を食べるのが好きみたいなのだ。食べた後に毛玉を吐き出すこともあるけれど、単純に猫草を食べたいのだと思う。

ただ、ここが厄介で、ネコ草を食べるのがすごくヘタで、全然自分で食べられないのである。

ネコ草の中に顔をぐいっと突っ込むのだけれど、その勢いで草はしなるというか倒れてしまう。まあ、草は柔らかいから、そうなるのは仕方ない。ただ、猫は草が倒れるというのを理解できていないのか、「あれ? 草がない」と、さらに顔をずいっと前に出し、それに応じるように草もへにゃりと横たわる。その繰り返しで、うまく草を口に入れられない。なんというか「空振り」のように、口を開けてカスっと空を切るような動きが続く。

あまりにもかわいそうだから、草を一本ちぎって、草を両手でピンと張った状態にして「ほら、食べたら?」と差し出してみた。すると、ピンと張った草の真ん中に顔を突っ込んでむしゃむしゃと食べる。根っこの部分と草の先っぽがわたしの指先に残る。

ただ、この食べ方を、猫は大変気に入ったらしい。ネコ草の前でちょこんと座って、「にゃーにゃーにゃー(食べさせろー)」と催促してくるようになった。

猫は草食動物ではないし、あんまり一度にたくさん草ばかり食べるのも、どうかと思うので、一回につき5本とか6本とか、そのくらいの本数を与える。「もう終わりだよ」というと、やや不満げながらも「また後でもらうから」とでも言わんばかりにその場から立ち去る。

そうして草を食べたい時はわたしが食べさせる、という仕組みがいつの間にか作られてしまった。

そうして最近とても厄介なことに「夜中も草が食べたい」とアピールするようになった。夜中の2時か3時、草木も眠る丑三つ時だ。わたしが寝ている枕元で「にゃーにゃーにゃー」と起き上がるまで騒ぎ続ける。絶対に諦めてくれないので、もうこちらがさっさと動くしかない。

そうして、猫は猫草の前に移動して、「早く! 食べさせて」と寝ぼけて動きの遅いわたしをじいっと見つめている。

そうして、わたしは夜な夜な草を一本ずつちぎって猫に与え、シャミシャミシャミと音を立てて草を食べる様子を眺めている。草木も眠る丑三つ時というぐらいだから、草も寝てるだろうに、急にちぎってごめん。

5、6本食べ終えると猫は満足そうにして、その場をさっさと立ち去る。そうして、わたしはようやく布団に戻ることが許される。

猫が暮らしやすいように、と考えて生活している。猫のすることは大抵許しているし、甘やかしていることもわかっている。けれど、我が家のヒエラルキーのトップに君臨しているのは猫なので仕方ない。ただ、毎晩のように真夜中に草を食べさせて欲しがるのは、ちょっとやめてほしい。ただただ、ねむい。

でも、こうして甘えてくれる時間も限られてるしなあと思うと、断れないのだ。わがままでもなんでも良いから、とにかく元気で長生きしてほしい。


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