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DANCE DRAMA『Breakthrough Journey』【#まどか観劇記録2020 44/60】

「障害者と健常者の別なく、全てのアーティストに発表の場が与えられるべきだ」
そんなコンセプトから始まった素晴らしい作品が今週末から動画配信されるのでご紹介したいと思います。

(文中で、障害者、健常者という言葉を使いますが、不適切であったらご指摘ください)

上演は2021年1月30,31日でした。

新しい時代をつなぐ意欲作

突然ですが、個人的な感覚としてここ数年で様々なボーダーレス化が進んでいるように思います。セクシャリティだったり、社会的な立場だったりと、なんらかの基準で人を区切るのはやめよう、と多様化を推進する動きが少しずつですが進んできているように思います。

その中で、日本博プログラムの一環であるこのDANCE DRAMA「Breakthrough Journey」は、障害者と健常者のボーダーを取り払いました。

現在、障害のある方が踊ったり、歌ったりという、アーティスト活動ができる場はどのくらいあるのでしょうか。決して多くないであろうことは容易に想像できます。
けれど、そのパフォーマンスには何か健常者と差があるのか。ありません。それをこの作品は教えてくれました。そして表現する場を求めていた障害のある方たちへ、スポットライトの当たるステージを提供したのです。

そこで上演されたのは、日本各地からオーディションで選ばれた総勢約80名が作る壮大なドラマ。”変わりたい”という願いを抱き、一歩を踏み出した少年と少女と二人を取り囲む人々の物語です。

「障害があるのにこんなことができてすごい」ではなく、「いち表現者として魅力的」ということを魅せてくださった出演者のみなさまが、そのまぶしい輝きと共に大きな希望と可能性を示してくれました。

本来であれば、東京オリンピック・パラリンピックの終わった後の開催だったため、その時間軸で上演されていたら、より作品意図が深く受け取られただろうことは少し残念ですが、必ずやこれからの未来にこの作品の意図が届いていくことを確信しています。


ニューノーマルな社会での作品作りの可能性

新型コロナウイルスの流行がエンタメに深刻な影響を与え始めてから約1年が過ぎました。大勢が集まることがリスクという中で、舞台作品を作ろうとする方々は様々な困難に直面しています。

ひとりでも感染してしまったらステージは終わりというリスクを回避するために、シンプルにキャスト・スタッフの人数を最小限にするという工夫を突き詰めた作品もこの一年で増えたように思います。リスク面を考えると、人は少ない方がいいし、集まる時間も少ない方がいい。ただ、その流れに乗って多くの舞台作品が人を少なくする傾向ばかりを進めてしまっては、それは少し寂しい世界だなとも思います。

そんな中、「Breakthrough Journey」は海外も含む離れた何カ所もの土地から約80名(スタッフを含めるとおそらく100名を超える)もの出演者が参加した作品作りが成功したというのは、まだコロナと生きなければならない時代の希望ではないかと思いました。

具体的な作品作りの進め方は、最初のオーディションを、演出・統括であるダンスカンパニーDAZZLEとその主宰でありこの作品の作・演出である長谷川達也さんが各地を回って、土地ごとのリーダーとオーディションによるメンバー決定を行い、その後は直前1週間ともう1,2回程度の全体稽古以外は各地のメンバーごとに制作や稽古を行うというものだったようです。全体稽古や直前のリハーサルの時は人が集まりますが、各地の少人数時に作り上げたものを持ち寄ることで大人数が集まる時間を最小限に抑えつつ、作品の精度を高めることが可能になります。

新型コロナが始まる前から企画は進んでいた(2019年6月企画立ち上げ)ため、ニューノーマルの生活を想定していたわけではないでしょうが、刻々と変化するコロナ禍の状況に柔軟に対応しつつ、かつ、リスクの少ない状況でこの大人数作品を作り上げたということは、今後の他の舞台作品を作る方々にとってもひとつの方法として参考になるのではないかと思います。

演出家の意図の張り巡らされた作品構成

先述した、各地でバラバラに作っていたものを持ち寄ってひとつの作品にする、ということについて、簡単に書いてしまいましたが、実際にこれを作品として成り立たせるためには強い演出力が必要だと感じました。

各地で作られたナンバー作品は、ダンスのジャンルも表現する場面ごとのテーマも違います。ひとつの大きなストーリーに沿っているとはいえ、一歩間違えば、好きなものを好きなように表現する小作品の集まり、乱暴な言い方をすると発表会のようになってしまうでしょう。

そこを、きちんと作品として成立させたのは作・演出家の長谷川達也さんの手腕とこの作品にかけた想いの強さの賜物なのかなと感じました。

シーンとシーンのつなぎ方が丁寧であること、がその最大の特徴だと思いました。

主演のお二人(少年役と少女役)はすべてのシーンに出ているわけではないのですが、二人のいない各地のメンバーの見せ場であってもつなぎの部分で二人を登場させたり、気持ちをつなげるためのストーリーを強くしたり、感情を表現する演出が入ったりと、観客の気持ちが切れない作り方が見事です。

視覚的にも、各地のメンバーの登場シーンを限定せずに、他のシーンでも何度も舞台上に登場させることによって、観客の視覚的な空間認識上の区切りを設けないこと、そして舞台上に大人数が流れることの迫力といった面でも、こんな魅せ方があるのだなと感心しました。おそらくそれぞれのメンバーが混ざり合うシーンは集合してから行われたのでしょうが、短期間の集合時間でそれができてしまうのは、やはり障害の有無に関わらずプロとしての能力があった人々だったからだと思います。


伝統の再定義

各地のメンバーと書いてきましたが、南は沖縄、北は青森と日本の各地からそれぞれの土地のダンサーがオーディションで選ばれたチームとして参加されています。

そこでのテーマはおそらく日本の伝統の継承。(パンフレットに記載がありました)

この作品が日本博プロジェクトのひとつであることにつながるテーマですが、青森ならねぷた、沖縄ならエイサーといったその土地ごとの伝統文化を、それぞれの地で過ごすダンサーさんたちが、自分たちのダンススタイルにおいて再定義したような作品が素晴らしかったです。

伝統は受け継がれるものですが、それは昔のそのままの形をきれいに残していくだけではなく、「いま」を生きる人々が新しいものを加えたり、再解釈したりしてすることでつながっていくのではないかと思えました。

残念ながら今回は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、海外メンバーが参加できずということでしたが、日本だけでなく、アジアの参加地域の文化もつながった作品が見れたのかなと思うと、いつか海外メンバーも含めての再演、もしくは新作を期待してしまいます。

※海外メンバー参加シーンについては、オリジナルの振付をベースに日本のメンバーが代役として踊られていました。ロビーにはオリジナルメンバーの映像作品も上映されており、まさにコロナ禍で移り変わる情勢に負けることなく、できる最大限をやり通した作品だったのだなと思います。


一歩を踏み出す勇気と人のあたたかさ

テクニカルな面ばかり書いてしまいましたが、ここからはストーリーに関わることを書きます。基本的にはネタバレには配慮しますが、気になる方は配信視聴後にお読みいただければと思います。

配信チケットはこちら↓
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2101116&rlsCd=001


ストーリ-はこうです。
カメラマンになりたいという夢を持ちながらも踏み出せず、貧しい生活に流されて生きるアジアの少年が、ダンサーを目指す耳の聞こえない少女が、少女の投稿した映像をきっかけに知り合い、それぞれの苦悩から夢へと歩き出す物語。

きちんとした物語は、配信を見ていただきたいのですが、主演の少年少女を、少年役はDAZZLEの三宅一輝さん、少女役を実際に耳が聞こえないダンサーの梶本瑞希さんが演じられています。

貧しいことや障害があるという足かせに悩みながらも前に進もうとする姿を表現する主演のお二人のダンスや演技が本当にピュアで応援したくなるとともに、いつしか、自分の中にある小さな夢の存在を思い出すような心持になり、舞台上のお二人に自分を重ね合わせていたように思います。見た後に、あたたかな希望をもらえる作品でした。

私個人としては「がんばろう」よりも優しい「生きよう」という言葉が浮かびました。きっとそれは、少年少女が物語の中で出会ったたくさんの人々がとてつもなく優しかったからだと思います。

コロナ禍より前から、言葉の暴力とか、人を信じられなくなるような事件などが起きていて、ぎすぎすした暗い社会が当たり前のようになっているような風潮を感じていましたが、そんな中でこの作品に出会って、そうか、人は本来優しいものだと思い出せたような。すごく、すごくあたかかったのです。今、傷を抱えている人に見てほしい作品かもしれません。


踊ってほしい

最後に少女役の梶本瑞希さんについて少し。

作中の少女は、耳が聞こえず、それでも踊りたいと場所を探して自ら道を開き、少年と出会いました。梶本さんご自身も耳が聞こえないそうです。けれど、事前にそのことを知っていなかったらきっと私は彼女が耳が聞こえないことに気づかないままでいたと思います。彼女の踊りは完璧でした。

音とともにあるダンスにおいて、耳が聞こえないことは、私が想像するよりもずっと大変なことだと思いますが、2時間の作品中一度も違和感を感じさせることなく、完璧に踊り、表現されていた梶本さん。どれだけの努力を積み重ねられたのか...! 健常者のように踊る、ことだけが正解ではないのだと思いますが、舞台に立つアーティストとして彼女が素晴らしく完璧だったことを記憶しておきたいのです。

「踊りたい」

作中で少女が言った言葉が梶本さんご自身の言葉でもあるなら、私はどうか踊り続けてほしいと思います。きっと簡単なことではないのだと思いますが、また彼女のダンスを観たい、そう観客に思わせる輝きを彼女は纏っていました。

ひとりじゃない。
共演者がそっと彼女の肩に触れていた。それは踊り出しの合図だったのかもしれません。観客の私には、共演者から彼女への信頼と愛に見えました。作中の少女はずっとひとりで戦って居場所を作って少年に会いました。梶本さんもきっとずっと戦ってきたのだと思います。けれどもう、ひとりじゃない。舞台に立つ彼女を支える手は心はたくさんあります。もうひとりで戦わなくていい。たくさんの人からの愛でさらにさらに輝いてほしい、カーテンコールでの彼女の涙にそんなことを思いました。

またいつか、舞台の上で踊る彼女に会えますように。


動画配信情報

どうか配信をご覧ください。
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DANCE DRAMA『Breakthrough Journey』
動画配信期間:2021年2月27日~3月6日(期間内は何度も視聴可)

https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2101116&rlsCd=001


おすすめの作品などを教えていただけるととてもうれしいです。