「毒を以て毒を制す」は令和基準のコンプライアンスなのか

世論として、「日本人は仕事や収入を隠す傾向が強い」とよく言われている。
それについては私も全く同感で、ただ事実を述べることを拒絶することは
自分が嘘をついている、隠し事をしなければならない人間であると映ると考えているようだ。

以前外資系の企業に勤めていた時の同僚、知人もそうだったように
初対面であっても、最低限の信用を得た相手には身分を明かすのがマナーかと思うほどだ。

日本国内で流されるままに生きてきた私の書くものに出てくるのは
全てが日本人、もしくは最低でも日本に定住しているものとの関わりだから
そんな『お作法』を知る必要なんかない。

しかし今回はお察しの通り、仕事で日本に来た2人の外国人公務員の話である。

出会いは2年ほど前だろうか。

ふらふらとひとりで飲んでいたら、見ず知らずの外国人に声をかけられた。
特にやることもなかったので、挨拶がてら通り一遍の『お作法』をすることにした。

声をかけてきた、40手前の彼は3年ほどの間に仕事で何度か日本に来ていると言っていた。

もうひとり隣にいた彼の友人も紹介された。
世間は狭いとはよく感じるが友人の彼は以前私の勤めていた会社のパートナー企業で、
本国から日本の一部門を任され出向してきた執行役員であった。

おお、そんな偶然あるんだねと二人で盛り上がっていたが、私たちはIT屋。
最初に声をかけてきた彼とは畑が違い、10分ほど置いてけぼりにしてしまっていた。

「高校からの友達だが、こいつも結構優秀なやつなんだ。」

どこの国にも空気を読む力は必要なのだろう。
一通り会話をした後に、最初の彼にターンが戻った。

「YOUはどうしてニッポンへ??」

まるでバラエティー番組の切り出し方だったが、
彼は待ってましたと言わんばかりにIDを取り出した。

「俺は公務員なんだ。」

見せられたIDは、彼の名前と外国に疎い私でも知っている組織の紋章が入っていた。
きっとエリート高校だったのだな、と思うと同時にひとつの疑問が生じた。

「なぜ公務員の身分証で日本で仕事を?」

あえてその組織を書くつもりはないが、当然外交官ではない。

よくぞ聞いてくれた!と言わんばかりのハンドサインと共に上半身を乗り出してきた彼。
この10分間、友人と謎の日本人が盛り上がっているのを横から眺めているのはさぞ退屈だったのだろう。

「日本の拠点を潰しに来た。」

物騒だが、つたない言語力でも十分に理解できる言葉だった。
当時の世相も相まってなんの拠点かおおよそ察しはついたが、
念のため聞いてみることにした。

以前いた会社では「裏をとれ、憶測で話すな」と徹底された。
ここまで来てしまったら、外国式の流儀に則ることにしよう。

「薬物」

日本語しか話せないものにもわかる簡単な言葉だ。

当時、というのはコロナ禍にあって世の閉塞感と
無謀なチャレンジャーが続出した両極端な時期であった。

薬物については聞きかじった知識しかないが、
東南アジアから直接の流通はマークが厳しいので
それをかいくぐるように日本をハブにして大量に諸外国へ運ばれていることが顕在化してきている時期でもあった。

コロナを契機にそのルートが急速に開発され、
トリクルダウンのごとく日本でもユーザーが増えていたことは
一応花街で記事を書く立場の人間の耳にも入っていた。

歌舞伎町から人が消え、違法売人とユーザーの天国と化していた
2020年末の様子は決して思い過ごしでも偶然でもない。

「だから日本の拠点をつぶしに来た。
 必要なら武力行使の許可も出ている。」

母国は許可を出しているかもしれないが、日本国内では完全に違法だ。
越権行為、内政干渉と何が違うのか。
そもそも「武力」を持ち込めていること自体、明らかに組織的な動きだ。

「大丈夫、日本人には手を出さないから。」

いや、そういうことではない。
そういうことではないのだが、いくら『お作法』とはいえそんな話をするのはウソかバカかいずれか二択である。

そろそろ外国語でのツッコミのレパートリーも尽きてきたのを察したのか、
お互いに話を切り上げるタイミングになった。

去り際に彼は、多分もう日本に来ることは無いと言った。

「ただの部署異動。
 北海道から沖縄まで、いろんなとこにいったしね。」

決して観光ではないのは明らかだった。

彼の友人とはまた会う約束をして、それもそれっきりだ。
社交辞令もどの国にだってある。


2年の時がながれ、同じ組織の人に会った。
そうしてまた同じ話を聞いた。
恐らく彼の後任なのだろう。

あなたの前任者に会ったことありますよ、とは言えなかった。
この時ばかりは語学が不自由でよかった。

どうやら数年前の彼らは、わざわざ無知な日本人を担ごうと
一芝居打ったわけではなさそうだ。
彼らとの出会いに感謝しなおすことにした。アーメン。


まぁ、そういうことやりそうな国だもんな。

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