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高円寺って不思議な街だね

出会いがあれば、別れがある。

だから高円寺に行った。

もう、日が昇っていた。

流行りの歌じゃないけれど、何万回の夜を過ごしても忘れたくない。

そんなことを思う人と、あと何人出会えるだろうか。

めずらしく感傷に浸っていたのだろうか。

ボロボロの喫煙所にいる猫背は、寂しく見えたのだろうか。


「兄ちゃん、元気だね。目真っ赤だ。」

スト缶ぶら下げてるおっさんのナンパ。

「おれは葉っぱで捕まって、こないだまでアッチいたんだ。」

目の色は生まれつきだ、ほっといてくれよ。

「アッチもコロナのあれで、作業もないから暇だった。」

アッチとコッチ行ったり来たりしてるやつも同じこと言ってたよ。

「覚醒剤だろ。そりゃ無理だ。」

常識みたいに言われても、住んでる世界が違いすぎるよ。

「おれは東京生まれ、吉祥寺から浅草までは庭だ。」

こっちは宮崎のクソ田舎の生まれなんだよ。

「お袋方はみんな宮崎の延岡なんだ。」

奇遇なことがあるもんだな、一緒だよ。

「運命だな、電話番号紙に書いてくれ。電話潰れてんだ。」

よく分からんけど、わかったよ。

「漢字読めるか?おれはこういうもんだ。」

難しいけど、その読みは親父と一緒なんだよ。

「そりゃまた、すげーこともあるもんだ。」

スト缶、どこに忘れてきたんだよ。

「あら?まぁおれは元来、酒も葉っぱもやらねーんだ。」

なんで捕まったんだよ。

「死んだ親父の介護で仕事辞めて、寂しかったんだ。」

いいとこ勤めだったのに、なにやってんだよ。

「兄ちゃん、こんな時間にフラフラしてっけど仕事はなにしてんだ。」

売れない作家だよ。

「あーだからか。それでそういうことだ。」

なにがだよ。

「おれはお袋に迷惑かけっぱなしだ。」

そう思ってるなら49で年金暮らしするんじゃねぇよ。

「兄ちゃんはお袋さんに迷惑かけるんじゃないぞ。」

歩いて帰るといって、穏やかなノッポは朝の風に消えた。


ウソをふたつついた紙の手触りだけ残して。


ごめんなタカヒロさん。

仕事は記者だ。

嫌われるの、なんか嫌だったんだ。

ごめんなタカヒロさん。

電話番号の下1桁が違うんだわ。

最後に聞いてくれりゃ、ちゃんと教えたわ。

ごめんなタカヒロさん。

誰にでも優しくできるようになったら電話するわ。

その日までにケータイ代、払っといてくれよ。

ごめんなタカヒロさん。

飯、行こうな。

933文字見返して、作家にはなれそうにない。

その嘘は許してくれ。

ごめんなタカヒロさん。

別れがあれば、出会いがある。

ごめんな。

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