⑬ レアルマドリードvsドルトムント CLfinal

マドリーらしい勝ち方。

 マドリーは4-4-2、ドルトムントは4-5-1若しくは4-3-3。
 特にサプライズはなかった両チーム。今シーズンを象徴するメンバーで正面から挑みあう。

 さて、シーズンラストマッチとなったこの試合だが、まさに集大成と言える試合内容だった。ということで、上手くいった部分、上手くいかなかった部分を今季のマドリーを踏まえながら見ていきたい。



 まずはドルトムントの非保持。

 ドルトムントは4-5-1でブロックを形成。特徴的だったのは両IHのザビッツァーとブリント。相手DFラインにいるクロースとリュディガーまでプレッシングにでてくる。中央のカマヴィンガはフュルクルクとエムレジャンで押しつぶすように制限。アディエミはバルベルデ、サンチョはメンディという対面構成。

 急所はエムレジャンの脇のスペース。上記の赤い部分。両IHを前に出しているのだからそりゃそうである。じゃあどう埋めるか。答えは気合い。プレスバック、横スライド、縦スライド、様々な方法で埋めていたが、要は気づいた選手が頑張る。CL決勝という舞台に対するモチベーションの高さを利用した守り方だと言っていい。

 前半はこのブロックに悪戦苦闘。その苦戦っぷりに今シーズンのマドリーの弱点が浮き彫りになる。それは、攻撃が連動していないことである。


 連動とは何を指すか。この場合は「味方に対して常にボールを受けられる位置にいること」ではなく、「チームがゴールに迫るために有効な位置にいること」というニュアンスが近い。

 例えば上図の赤いスペースを狙いたいがためにベリンガムやバルベルデがそこまで来るシーンが何度かあったが、フンメルスやアディエミが対応して善しとなっていた。これは、「スペースをつくる」という段階をすっ飛ばして「スペースを使う」をしようとしている。結局、いくら弱点とはいえ連動していなければ担当者がそのまま対応すればいいだけだ。特にドルトムントにはそれができるだけの守備の規律性と献身性がある。


 CFに人がいないこと、後ろ重心であることも全てひっくるめて今季のマドリーは連動していない。それゆえに苦戦を強いられた前半だった。正に集大成である。



 一応ドルトムントの保持も紹介しておく。

 ドルトムントは右SBのマートセンをボランチ化させて、左SBのリエルソンを高い位置に置く。いわゆる「偽サイドバック」を活用した3-2-5のシステムを採用していた。おそらく普段からやっていると思う。

 マドリーはいつも通り4-4-2のブロック。ベリンガムは左サイドでロドリゴとヴィニシウスの2トップ。


 ここでも今季のマドリーの集大成である「意味をなさないファーストライン」が発動した。

特にヴィニシウスは未だにコースの切り方とか分かってない感が出まくっている。やることがはっきりしているWGとしての守備だけでなく、柔軟に対応するCFとしての守備も習得できるとヴィニシウスはさらにステップアップできる。ロドリゴも同様。

 それ以外は特に問題はなかったと思う。裏を取られたシーンは何度かあったが、出し手に制限がかかってないから仕方がない。


 さて、保持・非保持両局面で今季のマドリーを象徴する課題が散見したが、アンチェロッティはどうしたのだろうか。


 アンチェロッティの急務はファーストラインの有効化。

 いつも通りアンチェロッティの修正力は素晴らしいのだが、今回はさらに一味違った。

 まさかの2トップと両SHを総入れ替え。今季見たことのない修正を施してきた。しかし、初めて見たこの配置が今回抜群にはまったのだった。

 運動量と守備意識に長けた2人をファーストラインに据えることで有効化。サイドの守備が不安になりそうだが、両ワイドのリエルソン・アディエミともに1対1で優位性をだすタイプではないので、カルバハルとメンディで対応可能と踏んだ。

 後半はこの修正のおかげで攻め込まれる機会も少なくなった。4-5-1っぽくブロックを形成するタイミングもあったが、引いて迎え撃つだけでなく、しっかりとプレスもかけ続けたのが大きい。FWがしっかり守備をすることがどれだけ重要かというのがとてもわかる展開だ。


 保持での調整は主に2つ。

 1つ目は、中央で圧縮されていたカマヴィンガの解放。解放先はエムレジャンの脇スペースが多かった。ザビッツァーの背後でちょこまか動いて気を引くのが役割。

 もう一つは、バルベルデの位置。前半はライン間で受けることが多かったバルベルデをCB-SB間に落とす。狙いはおそらくブリントのプレス先のぼやかし。

 後半は、ビルドアップの安定化に成功。ドルトムント側の疲労もあるが、やはり上記の修正がかなり効果的だった。

 マドリーは個人の能力でごり押しするようなイメージを持たれがちだが、実は戦術面でも細かく整備されている。特に守備面はそれが顕著にでている。今シーズンの躍進は非保持の進化が大きく関わっていて、特にクロースはやばい。正しく優先順位をつけて常にチームの急所を守ってくれる。クロースの勇退は想像以上に響くと思う。そこをどう乗り越えるかが来季のカギになることは間違いない。

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