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泥泥泥日記 1日目

9月25日



珠洲市宝立町のなぎ倒されてしまった田んぼ



 朝9時、珠洲市へ入る。のと里山街道は数箇所に崖崩れがあったものの、すでに土砂は路肩に寄せられていて、道は通じていた。しかし1週間前の少し緩んだそれとは違う空気がある。道が赤土で染まり、流れてきた木がそのまま横たわっている。まず、すずキッチン(すずなり食堂)へと向かう。信子さんに顔を出す。お弁当を頂き、現場までの地図をもらう。農業倉庫で宮崎さんと待ち合わせ。

 変わらぬ感じで現れた宮崎さんは、風くんちょっと助けてくれよオ、と。
近くの田んぼに案内された。農業用水路に詰まった泥をかき、田んぼに入り込んでしまったゴミを取り除いて欲しいとのこと。横にあった川が氾濫し、収穫直前だった稲を薙ぎ倒してしまっている。根から倒れているので、下の方は泥に浸かり変色しているが、まだ使ってない部分は手刈りで収穫できるとのこと。宮崎さんは刈り取りへ行った。

地震があっても、9割程の田んぼに田植えができたと聞いたのが数ヶ月前だったかな。そんな田んぼに稲の入った風景が変わらずにあって、農家の方の逞しさはすごいねって話してたとこだったのにな、やるせない。ずっと一緒に作業してたお母さんが、何も悪いことしてないのにどうしてって小声で呟いてた、その言葉が下から響く。

 午後、徹夜運転のせいもあって、日が射す田んぼで横になったらいつの間にか眠ってしまった。午後いっぱいまでお手伝いをし、明日も来てねと約束して解散。体にたくさんの泥を浴びたのであみだ湯へと向かう。
駐車場で、雨につかり壊れてしまったポンプを北澤さんとしんけんさんが治してた。どこかやっぱり疲れてるように見えた。大変なことになっちゃったね、何かやりますかっ、と声をかけてくれたのだが、流石に体力が持たないのでお風呂だけ入れてもらった。番台にいくと、えみさんがいて明るい声で挨拶する。買ってきたシャンプー、ボディソープ類を渡す。今は浴槽が壊れてるからとフリー銭湯だった。浴槽にお湯が張ってないあみだ湯は、少しひんやりとした。半地下のサウナはやっていて、体を芯まで温める。中二階のデッキに出ると夕暮れの町にキリコが灯っていて、子供たちが太鼓を叩いていた。先週見た須須神社の大キリコや正院のキリコのような盛り上がりはなく、少人数でこじんまりと取り行っていた。

まあそうだよな、と思いつつもこんな時でも奥能登の日常の風景に出会えたことに嬉しくなった。宿泊地でもある典座に帰ってきて、坂本一郎さんとも再開。聞けばこの家周りでは被害がなく、下の道が水浸しになったくらいで済んだそう。一郎さんは珠洲焼をする陶芸家で、4月から一郎さんのアトリエの再建などをしていた。一郎さんは大雨の中、人知れず窯炊きをしていたそうだ、夜、窯場に行って見るとまだ温度が残っていた。続く暮らしがそこにあったことを掴むには、充分な熱が。




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すずキッチン(すずなり食堂)


あみだ湯


典座  坂本市郎さん


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