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短編小説『あなた』

最初に

まだまだノート初心者なので多少読みにくいかもしれませんがよろしくお願いします

注意

暗くて冷たいそんな話ですし重たく倫理的でない話です

本編

1

 あなたが自殺をして、もう一週間が経った。
私には、どうしてあなたが自殺をしてしまったのか分からない。
私に何か足りていなかっただろうか。
どうして私に相談してくれなかったのだろうか。
あなたのことなら、なんでもわかってあげているつもりだったのに。
それも、驕りだったのかな。
でも、誰よりも分かっていた。
誰よりも、分かってもらっていた。
そう。
だから、結婚した。
なのに。
思えば、私はどうしてあなたと出会ったのかしら。
確か、幼馴染。
でも、私たちは、それほど仲良くなかった。
自分で言うのもなんだけれど、明るい方である私にとって、当時のあなたは暗すぎたから。
家が近いだけの暗い男の子。
そんなぐらいだった。
ある日を境にあなたは変わった。
正確には、変わる努力を始めた。
高校生の頃だったと思う。
努力するあなたの姿は、カッコよかった。
そんなぐらいの理由で、あなたと二人になった。
思えば、あなたがどうして変わってしまったのか。
それを私は知ろうともしていなかったのかもしれない。
そうだ、やはり、彼の全てを知っているだなんて驕りだった。
私の、驕りだった。
膨らんで大きくなったお腹を撫でる。
まるで擽られるような、そんな感覚が、お腹の中を走った。
もう、こうやって、胎動を感じるのも、何回目だろうか。
初めて、胎動を感じた時、あなたは一緒にいて、私に微笑んでくれた。
なのに、どうして。
あなたも、私も自他共に認める、幸せな夫婦で。
これから、家族が増える。
そんな時だったのに。
耳の上を撫でるように、テレビの音が通り過ぎていく。
不愉快だ。
けれど、何も聞こえないよりはマシだ。
私は、あなたを理解してあげられなかった。
でも、私は。
あなたを理解しようと努めていた。
それなのに、あなたが死んで、私の頭に浮かぶのは、何故。
その言葉だけ。
テレビに、蜂が写っていた。
蜂蜜の特集だそうだ。
蜂や、蟻のように、超個体的な生物は、互いのことを理解しているのだろうか。
個を持たず、全体の為に生きる。
まるで、一つの群が一つの個体のように生きる。
私も、あなたと、一つになって、一つの生き物になって。
そう生きたかった。
蜂が飛んで、飛んで。
あなたを知りたい。
あなたと一つになりたい。
それが、私の願いだった。
あなたの全てを知れて、あなたの全てとつながることが出来たなら。
体だけ、心だけ。
それだけ繋がっていても、分からないものがあるのなら。
もう、一つの生き物になるしか、あなたを理解する方法は、ないのかも知れない。
鳥が、飛んだ。
鳥は、群れを成す。
カケス、と言う鳥には、社会性がある。
社会性。
社会とは、まるで。
まるで一つの個体のような。
いや、違う。
そんなに大きなものじゃなくていい。
私はただ、あなたを。
電気が消え、暗くなった。
消灯の時間だ。
テレビを消して、ベッドに寝転ぶ。
窓の外を見ると、空には、星があって、周りには森があった。
不意に、痛みを感じる。
あぁ、もうすぐ生まれるのかも知れない。
私は。
私は、この子を理解してあげることは出来るだろうか。
あなたも理解できなかった私に、この子を育てる権利はあるのだろうか。
滲む視界。
揺れる木々。
ぼやけた月に、私はつぶやいた。
助けて。
ただただ、同じところを同じようにグルグルと、回り続ける思考。
私には、あなたを理解してあげられることが出来なかった。
私が、あなたの辛いことを、知っていれば。
理解していれば。
理解して、何が出来ただろうか。
私に、何が出来たのだろうか。
いや、何も出来なかった。
何かできた。
如何しようも無い後悔、如何しようも無い焦燥感。
如何しようも無い未来。
あなたがいない世界で、あなたと一つになれない世界で。
私は果たして、生きていけるのだろうか。
痛みと、絶望が、まどろむように、甘く、深く私を誘う。
死。
刹那的に、頭に浮かんだ言葉を、飲み込んだ。
新しい命が生まれようとしているのに。
ナースコールを握りしめて、ただ、もう少し一人でいたいと思った。
そうか、私が、一人でいたいように、あなたも、一人でいたかった。
ただ、それだけなのかも知れない。
痛みが激しくなる。
怖い、あなたとの子を、産んでしまうことも、このまま痛いのが続くことも。
誰か、助けて。
ナースコールのボタンを押す。
そうして、また、私は誰かを求める。
結局、人は一人では生きていけない。
けれど。
誰かに全てを晒すことも、誰かの全てを知ることもできない。
何を考えているのか分からない、得体の知れない存在を、永遠に求め続ける。
ドタバタと音がなって、人が入ってきた。
上の空で、受け答えをして、上の空で医者の話を聞いて、上の空で子供を産んだ。
私には、分からない。
この子を愛して生きていけるのか。
この子に全てをさらけ出せるのか。
この子のことを知ることが出来るのか。
どこまでも、心が暗く沈んでゆく。
分からない。
分からない。
何が、分からないのか、それすらも分からない。
それでも、分からないまま生きていくしかないのか。
いやだ。
いやだ。
あなたを知りたい。
あなたを、知りたかった。
あなたと、完全に一つになれたら。
あぁ、そうか、私も、この子と一つになれば。


ある日の新聞より、見出しを抜粋

 猟奇殺人
自分の子供を、殺して、食べた。

2


 孤独ではなかった。
一人じゃないから。
私は、私の中のあなたに声をかけた。
あなたは私に返事してくれる。
たとえ、この精神病棟の中、どれだけ長い間、一人で置かれていても。
私には、あの子が、あなたがいる。
私は、私たちは、一つだ。

あとがき

暗い話ばかり書いてしまいますが明るい人です

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