どっから目線のお利口なんだよ!

小学校の同級生に柚木さんという女の子がいた。
彼女とはその後、高校まで一緒だったけれど中学ぐらいからそんなに話さなくなった。
クラスや一緒にいるグループが変われば、まあそうなるよね。これって女子あるあるなのかな?

柚木さんに関して今でも印象的なことがある。
それは私達が小学5年生の秋。
夏休みが終わってしばらくしてからの出来事。

その時、学年全体で「秋の風景」みたいな題材で絵を描く宿題があった。
なんか知らないけれど、当時の先生達がこぞって力を入れていたので、もしかしたら教育委員会とか父兄参観とかそういったことがあったのかもしれない。覚えてないけれど。
先生達は口酸っぱくして絵の宿題の提出を呼びかけた。
なかには出さなかった生徒もいたけれどほとんどが提出。別に絵の上手い下手なんてどうでも良くて、とにかく「提出すること」が大人たちの関心事だった気配があった。

柚木さんは優等生で、賢く、優しく、気遣いができ、先生の言う事をよく聞く、教師から好かれるタイプ。
そんな彼女があろうことか、絵を提出しなかった。なんでも、39度近い高熱が出て絵を描けなかったらしい。彼女はとても健康なイメージがあったので、私は「珍しいな」って思った。


だがしかし、優等生はこれでは終わらないのよ。


絵の提出期限の2.3日後に体育館で学年集会が開かれた。その終わりに、主任の先生が1枚の絵を高く掲げ、大きな声でこう言った。


「これは熱で休んで描けなかった柚木さんが描いた絵です!39度の高熱の中こんなに上手に描いたんですよ!すごいですね!皆も柚木さんを見習いましょう」。


当の本人はまだ体調を崩していて欠席。学年主任の言葉に倣うように、他の先生達も口々に柚木さんを褒め称え始めた。
学年集会が終わっても、「みんな、柚木さんを見習うように!本当に体調が悪い中、こんな絵が描けるなんて素晴らしいです!」と先生達は異口同音に言うわけ。
周りがどう思ったかわからないけれど、私はこう思ってた。


バカじゃないの?
体調悪いんだから休ませなよ。
そんなことさせるから柚木さんは欠席続きなんじゃない?


39度の高熱がある子どもが自ら進んで絵なんて描くだろうか?


あの教師達は自分が同じような高熱があっても絵を描けるのか??


柚木さんは教師を含めた大人たちの期待に応えたんだろう。
本当はしんどくて、ただひたすら寝ていたい中、お見舞いという体裁で家まで来た担任の発する言葉の言外の思惑を敏感に察知し、親からの勧めもあって病身をおして描いたんだろう。
柚木さんが描いた絵はけしてうまいとは言えないものだった。まあ、普通というか。
だけれども、彼女の絵は先生達が作ったなんとか賞をとり、しばらく玄関に飾られていた。


でも、そんなこと柚木さんは望んでいたのか?


彼女は教師達に褒められたくて絵を描いたんじゃない。
大人達の期待に応えただけだ。恐らくそこに何の感情もなかっただろう。
きっと柚木さんは小さな頃からそんな風に生きてきたんだと思う。


彼女は優等生になりたかったわけじゃない。
優等生でいないと周りの大人が納得しなかったんだろう。


可哀想だな、と、あの時も思ったし、児を持つ親になった今もそう思う。

教師達の中に「柚木さんを休ませては?」と言う人は一人もいなかったのか?
閉ざされた学校社会は旧態依然としている、という話は保護者間でもよく聞くが、そういった圧力があったのかなかったのか今でも気になる。
もし、教師の誰一人として柚木さんの行為に違和感を持たなかったのなら、


あいつらやばくねーか?


何が教師だよって鼻白んじゃうね(笑)。
「おりこうだね」ってよく大人が子どもに使う言葉だけど、それって誰都合の「おりこうさん」なのかしら?
大人の都合をよく聞けば「おりこう」で、そうじゃなければ違うわけ?大体、どっから目線なんだよって感じよ。

柚木さんは教師からの期待に応えることが時々しんどそうに見えた。
その歪みなのか、高校生の時には小学校時代の輝きが失せ、地味で見た目に気を使わないオタク女子みたいになってた…。いつも髪の毛や肌がベタついているというか。
勉強もそんなにできているようには見えなかったし…。

無理をさせれば必ず歪みが出る。
大人でもできないことを子どもにさせんじゃねーよ!
「もし、うちの息子にそんなことさせたらその教師と学校をマスコミに訴える!」と夫に話すと、「長男も次男も優等生じゃないから大丈夫」って返された(笑)。
育て方間違えてなかったわ♡

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