杉森窓

脚本家志望。 シナリオコンクールによく挑戦していますが小説も書きます。 SSや恋愛小説…

杉森窓

脚本家志望。 シナリオコンクールによく挑戦していますが小説も書きます。 SSや恋愛小説の連載をnoteで書いていきます。 魔法のiらんどでも同作品を掲載しています。 →魔法のiらんどhttps://maho.jp/users/15591670281202250385/works

最近の記事

最後の恋になればいい・22話(最終話)

21話はこちらから↓ 1~21話をまとめて読むならこちらからでも↓ 天気予報を見てのことなのか、高速道路にはいつもよりも車が多い、気がする。それでもなんとか進んでいたけれど目的地まであともう少しというところで車は完全に停止する。重体だ。 「くそ」 思わず出かけた舌打ちをこらえて、俺は窓の外の雪を見た。 * * * 二次会を終えて店を出ると、道には雪が積もり始めていた。私は女友達二人と、駅までの道を歩く。 「楽しかったね~」 「ね」 「芽生、今日は泊ま

    • 最後の恋になればいい・21話

      20話はこちらから↓ 1~20話をまとめて読むならこちらからでも↓ やっと俺の番が回って来て、ガソリンを入れ終えた店員が息を切らして走ってくる。 「4312円になります!」 元気よくそう言われ、俺は小銭を数えるのも面倒で財布に偶然あった五千円札に感謝して速攻で渡す。店員は笑顔で受け取ると走り去り、お釣りと箱ティッシュを持ってまた戻ってくる。 「こちらお釣りと、粗品になります。どうぞお気を付けて!」 「……どうも」 受け取ったティッシュの箱にはゾウの写真が載っている。俺は一

      • 最後の恋になればいい・20話

        19話はこちらから↓ 1~19話をまとめて読むならこちらからでも↓ もう何年もこの店に通っているけれど、店番を任されたのは初めてだ。勝手知った店内でもカウンターからの景色はいつもと違って見えて、少し心が躍る。 晃の真似をしてグラスを拭いてみたりシェイカーを振ってみたりしていると、カランコロンといつもの呼び鈴が鳴って、俺が店長代理になってから初めてのお客さんが入ってくる。 「は~外寒~。マスター、ビールお願いします!」 言いながら入ってきたのはさおちゃんだった。寒いのにビー

        • 最後の恋になればいい・19話

          18話はこちらから↓ 1~18話をまとめて読むならこちらからでも↓ 式場に着くと、見知った顔が受付をしていた。結局、コートの下に青いドレスを着た私は久しぶりに会う彼女たちに少し緊張しながら受付へ向かう。 「綿貫芽生です」 「はい、綿貫……って芽生!? やば! 超久しぶり!」 顔を上げた友人たちと目が合う。二人は大学時代にサークルが同じだった同級生だ。気軽に話す仲ではあったけれど卒業後も連絡を取り合うほどではない、そんな仲だ。 「久しぶり。元気だった?」 「元気元気! でも

        最後の恋になればいい・22話(最終話)

          最後の恋になればいい・18話

          17話はこちらから↓ 1~17話をまとめて読むならこちらからでも↓ 最近うるさかったからか、ケンと二人だけの店は随分静かに思える。ケンだってよく喋る方なのに静かに感じるなんて、俺は大分綿貫や結城に毒されていたらしい。 「晃はどっちに賭ける? 芽生ちゃんがヨリ戻すか戻さないか」 「知らねえよそんなん」 「冷た~。動物園デートした仲だろ。芽生ちゃん、元カレと別れてから一番楽しかったデートだって言ってたぞ~」 「は? 何それ、誰情報」 「さおりちゃん」 「……あ、そう」 なんだ

          最後の恋になればいい・18話

          最後の恋になればいい・17話

          16話はこちらから↓ 1~16話をまとめて読むならこちらからでも↓ いよいよ東京を発つ日がやってきた。発つと言ってもほんの数日で帰ってくるのだけれど、私にとっては人生の一大事と言ってもいいくらい、大きな出来事だ。 バスの運転手に乗車券を見せ、バスに乗り込む。席に着いてしばらくするといバスが発進して、私は窓の外を眺めながら、だんだんと近付いてくる地元の景色のせいか、あの頃がフラッシュバックしてくる。 あれは、ある日の大学の帰り道のことだったっけ。 自転車を押して、私と卓也

          最後の恋になればいい・17話

          最後の恋になればいい・16話

          15話はこちらから↓ 1~15話をまとめて読むならこちらからでも↓ テレビでは明日からの山梨の天気を憂いている声が聞こえる。 「山梨の方では今日の夜から雪が降り始め、朝には積雪30cmを超える大雪となる見込みです。また、強い風も伴い、交通機関に影響が出る可能性があります」 私はそんなアナウンサーの声をBGMに、壁に掛けたドレスを眺めていた。並んでいるのは青とピンクのドレス。Bar OLIFANTで行った投票では圧倒的に青が人気だった。 「青の方が良いってわかってるんだけど

          最後の恋になればいい・16話

          最後の恋になればいい・15話

          14話はこちらから↓ 1~14話をまとめて読むならこちらからでも↓ いつもBar OLIFANTで見ている置物の何十倍も大きな実物のゾウが、目の前にいる。間抜けな着ぐるみ姿でゾウの展示を眺めると言うのもなんだかシュールだけれど、ゾウの展示の前ではゾウがゆっくりと一歩ずつ歩くのと同じように、穏やかな時間が流れていて、こういうのもありかもしれないと思い直す。 「私動物園大好きなんですけど、ちょっとトラウマだったんです」 「ふーん。なんで」 二人ともゾウの方しか見ていないからな

          最後の恋になればいい・15話

          最後の恋になればいい・14話

          13話はこちらから↓ 1~13話をまとめて読むならこちらから↓ 「ペンギン! カワウソ! カピバラ! ウサギ~!」 綿貫が展示された動物にいちいち走っていく。 こいつ、子供より子供らしい反応してんじゃねえか。 少し呆れながらも、まあこれくらいはしゃいでくれた方が来た甲斐があるのかもしれないと思い直して、走りはしないけれど、綿貫についていく。 「あんた全部に反応しないと気が済まねえのか」 丸めた園内地図で綿貫の頭をポンと叩くと、どうやら我に返ったのか、風船がしぼんでいくよう

          最後の恋になればいい・14話

          最後の恋になればいい・13話

          12話はこちらから↓ 1~12話をまとめて読むならこちらからでも↓ きっとマスターなら断るだろう。その私の予想は大きく外れ、私とマスターは日曜日の朝っぱらから、動物園のチケット売り場前で白い息を吐きながら体を縮こませている。 マスターの眉間には皺が寄っている。優しいから断れなかったのだろうと思うと申し訳ない。 「……なんか、すみません」 「何が」 「あ、いえ。付き合わせて」 「あんたが悪いわけじゃねえだろ。で?」 「で、とは」 「なんで動物園なわけ。俺今日この後仕事なんで

          最後の恋になればいい・13話

          最後の恋になればいい・12話

          11話はこちらから↓ 1~11話をまとめて読むならこちらからでも↓ その数日はずっとふわふわした心地で、いつ出社していつ退勤していつベッドに入ったのかも覚えていない。気が付けば瞬間移動みたいに、私はBar OLIFANTに来ていて、マスターとさおちゃんと里見さんに、卓也から来たメールのことを相談していた。 「どう思いますか……」 「ん~、とりあえず今元カレに彼女はいないってことでいいんじゃない?」 「だな」 「でもどういうつもりなのかはよくわかんないよね。だって今まで連絡

          最後の恋になればいい・12話

          最後の恋になればいい・11話

          10話はこちらから↓ 1~10話をまとめて読むならこちらからでも↓ 学生の頃は体育の、特にマラソンなんて大嫌いだったけれど大人になった今になって走るのって楽しいのかもしれないと思い始める。 ドラッグストアでチラシを見つけたジムには週三回通っている。お決まりのランニングマシーンで目標のキロ数まで走り終わると、顔見知りになったインストラクターに話しかけられる。 「綿貫さん。この後のヨガ、一人空いたんだけど入る?」 「わ、ほんとですか! 是非! 入りたいです」 「じゃあ入れとく

          最後の恋になればいい・11話

          最後の恋になればいい・10話

          9話はこちらから↓ 1~9話をまとめて読むならこちらからでも↓ 俺の店はいつからバーからクラブになったと言うのか。 「ということで始まります! 2022年、冬のファッションショー!」 マイクを持ったケンが立ち上がり、客からは歓声が飛ぶ。 なんでこんなことに……。 そうは思いつつ客からの注文を無視するわけにもいかず、俺は一人カウンターで酒を準備する。そんな俺を綿貫の友達・結城が面白そうにニヤニヤと見てくる。 「ご機嫌斜めですか?」 「当たり前だろ。人の店イベント会場みたいに

          最後の恋になればいい・10話

          最後の恋になればいい・9話

          8話はこちら↓ 1~8話をまとめて読むならここから↓ それからと言うもの、私は自分磨きに専念した。美容室に行って髪を整え、ネイルサロンで爪をピカピカにする。ありったけのカクテルドレスを試着してどの色、どの形のものが自分に似合うかチェックしてもらい、今はさおちゃんと共に、マッサージに来ている。 「芽生って恋するとこんな感じだったんだね」 「ん~?」 さおちゃんと私は並んで施術を受けている。あまりの気持ち良さに、おじさんのような声で返事をしてしまった。 「今までやさぐれてると

          最後の恋になればいい・9話

          最後の恋になればいい・8話

          7話はこちらから↓ 1~6話はこちらから↓ 金曜の夜だからか、今日の『Bar OLIFANT』はお客さんで賑わっている。私とさおちゃんは店の中の端っこのテーブルでチビチビとお酒を飲んでいた。木製のテーブルの上に置かれた私のスマホを、お馴染みのゾウの置物が見守るように置かれている。 「で、返事は来たの?」 「まだ」 「お前らここをたまり場にすんな」 「いたっ」 作戦会議のようにひそひそと話していると、新しくカクテルを持ってきたマスターのげんこつをくらう。 お前らって言いなが

          最後の恋になればいい・8話

          最後の恋になればいい・7話

          6話はこちらから↓ 1~6話をまとめて読むなら↓ あれ、おかしいな。 私の部屋は大好きなピンク色で統一されていたはずなのに、この部屋は青を基調とした落ち着いた雰囲気だ。しかし間違いなく懐かしい。私はこの部屋に、昔住んでいたから。 卓也が慣れた様子で冷蔵庫から二つ、缶チューハイを取り出す。あの頃の私はいつでも卓也が家に来て良いように、冷蔵庫にお酒を常備していたっけ。 ベッドに座っている私に、卓也が缶チューハイを渡してくれる。 「彼女4割、大親友2割、お袋2割、姉ちゃん1割、

          最後の恋になればいい・7話