たまご


 冷蔵庫には必ず卵が入っている。じいさんはそれを生のまま割って口の中に入れる。でろん、と吸い込まれていく黄身がこちらを見ている。じいさんの喉を通るのが嫌なのかもしれない。少なくともおれは嫌だ。じいさんの口からは死臭がする。こお、こお、と息を吐く。もうあれは半分死んでいるのだ。

 こわいな、こわいな。

 黄身。黄身は君にはわからないだろうという目でぎろり、うらめしくにらむ。おれもにらみ返す。おれはお前のようにはならない。死からほど遠い、やわらかい人間として、誰にも吸収されることもなく生きるのだ。卵を殺すことを考えていた。割って、混ぜて、焼いた。もうこいつは死んだのだ。おれはそれを頬張る。もうこいつは死んだのだ。おれはそれを頬張る。おれはなにに勝ったんだろう。生でしか食べられないじいさんにか?

わき上がるこの気持ちはなんなんだろう。

 こわいな、こわいな。

 卵は生のと焼いたの、同じ味なんだろうか。

 

 

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