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トリビュート・習作「らりるれりん」

 いつの間にか、眠っていて、夢を見ていた。
 とても幸せな夢だったような気がして、少し肌寒い朝に、ぼくは起き出していきたくなかった。身体を丸めて、夢の温もりを急いで抱きしめたけれど、もうそこにはなかった。
 ぼくはきっちり閉じた布団の中へ手足を目いっぱい伸ばして、爪先が出たのを、少し引っ込めた。頭の中はすっきりしていたから、まぶたを開けているのは辛くなかった。
 何の夢を見ていたんだろう?
 ぼくは夢の跡先を追いかける。
 君がいた?
 青を統べる君が、夢の中で、ぼくと一緒に踊ったんだろうか。
 夢の中で溜めてきた息が、朝へ白く消えていく。

 三車線の広い道路、その交差点。上には高架の道が真っ直ぐに影になって、光が駆けていく。街はうねるように輝いて、広くて広い交差点で踊るぼくらを、直接には照らさない。
 君が踏んだアスファルトは、水面のように波紋を走らせて、青を伝播する。夜は青いのだ、と教えてくれた時と同じ口振りで、君はぼくへキスをして、わざとらしく、足を踏んだ。
 つんのめったぼくを笑う君は、唇に手を添えているから、ずるい。
 ぼくの腕の中で綺麗なターンをしてみせて、絹のドレスの裾がぼくの脚をはたく。君が精一杯に手を伸ばしてみせる姿は本当に美しい。身体を逸らして、決して離すまいと伸ばした、ぼくの手はこんなに無様なのに。鏡に映したように、正反対になるぼくらを、やっぱり君が笑った。

 走る光が、君の横顔を抜けていった時、ぼくは思わず、声を上げて、頬へ手をかざした。零れ落ちる気がしたんだ。何が、というのは分からないけれど、君がとても愛おしくて、損なわれてしまわないようにしたかった。目の前を零れていく桜の花びらへ、手を伸ばす気持ちと同じかもしれない。
君は、ぼくを胸へかき抱いて、ぼくを盲目にしてしまう。だから、背中へ回した手もすり抜けて、君は青そのものになって、街へ駆け出していってしまう。ぼくは君を止められなくて、すごく悲しい気持ちがする。けれど、君には秘密の気持ちだ。言葉にもしないし、表情にも出さない。勿論、ぼくのすることだから、君には分かってしまうかもしれないけれど、ぼくは絶対に君には伝えない。君は、街へ行くべきだから。
 ぼくは君を追いかける。それで充分なのだ。
 青の君は美しい。とても、ぼくの両手で抱いておくには、足りない。

 空を見上げれば、朝が来る。
 夜はその深みを手離して、空を青く染めていく。
 ぼくは君を追いかける。道は一つのような気がしている。
 ぼくは、ぼくの道を真っ直ぐに歩いていく。それが一番の近道で、君の横に至る、最も相応しい道だ、とぼくは思うのだ。

 いつの間にか、眠っていて、夢を見ていた。
 ぼくは飛び起きて、時計を確かめる。
 いつも通りの朝の時間、空は青々と輝いている。
 遅れた目覚ましのアラームが、今ちょうど昨日のぼくを起こした。
 ベッドから出て、顔を洗い、自分を整える。
 ぼくはまだ夢心地が抜けなくて、君が隣にいるような気がしている。手を伸ばせば、君に触れられそうだけど、そこにあるのは、まだ誰かも知らない君へ続く、一本の細い糸なのだった。

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