塾のセンセとスロットと①

小学校の高学年になると親に言われて塾に行かされたんだけど、悪ガキだった俺は塾行ってきます、って言ってイトーヨーカドーのゲームコーナーや田宮のプラモデル屋の外に置いてあるストリートファイターIIとかゲーム屋においてあるサムスピに夢中になってサボりまくってた。

勿論そんなのはすぐに親にバレて、こっぴどく怒られるんだけど。
今じゃ体罰だなんだってうるさい世の中になっちゃったけど、普通に親父にぶん殴られたよね。母親には箒でひっぱたかれたと記憶してる。
悪いのはサボった俺なんだから、当時は特に何も思わなかったけど。時代って変わるものだよね。

で、話は塾に戻るんだけど、T先生っていう若い先生がいたんだ。
多分大学卒業してすぐ位の若い男の先生だったんだけど、その先生が面白い人でさ。今思えば「塾の先生」としては最低なんだけど、授業の時にはロクに授業しないで雑談ばっかりだったんだよね。それも小学生の子供には刺激が強いようなちょっと”やんちゃ”な内容が多かった。
悪ガキだった俺からすると凄いまぶしい世界の事を話してるように思えちゃってさ。パチンコやスロットのこと、競馬や競輪のこと、風俗やキャバクラのこと、麻雀やポーカーのこと。なんだか大人の世界を覗き見たような錯覚で俺はT先生のことが大好きになっていった。

そんなT先生がサボってあんまり塾に来ない俺にある日授業の後に声をかけてきた。
「おい、まだお。お前またサボっただろ。塾長怒ってたぞ。」
「だって友達と遊んだりゲームしたいんだもん。」
「それは分かるけど、もっと上手にサボらなきゃダメだよ。
 お父さんとお母さんにバレたら怒られるだろ?」
今思えばロクに授業しないでギャンブルと女遊びの話ばかりしてた癖に随分と偉そうなことを言うなと思うけど、当時俺はT先生のことが大好きだったから、成程そういうものか、サボるのも上手とか下手とかあるんだと妙に納得したのを覚えてる。
そういやT先生って何の先生だったっけ?算数か社会だったと思うんだけど授業してもらった記憶があんまりないからどうも覚えてないんだよな。

「上手にサボるってどうやんの?」
「ばれないようにサボるんだよ」
「でもどうやってもばれるじゃん」
「じゃあサボっちゃダメってことだよ」
何言ってんだこいつ。結局サボるなってことか。あーあ。なんて思ってたら。
「まだお、お前明日暇か?先生の家来ない?親御さんには俺から連絡してあげるからさ。勉強するって事にして。」
周りのどの大人よりも大人に見えていたT先生から家に誘われて俺はすげぇワクワクしたのを覚えてる。
この年になるまでどの女に誘われるよりもワクワクしたんじゃないかな。

T先生はすぐに親に電話してくれてさ。サボってた分を個別で教えるんで、なんて言ってたと思う。
うちの親がなんて言ったのか知らないけど、電話を切った先生はこう言った。
「な、まだお。こうやって、上手にサボるんだよ。」
なんてかっこいいんだって思ったね。
周りのどんな大人よりも輝いて見えた。

その②に続く。

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